背景

弟への懺悔

「いや、なんかさ、よく分からんのだけど、急に『あなたとはもう付き合えない。別れて欲しい』って言われてさあ。その時は本当にショックだったんよね。」

先日のGWに帰省をした。兄弟姉妹も帰省をしており、毎晩の様に宴をした。全員が良くも悪くも酒豪。両親も酒豪であるが故に仕方がない。

宴も終盤、弟と僕以外は既に就寝していた。夜も相当深くなった場面でその言葉をきいた時、俺は凍り付いた。なんと浅はかな兄だったのだと…


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上記記事でも書いた通り、我が家は在日韓国人の家庭。我々にしか分からないかもしれないが、「帰化」の問題は誰もが一度は頭を悩ます問題だ。本籍はあれど、本国の言語は基本使うことが出来ない。また、本国に戻ったところで生活の基盤もないため、誰もがこのまま日本に永住する事を考えている。特別永住者としての資格ももちろん持っている。


話は数年前に遡る。お盆の帰省の時だった。

いつもの様に開かれた宴の最中、酔った勢いもあり、俺は弟に「質問」をしたことがある。

「何故、お前は帰化をするんだ?」

意地悪な質問だった。弟が明確に答えられないだろうとの仮説の元で放った質問だったからだ。案の定、弟は黙った。そしてそのまま涙を流した。

俺はそれ以上「詰問」することを止めた。


「質問」には種類がある。大きく分類すると2種類。

①相手のための質問
②自分のための質問

①は相手が考えるきっかけを与える創造的な質問であるのに対して、②は自分自身の疑問を確かめたり、自身の仮説の根拠を探すための質問だ。場合によっては尋問にもなりえる。

その時、僕がした「質問」は正に②だった。


結局、弟の真意は分からないまま数年の歳月が流れた。何事もなかったように弟は帰化をした。弟を含めた兄弟姉妹全員も帰化をした。

俺以外を除いて。


正直俺は、その事実が気に入らなかった。

何のために帰化をするのか、明確な理由を誰もが答えられないからだ。

自分自身が両親から「授かったモノ」を丁寧に扱えない、受け入れられない、それでいいのかお前ら。せめて、それはなぜかを明確に説明してくれ。不遇の時代を生き抜いてきた祖父母や両親の想いを蔑ろにするのか。

そんな風に僕は思って「いた」

敢えて過去形で記載したが、今でもそう思っている。日本で生きていく上で特段不便はない。強いて言うならば選挙権がない程度。他の日本人と同じように各種税金を払い、年金を納めている。

民族差別の洗礼を、他の兄弟姉妹と比較をするならば、僕はより多くの差別を受けてきた過去がある。一方、その手の話を兄弟姉妹たちからほとんど聴いた事はない。にもかかわらず…何故・何の為に帰化をする必要があるんだ?

その想いを、歪んだ質問として弟にぶつけてしまっただけだった。


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忠臣蔵に代表されるよう、「義」を通す事が「美徳」とされる文化や風潮が日本にはある。その是非は分からないが、自身を客観視すると、「忠臣蔵的美意識」の中で生きているのだと思う。

また、哲学者の竹田青嗣氏は著書の中で下記のように述べている。

差別される方の人間にも危機がある。(中略) また、自分のアイデンティティ不安を打ち消すために、つい反動的なアイデンティティ形成を行ってしまうこともある。在日コリアンが、しばしば過剰に民族的誇りを強調したり、また、日本人に対して強い敵対意識や対抗意識を持つ場合がそうだ。
 引用:哲学ってなんだ 竹田青嗣 著

上記内容は、少なくとも、多少なりとも自分自身に該当する。でなければ、兄弟姉妹のように帰化することに恐らくこだわらない。民族的要素にこだわっているのは、あくまで俺自身でしかない。その事も分っている。

だが、俺自身は帰化するつもりはない。

両親祖父母がどのような想いで時代を生き抜いてきたのか、その生き様を否定することになるのではないか、どうしてもそのように考えてしまう。少なくとも、両親が亡くなるまでは韓国籍を貫こう。そう俺は決めている。

それが、俺自身のけじめだと「勝手に」思っている。


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ではなぜ、本記事のタイトルが「弟への懺悔」なのか。

冒頭で引用した内容は、長年付き合った彼女から、国籍を理由に別れを切り出された弟の話だからだ。

貧しかった我が家だが、背伸びをして進学した。

親元を離れ生活する弟をもっとも良く理解し支えてくれたのは、紛れもなく彼女だった。僕自身もその彼女と対面した事がある。気立てが良く、知的で思い遣りにあふれる彼女だ。

その彼女から、唐突に別れを切り出されたそうだ。

その理由は、「親の反対」
彼女も渋々の決断だったそう。

弟と彼女が分かれて数年後、2人で食事の機会があった。その際に、なぜ別れを切り出したのかを、彼女から改めて聴いたそうだ。

「時間」が解決してくれたとは言え、その時の2人の心情を思うと、俺はあまりに、あまりにも心が痛む。と同時に、

「何故、お前は帰化をするんだ?」

と、諸々の背景事情も知らないまま弟を責めた自分自身に、言葉にできないくらい腹が立った。普段から「思い遣り」という言葉を大切にしている自分自身が、いかに弟を思い遣れていなかったのかの証拠だ。

自分自身を、本当に罪深い存在だと思った。
何も知らずに、知ろうともせずに、なぜお前は帰化をするんだと尋問を重ねた自分自身に、あまりに腹が立つ。許せない…


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弟へ

当時のお前の気持ちを分ってやれなくて、本当にごめんな。感情的に子どもを叱った親が猛省しながら子どもを抱きしめる様、お前の心を慮っている。

家族・兄弟姉妹と言えど、育った環境が同じだったと言えど、深層の部分で理解できていない部分があるという事を、今回の一連の出来事を通じて改めて理解した。もしかするとそれが当たり前なのかもしれない。

だが、だからこそ、他者であれ関わる人達の「想い」に丁寧に寄り添いたい。そのように改めて自戒したGWの出来事だった。

人間は見た目以上に「痛み」を抱えている。
その「痛み」を適切に捉えられる人間に少しでもなるべく、日々自分自身の言動を省み、人に優しくありたいと強く、強く思う。


おわり


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