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大学院入試体験記【東京大学大学院 総合文化研究科 広域科学専攻 相関基礎科学系】〜院試学習時の参考書一覧から提出課題の実例、試験成績開示結果まで〜

はじめに

 本記事は東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻相関基礎科学系 2024年度大学院修士課程入学試験(2023年8月実施)の受験体験を記したものです。大学院については大学入試と比べて情報が少ないため情報を公開します。入学試験データと提出課題の実例、試験成績開示結果については有料記事内にあります。

英語(TOEFL iBT)

学部2年の1月(82点)と学部3年の2月(94点)の2回受験しました。英語試験の成績がどのように大学院入試に利用されているかは定かではないですが、70点台で合格している例もあります。私自身としては2年の1月の受験時点で及第点は超えている感覚だったということもありそこまで焦らずに対策しました。2回目の受験時はReadingとListeningは公式問題集を解いて落とさないようにしつつSpeakingとWritingを重点に対策し、Speakingで6、Writingで4スコアを上げることができました。EdAgree (無料、要登録)を利用しました、現在は利用可能かはわかりませんが、当時はSpeakingとWritingの(比較的TOEFLに近い形式の)問題をAIが採点してくれるという優れものでした。


提出課題

(おそらく内部外部に関わらず)志望研究室の先生に見てもらうことが可能だと思われます。研究室訪問をする場合にはその際に見てもらっても良いかもしれません。具体的内容や実際に私が提出したもの(一部改変)は本記事の下部にあります。


筆記試験対策

私自身は6月半ばに院試前最後の学会発表を終えた後から本格的に始めました。勉強時間は(モチベーション維持のためにも勉強を計画的に行うためにも)アプリで記録しており、合計の勉強時間は185時間ほどでした。試験は15問ほどある中から3問選択する形式ですが、当日の問題の難易度のことを考えて、量子力学、熱統計力学、生物物理学、数学の4問が選択可能になるよう対策し、学習時間の配分は物理:生物物理:数学:過去問=100:2:16:65でした。
 以下に使用した参考書や問題集を列挙しますが、参考書や問題集の当たり外れは本当に人それぞれです。名著と巷で言われているものが必ずしも自分に合っているかはわかりませんし、もちろん(私を含めた)他人が良いと言ったものが良いかどうかもわかりません。自分自身で書店等で「中身」を見て選ぶのが一番ですが、その選択肢として見ていただければと思います。

(1) 量子力学

量子力学Ⅰ・Ⅱ (時間に依存しない摂動論まで)
言わずと知れた量子力学の良書なのかもしれません。全ての問題を真面目にこなすのはややハードですが手を動かしながら学ぶことができる点で良いと思っています。

量子力学
学部3年次の量子力学の講義で指定された教科書です。レベルは落ち着いているものの、院試にも十分対応できると思います。

演習しよう量子力学
上位校対策演習書の難易度としては不十分だと評されている場合もありますが、とてつもなく高い点数を狙う場合を除いて(少なくとも総合文化研究科については)この問題集で質・量ともに十分だと思います。

詳解と演習 大学院入試問題〈物理学〉
この本は院試直前に最後の総仕上げとして利用しました。標準的な問題が多く、基礎事項を限られた時間で満遍なく確認することができます。とはいえ、量子力学と熱統計力学の2章で3日間、合わせて11時間ほどかかっています。

(2)熱統計力学

岩波物理講座 ミクロとマクロをつなぐ 統計力学1
A5版100ページほどの非常にコンパクトな本ですが、非常に良い本です。統計力学の知識が(単に単位取得したとかではなく)ある程度身についている人におすすめです。

岩波物理講座 マクロな体系の論理 統計力学2
上記の本の続編ですが著者が違います。個人的には統計力学1の方が良かったようにも思いますが、こちらもミクロとマクロの物理を整理して捉えることを後押しする一冊です。

統計力学 (相転移と臨界現象の章のみ)
相転移と臨界現象の範囲も学習しておいた方が良いと思ったものしっかりした本を学習する時間がなかったため部分的に利用しました。例題も適切にあり、解きながら学ぶことができます。

熱力学・統計力学 熱をめぐる諸相
院試直前に発売されたので熱の部分に目を通しただけですが、熱力学と統計力学が体系的にまとめられていて良かったです。一冊でかなりの範囲を学習できるのも優れもので、院試は終わっていますが引き続き読んでいます。この分野に限りませんが色々な立ち位置の本で学習すると段々とロジックも身についていくように思います。

