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「書く」ということ、そして、2020年に読んだ極私的ベスト本

きつい一年だった。

コロナ禍にあって、今年はリアルな取材は数えるほどしかできなかった。
現場を見て、歩き、会いたい人に会って話を聴いて、それらを書き留める。
本業としてきた、この一連の行動が十分にできなかった。
心置きなく取材したい、と何度思ったことか。

だが、座して、嘆いていても、仕方がない。
いま、ここで、できることを始めよう。
そう思って、この場所で書き出したのが、半年ほど前のことだ。

これまで6回の更新に過ぎないけれど、やってよかったと思う。
何より「書く」ということを振り返る契機になった。

知らず知らずのうちに、必要以上に「場」に合わせて書いていたかもしれない。
「形」にも、とらわれ過ぎていたかもしれない。
大事なのは、まずは、書きたいことを、書きたいように、おもいきり書くことだ。
場や形と折り合いをつけるのは、その後からでいい――。

こんなふうに思えた。

書きたいことを、書きたいように、書く。
来年もかくありたい。

*   *   *

2020年に読んだベスト本を、短いコメントとともに記しておく(以下、読了順)。

・ブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)
「エンパシーとは何か」と問われ、「自分で誰かの靴を履いてみること」と咄嗟に返す少年。貧困、レイシズムなど、彼我も変わらない。しかし、希望を受け取った。

・余川典子『お産の話〜上野博正と新宿「めだか診療所」』(SURE)
私がこの世界で働くきっかけをくれた上野さん。彼のパートナーだった余川さんが、その出会いと軌跡を余すところなく語った書。上野さんの写真と、文章もうれしかった。
*上野さんのことは、ここで以前書きました。→上野博正さんのこと――雑誌『思想の科学』とともに

・吉田篤弘『それからはスープのことばかり考えて暮らした』(中公文庫)
荻窪「Title」の店主が新聞コラムで勧めていた小説。静かな世界が心地良かった。こぢんまりとした商店街、小さな映画館、とびきり美味いサンドイッチ屋。こんな街に住みたい。

・河田桟『はしっこに、馬といる』(カディブックス)
馬と暮らすために、日本・最西端の与那国島に移住した著者が、その暮らしを綴る。「NO」と言ってもいい、「すきま」があること…ウマから学ぶことは実に多い。

・カミュ『ペスト』(新潮文庫)
緊急事態宣言発令中から読み始めた。小説で描かれている世界を「現在進行形」と感じながら、読んだ。今も、それは続いている…。

・山尾三省『アニミズムという希望』(野草社)
「自分の木を見つけると、気持ちが楽になる。困った時は、その木に会いに行けばいい」というメッセージに励まされた。ヒトは、木や土、海、太陽と離れては生きていけない。
*同書については、ここで以前書きました。→屋久島で生を紡いだ詩人~山尾三省『アニミズムという希望』から

・田村あずみ『不安の時代の抵抗論』(花伝社)
311後の反原発運動を通して、「手の届く希望」を綴った渾身の一冊。折々に読み返す座右の書になると思う。
*同書については、ここで以前書きました。→路上からのメッセージ~田村あずみ著『不安の時代の抵抗論』(花伝社)を読んで

・梨木香歩『ほんとうのリーダーのみつけかた』(岩波書店)
自分が感じ、考えたことを信用し、それを杖にして生きていけばいい、後悔した経験が支えになるというメッセージに頷いた。鶴見俊輔さんの話も興味深い。

・加藤典洋『オレの東大物語』(集英社)
昨年(2019年)亡くなった加藤さんの遺著。東大在学時代の自身の経験、考えていたことを「オレ」を主語に、「あっけらかん」と綴る。軽い語り口。でも、重い。一日で読んだ。

・島田潤一郎『古くてあたらしい仕事』(新潮社)
ひとり出版社「夏葉社」を営む著者の軌跡と、本づくりにかける思い。「手間暇のかかった、具体的で、小さな声によりそった」本を作り続けるということ。共感することばかりだった。

・『おーい六さん 中川六平遺稿追悼集』
いつも笑顔を絶やさず、「元気?」と気さくに声をかけてくれた六平さん。ほんとうに、多くの人の背中を押してきた型破りの編集者だった。
*六平さんのことは、以前ここで書きました。→「相手の懐に入っていくんだよ」――編集者・中川六平さんの言葉

・よしもとばなな『デッドエンドの思い出』(文春文庫)
5つのラブストーリー。出てくる人物がみな、賢いことに唸った。自身のことも、相手のことも遠く眺めて、接することができるのだ。それが本当の優しさなのかもしれない。

・『京都・六曜社三代記 喫茶の一族』(京阪神エルマガジン社)
創業70年の喫茶店。1代目は起業家のバイタリティーに満ちあふれ、2代目は音楽の才に恵まれ、店を導いていく。そして、3代目は…。店を続けること、その苦労と魅力。

・早川義夫『女ともだち』(筑摩書房)
正邪も善悪も、自分の思いを、正直にまっすぐに綴る早川さんの文章に、ずっとあこがれている。とても美しいのだ。

・坂口恭平『自分の薬をつくる』(晶文社)
2020年は坂口恭平さんに支えられた。彼の本、パステル画、曲、歌、ツイートに。この本もそのひとつ。落ち込んだときは、自分のやりたいことを日課にして、手を動かすこと。

来年も、読みたい本をたくさん読んでいたい。

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