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スマートニュースを退職してGoogleに移ります

スマートニュースを退職して、10月からGoogle News LabのTeaching Fellowとして仕事をします。ここでは自己紹介を兼ねてスマートニュースでの仕事を振り返りつつ、今後の仕事について書きます。

自己紹介

データ可視化やデータ報道の分野で仕事をしています。新卒で東洋経済新報社に入り、最初はデータベースの開発などをしていました。その後イギリスの大学院でデジタルデザインを勉強し、帰国してからは編集部でデータ可視化を活用した報道コンテンツの制作をしました。夏の気温のインフォグラフィック土地価格の3Dマップ新型コロナのダッシュボードなど、企画からデザイン、プログラム、記事執筆までだいたい1人でやっていました。

大学卒業から東洋経済を退職するまではこちらの記事にも詳しく書いています。

2021年2月にスマートニュースに移り、メディア研究所というグループ内のシンクタンク的な部署でOSS・オープンデータの公開、講演・執筆、本体プロダクトの仕事などを行ってきました。2年弱という短い在籍でしたが、数多くの刺激的な仕事を経験させてもらいました。


新型コロナワクチン対応

スマートニュースに入社した直後は、主に新型コロナワクチンのSquad(スマートニュースでは部署横断的なチームをこう呼ぶ)で、ワクチン接種情報に関するプロダクトチームへのアドバイザリー的な仕事をしました。行政文書の独特な表現やデータ取得時の注意点をPRD(製品要求仕様)に翻訳して、英語話者が大半のエンジニアリングチームに伝えたり、Figmaで簡単なプロトタイプを作ったりしていました。

あわせて、自分でもコードを書いてワクチン接種情報のウェブ版ダッシュボードを作ったりもしていました。


市区町村・選挙区の境界データ加工と公開

2021年秋には、衆議院議員選挙が迫っていたこともあり、報道機関が選挙結果や地域統計のビジュアライズを簡単に行えるように市区町村と衆議院小選挙区の境界線データを加工して公開しました。

「市区町村別の人口密度」「選挙区ごとの投票率」といった地域ごとのデータをビジュアライズする際にはコロプレス図と呼ばれる色分け地図が有名ですが、コロプレス図を作るためには市区町村や選挙区の境界線を持っておく必要があります。

従来から境界データは各種機関より公開されていましたが、モバイル端末でストレスなく描画するためには軽量化が必要だったり、飛び地(ひとつの地域が複数のポリゴンに分かれている状態)の対応といった下処理を行う必要がありました。これらを加工したデータを再公開することで、エンジニアの少ない組織や個人でも簡単に地図のビジュアライズを行えるようにしたものです。衆院選の直前に急いで公開したものでしたが、幸いなことに複数の地方紙やウェブサービスなどで使ってもらいました。

年末にはそのデータの利用例も兼ねて、ふるさと納税のデータと組み合わせた『ふるさと納税「市区町村別」寄付・控除額マップ』を開発しました。前職(東洋経済)時代から作りたかったネタのひとつであり、創作意欲というかコンテンツを作りたい欲が高まっていたので我慢できずに作ったものです。


サブスク「スローニュース」にて「データを伝える技術」連載

2021年12月から2022年4月にかけては、調査報道やノンフィクションのサブスクリプションサービス「スローニュース」にて「データを伝える技術」と題した連載も行っていました。

データ可視化の講義や勉強会をする中で、やはり最も多くいただく質問は「作り方」に関するものです。しかし国内ではまだ類似の資料が極めて少なく、私自身も試行錯誤をしながら勉強してきた経緯があるため、何とか体系的に順序立てて制作工程を言語化できないかと考えて始めた試みです。

ありがたいことに書籍化のお話もいただき、現在は連載の原稿を全面的に見直し、大幅な加筆修正を加えています。ここまでがっつりと自分の仕事を言語化するのも初めてであれば、10万字近くの原稿を書くのも初めてであり、探り探り進めています。


「国会議案データベース」を公開

2022年6月からはJP-Content Groupと兼務を始め、7月には衆議院と参議院の議案などをデータベース化してGitHubで無償提供する「国会議案データベース」を公開しました。

衆議院、参議院の過去20年分以上の議案のデータ、計約1万8000件を収集・整理し、GitHubでオープンデータ化したものです。議案のデータは各院のウェブサイトで公開されていますが、各議案を検索や集計するには1万以上のページにアクセスして情報を集める必要がありました。これを定期的にクローリングしてCSVやJSONで保存しておくことで、研究や報道に役立ててもらうことを意図したものです。

このような「地味」な試みは世間的な注目が少ないのでは、と危惧していましたが、蓋を開けてみればオープンデータ関連のメディアで取り上げられたり、GitHubで計300近くのスターを集めたりと、一定の評価をいただきました。「公開されているけど不便で使いづらいデータ」への対応には、まだ開拓の余地があると感じました。


Google News Labへ

次は何をやろうかなと考えていたとき、前任の古田大輔さん(メディアコラボ代表)にお話をいただいて10月からTeaching FellowとしてGoogle News Labで働くことを決めました。1年契約、最大で2年任期です。報道機関向けにデジタルスキルのトレーニングや、デジタルツールの使い方のレクチャーなどを行います。

もともとデータ可視化やデータ報道に関する情報発信はスマートニュースにいるときから行っており、Google News Lab「デジタル報道道場」にも出演して話したことがあります。日本におけるデジタル報道やデータ可視化の普及はとても意義のある仕事だと思っているので、貢献できて光栄です。

過去4年間でGoogle News Labのトレーニングに参加した方は延べ2万8000人に上るそうです。今では日本においてもFlourishのようなSaaSを使ってインタラクティブなデータ可視化を制作するのは珍しいことではなくなり、日本の報道におけるデジタル化は着実に進んでいるといえます。QGISのような少し複雑なツールを扱ったり、Pythonで簡単なコードを書いてワードクラウドを作るといった発展的なトレーニングもやると面白いかも、という話もしました。

9月の後半、3年ぶりとなるONA(Online News Association)の年次カンファレンスに参加するためロサンゼルスに行きました。私は主に報道コンテンツのビジュアル表現やデータ関連のセッションを聞いていましたが、デジタルコンテンツの制作に馴染みのない記者・編集者向けのセッションも多く、「デジタル」「オンライン」といった言葉で扱われるものが限りなく一般化している印象を受けました。きっと日本においてもデータやビジュアルの扱い方は「一部の専門家が行うもの」ではなく「誰でも作れる・参加できるもの」になっていくでしょう。

ONA2022が開催されたロサンゼルスのThe Westin Bonaventure Hotel

一方で、まだまだ自分でコードを書いてコンテンツを公開したい気持ちも強く持っています。新しい技術や表現技法などを学ぶとまず自分で実践してみたくなるタイプなので、Googleでも個人でも他社との協業でも、何かコンテンツを作ってみたら面白いだろうなと思っています。

講演、寄稿なども引き続きどんどんやってよいと言われています。もしご興味のある方はTwitterFacebookなどでお気軽にご連絡いただければと思います。今後ともよろしくお願いします。



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