東大・総合文化 福島孝治先生の演習問題集(学内のみ)
これは完全版は東大の内部生のみ入手可能かと思いますが、この問題集は総合文化の院試には非常に役立ちます。

演習しよう熱統計力学
量子力学でも使用したシリーズの熱統計力学の問題集です。基礎はしっかり固められますがやや不十分なところがあるかもしれないので、他の演習が入った参考書や演習書を使う必要があるかもしれません。(ところで私はあの有名な久保統計をあまり自分に合わなかったために使用しませんでした、このように参考書や演習書は本当に人それぞれです。)

フロー式物理演習 量子統計力学
量子統計力学も時折出題されていたので、問題演習をしながら基礎事項を確認しました。フロー式物理演習シリーズは演習を主体にしつつ基礎を再確認できる書籍が多い印象です。

詳解と演習 大学院入試問題〈物理学〉
こちらは量子力学のセクションにも掲載したものと同じです。

(3)生物物理学

細胞の理論生物学(該当範囲のみ)
出題分野が偏っているので、分野を絞って対策しました。総合文化研究科の教員も著者に入っているこの本は、教養学部の講義、数理生物学の参考書兼教科書となっています。

(4)数学

基礎解析学コース 微分方程式
基礎解析学コース 複素解析
基礎解析学コース ベクトル解析
基礎解析学コース 応用解析
数学科ではないのでやはりまずは「使える」ことが重要なように見えます。私は照明部分には重きをそこまで置かず、例題や演習問題をこなしながら通読しました。いずれも100ページ程度でこなしやすい分量になっています。


(5)過去問

H26−2020の7年分とH25以前の一部を行いました。とは言っても、解答もなくゼミ等にも参加していなかったので、自分自身で解答を作成しました。時間を決めて演習したあとに時間無制限で答案を完成させていました。よく院試は友人との協力が大切だと言う人も多いですし、実際そうなのかもしれないのですが、一番は過去問をじっくり解いて自分で解答を作ることが重要だと思っています。一人で臨んでも特別問題はなかったので(一人で院試に臨んでいる人は)安心してください。

筆記試験当日

大学入試の時にお世話になった人も多いであろう東京出版の月刊誌「大学への数学」風に受験報告を書いてみました(笑)。知っている人にとっては少し懐かしい雰囲気の文体?なのかもしれないですが…
()内は試験開始からの経過時間です。

試験室である駒場キャンパス900番講堂に入室後(-40分)、会場の電球が点滅していて、座席の変更を要求する(-20分)。
試験開始、熱力学統計力学から始める(0分)。Ⅰの熱力学は-pdVではなくてpdVであると理解し少し心配になりながら確認しつつ完答(50分)。Ⅱの統計力学は計算がややしんどく時間をかけて8割解答した時点でとりあえず終了(90分)。やや時間を使いすぎたことに気づいて少しスピードを上げなければと思う(92分)。
量子力学Ⅰ(3)でつまずき、ひとまず3問目へ(105分)。一瞬だけ数学を確認して、生物・生物物理学を特に問題なく完答(155分)。量子力学に戻るがⅠ(3)は結局わからず、独立して解けるⅠ(6)、Ⅱの前半の2問半を解いて試験終了(210分)。試験終了後量子力学の解答用紙に記入した問題番号が違っていることに気づき訂正(220分)。問題用紙と解答用紙の回収に何故だが30分ほどかかり解散(240分)。量子力学4.5割ー5割、熱統計力学8−8.5割、生物物理8.5-9割の合計7割程度と予想。

口述試験

口述試験の試験内容については述べることができないのですが、ここでは口述試験時の様子について述べられる範囲でまとめています。筆記試験合格者数などの入学試験データは本記事下部に記載してあります。
①相関基礎科学系D2グループ(第二希望グループ)
・個人面接、6分(これは希望順位に関わらずD2は全員6分)
・控え室での待ち時間 30分ほど
・zoomにはグループのほぼ全員の教員がいたが、試問者以外はカメラはオフ
・試問者は志望研究室PIのみ。
・試問はなく、面接のみ。
② 相関基礎科学系D1グループ(第一希望グループ)
・個人面接、13分(本来の15分よりはやや短かった)
・控え室での待ち時間 10分ほど
・zoomにはグループのほぼ全員の教員がいた。何人かはカメラはオン
・試問者は志望研究室PIの他1人
・どの人も割とにこやかで、試問はなく面接のみ。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。総合文化研究科を今後受験される方に少しでも有益な情報が提供できたのであれば幸いです。
有料記事部分では入学試験データ(出願者数、筆記試験合格者数、最終合格者数)の情報と実際に私が提出した課題の全文、試験成績開示結果を掲載しています。是非ご覧ください。

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