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Third Place -心の拠りどころをつくる-

 現代社会を生きる人々は様々なストレスや不安を抱えている。家庭でのストレスや職場での「立場を利用した拒否しにくい命令や目に見えない圧力」というストレス、友人のSNSを見るたびに感じる「私と違って楽しそうで良いなぁ」という不安や孤独。

日々そんなものと戦いながら過ごしている人も少なくないのではないか。

私はそんな人にこそ、いやほぼ全ての人にThird Placeが必要だと思っている。

ではこの、聞いたことがあるようで、よく分からない、でもちょっと分かるような言葉「Third Place」って一体何なんだろう?

◆Third Placeとは

Third Place・・・多様な人々が、社会的な立場はそっと横に置いておき、気軽に集える場所。他の誰かと交流したり、時にひとりで作業をしたり、何にも強制されず自分らしく過ごせる場所。

これがThird Placeである。

様々なプレッシャーから解放され、自分らしく過ごせる場所。私はそんなThird Placeが人生を豊かにすると信じている。

ではこのThird Placeにはどういった特徴があるのだろうか?

(特徴)
空間を作り出すスタッフの存在、中立性、心理的安全性、利便性、コミュニケーション、複数のコミュニティ、社会的平等の担保、フードやドリンク、音楽、適切な単価、利用頻度の高さ、ストレスの少なさ、気軽さ

これらがキーとなる特徴であり、Third Placeは飲食業形態をとる事が多い。

そして、良いThird Placeを生むには、それを作り出すスタッフの存在が必要不可欠だ。

◆Third Placeの鍵を握るスタッフの存在

 Third PlaceをThird Placeとしてワークさせる、その鍵を握るのはスタッフだ。

適切にプライシングされた美味しいものをタイミングよく提供するのは当たり前で、これはThird Placeでなく単なる飲食店でも大前提だ。音楽や照明のコントロールも当然のことである。

Third Placeのスタッフとして大切なのは、

「コミュニケーション能力」
「お客さんの心理的安全性の担保」
「コミュニティ管理能力」
「人間心理の理解力」
「ニーズ察知能力」
「ホスピタリティ」

など、ざっとあげても多岐に渡る。

相手の心理や状況を正しく理解し、あらゆる"対応"をタイムリーに行う事が重要だ。時に会話し、時にはそっとしておく、またある時は既存コミュニティに招待し様々な価値観に触れながら、楽しく過ごしてもらう。どんな時も「その人の望む」時間を過ごしてもらう事が大切なのである。

そしてこの積み重ねが、お客さんの中に心理的安全性やコミュニティへの所属感を生む。

 Third Place型飲食店の場合、その空間内に自分の属するコミュニティをまだ持っていないお客さんにとっては、「スタッフと仲良くなる(信頼関係を築く)事」は「居合わせた他のお客さんと仲良くなる事」より心理的ハードルが低い。

これは、「お店の人だから安心」という心理的作用(お店の人であれ本来は他人なのだけど、そこのスタッフであるという事で、他の一般客よりも安全性が高いと無意識に判断する事)によるものだ。

スタッフはこの作用を正しく健全に利用し、まずは「そのお客さんと自分」という小さなコミュニティを作る事が大切だ。

そして、そのコミュニティの構成を適宜大きくしたり、クローズドにしたりすれば良い。

◆信頼度の高い人からの紹介を人は受け入れやすい

 では、「コミュニティの構成を適宜大きくしたり、クローズドにする」とは一体どういう事か。

これは、人と人とを正しくマッチング(引き合わせ)し、状況次第で新規参入を止めるという事だ。

スタッフという存在は、対Aさん、対Bさん、と自分を介した複数の少数コミュニティを持ちやすい。また、相性が良いと判断すれば、「Aさんと自分というコミュニティにBさんを紹介する」事ができる。(これを勘違いして、誰であろうと人と人を繋ごうとする人がいるが、それは違う。AさんからもBさんからもある程度の信頼を置かれているスタッフが、正しいタイミングで相性の良い者同士をマッチングさせる事に価値があり、それがコミュニティの円滑な成長を促進する。)

つまり、これにはAさんBさんの双方が、「この人(スタッフ)からの紹介なら、話してみようかな!」と思う前提を構築しておく事が大切だ。

また、状況に応じて既存のコミュニティをクローズドにする事も大事だ。

コミュニティには相応しい参入もあれば、そうでないものもある。相応しくない参入は円滑なコミュニケーションを妨げ、心理的安全性を阻害し、コミュニティの質を下げる。焚き火も良いタイミングで、良い薪(乾いた)を入れるからちょうど良く燃えるのであって、ただただ薪をぶち込んでも強く燃えすぎるし、水を掛けると火は消えるのである。

◆紹介が担保するもの

 紹介によって出来上がるコミュニティでは、総じて安全性や質(相性の良さ)が高い。

安全性が高い理由は、「紹介する方にもプレッシャーがある事」「紹介された方にも、紹介者(紹介者の働く店)の面子を汚せない、という適度な心理的プレッシャー」が働く事にある。

「紹介する方のプレッシャー」とは、「紹介する人同士の相性が悪かったらどうしよう?」というもので、紹介者はこのミスマッチが無いように最新の注意を払う。この「注意を払う」がThird Placeで働くスタッフにとって必要不可欠で、双方のニーズや趣味、性格、心理を正しく把握し行動する事がここに含まれる。

「紹介される方のプレッシャー」とは、「下手な事をして紹介者の顔に泥は塗れない」「自分が店に行きにくくなるかも」「紹介された人が店に行きにくくなったら、自分のThird Placeからお客さんを1人奪い、信用を無くすかもしれない」などの類のものである。

つまり、紹介という1つの行動が、実はコミュニティを健全で安全性高く保つための、程よい抑止効果を発揮するのである。

◆Third Place化に失敗している所の特徴

 世の中を見渡してみると、「Third Placeを作りたい(人と人を繋げる場所を作りたいみたいな事を言っていて、そのやり方もあまり理解していなそう)」という人が多くなった。

彼らがThird Placeになれていない理由はいくつかあって、「コミュニケーションが円滑でない」「スタッフがThird Placeをつくる鍵だと理解していない」「現場のスタッフが飲食オペレーション以外のスキルを持ち合わせていなく、それを教えられる人もいない」「店を回すためのアルバイトばっかり採用している」「飲食業形態をとっているのに飲食業が不得手」などが挙げられる。

お客さんの深層心理を理解しておらず、また仮に理解してもどうやって応えるかが分からない状況に陥っている事、もThird Placeになりきれていない大きな理由の1つである。

自分たちのやりたい事が、「Third Placeをつくること」なのであれば、もっとニーズや心理に沿った方法を取るべきなのである。※本来サードプレイスを作る事は手段の1つで、目的はその先にあるはず。

では(少し話が逸れたのだが)、なぜThird Placeが必要なのだろうか?

◆Why Third Place?

①気軽なコミュニケーションが視野を広げる

 1つは、他者とのコミュニケーションにより、自らの視野が広がるからだ。

価値観やバックグラウンドの違う人とのコミュニケーションは、新鮮な気付きや刺激を与えてくれる。

同じ職場の人間との会話でも発見はあるが、「仕事仲間であるが故に新しさがなかったり」「上下関係的要素が色濃く残っている場合、感覚や意見のキャッチボールが行われず、片方が受け身になったり」が多い。

特にこの2つ目の上下関係が残る場合、片方は"気軽"だと思っていても、実際そう思っているのは自分だけで、相手は気軽じゃなかったりする。

もちろん、そこから広がる視野もあるし、相手との関係性が良ければお互い気軽に話ができるが、「社会的立場のもとに行われるコミュニケーションには"偏り"が垣間見える」。

 その点、Third Placeにおけるコミュニケーションには偏りがない(あるいは少ない)

相手へのリスペクトはあるものの、年齢や性別はひとまず置いておき、気が合い、心理的安全性が高いコミュニティメンバーと過ごす。

そして、そこから得た新鮮な価値観は自らの視野を広げ、新たな思考や行動を生んでくれる。

 また、Third Placeでの出会いからパートナーができた、ビジネスが生まれた、なんて事を経験した事がある人もいるのではないか。職場というコミュニティから離れる事で、自分の価値が認められるなんて事もある。

②日頃のストレスから解放される

 2つ目は、家庭や職場というコミュニティからのストレスから解放されるからである。

特に"仕事"という多くの人とって制約のあるコミュニティからは、心理的な疲労を感じる人が多い。そしてそのストレスを職場の人には言えなかったりする。するとそれは、個人の中に溜まり、更なるストレスを生む。

Third Placeではそのストレスから解放される。職場の人間関係を気にする必要がないから、悩みや愚痴も気軽に話せたり、あらゆる相談に乗ってもらえる。

"敵"がいない環境だからこそ曝け出せる自分がそこにはいるのだ。

そして、緊張やストレスから解き放たれると、人の心にはゆとりが生まれるのである。

◆拠りどころになる

 長々と書いてきたが、これを最後の章にしよう。

Third Place・・・これを日本語にすると「拠りどころ」という言葉がちょうどいいのかな、と思う。

食べ物や飲み物、音楽などがツールとなり、心が満たされるサービスが提供されているところ。

心を寄せれるスタッフやコミュニティが存在するところ。

話を聞いてくれたり、アドバイスをもらえたり、時にはそっとしておいてくれて、またある時は自分を笑顔にしてくれる。

気がつくと足が向かっているようなところ。

そんな人々の心の拠りどころ、「Third Place」が増えたらいいな。

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