2限目『消える日本酒』:日本酒先生
先に謝っておきますが、この時間は、みんなにウソをつきます。
そして、みんなを騙してしまいます。
ごめんなさい。
「俺は絶対だまされへん!」
さぁ、どうかな? ではここに、スーパーで買ってきたA、B、Cという3種類のオレンジジュースをコップに注いだものがあります。
ペットボトル500ミリリットルで、Aは120円、Bは100円、Cは80円です。
さぁ、どれが1番おいしいでしょう?
「Aが高いからA〜」
「おれもそう思うー!」
「うん。A!」
じゃあ、実際に飲んで確かめてみましょう!
「やったー!オレンジジュースや!」
「あかんで、勉強やから」
「勉強でも、オレンジジュース飲めるんやからラッキーやん」
じゃあ、みんな飲んでみて。
どれがおいしかったかは、あとから聞くから、なにも言わずに3種類とも飲んでくださいね。
「オレンジジュース飲めてラッキー!」
「オレンジジュースよりリンゴジュースのほうがよかったな〜」
「あんたら、そんなん言ってんと、ちゃんと飲みよ」
「ちゃんと飲んでるしな〜」
はい。いいですか?
全部飲み比べてもらいました。
では、聞きますね。みんな1回だけ手を挙げてください。
Aが1番おいしかった人ー?
「はーい!」
「はいはいはーい!」
なるほど。30人中20人くらいはAやな。
じゃあ、Bが1番おいしかったって人は?
「絶対Bやし」
「おれもB! 1番甘かったもん」
「先生、だますって言ってたから、ホンマはBがおいしいやつやねんで!」
ほー! Bは3人ですね。
そしたらCが1番おいしかった人は?
「これこそ、先生のだまし」
「私はだまされませんよ!」
Cが1番おいしかったという人は2人ですね。
じゃあ、それ以外の意見がある人は?……3人か。
君たち3人は、どういう意見?
「わたし、全部同じに思いました」
「おれもー」
「ぼくも違いがわからなかったです!」
そうですか、わかりました。
じゃあ、答え合わせをします。
みんなにウソをつくって言ったけど、これ、実は全部、同じオレンジジュースなんです。
「えー!」
「全部、味ちゃうかったし!」
「それがウソじゃないんですか、先生」
ううん。これはホンマなんです。
でも、3人以外は、AとBとC、全部違う味に思えたよね?
全然恥ずかしいことじゃないんです。
先生が、そう思わせるように、騙したんやから。
「どうゆうこと?」
「先生とか関係なしに、おれはAが1番おいしかったです」
うん。わかるよ。そうやねん。
実は、同じオレンジジュースでも、味が変わるんです。
「なにをゆーてるんですか、先生。同じジュースやのに、味が変わるわけないですよー!」
みんなこんな経験はないですか?
鉛筆や消しゴムがなくなったーと思って、めっちゃ探したのに見つからんくって、ふと気付いたら目の前にあった! みたいなこと。
「あるー! おれ、この前、鉛筆なくしたと思って探し回ったのに、普通に机の上にあったし!」
「わたし、メガネをなくしたと思ったら、かけてたってことよくあるよ」
そう。メガネもそうですね。
実は、あのときって、ホンマに鉛筆やメガネがなくなってるんです。
「どうゆうこと?」
思い込みの力。
鉛筆やったら、目の前にないものやと頭で思い込んでるから、どれだけ探しても、目の前の鉛筆は見えないんです。
つまり君たちの、目の前にあるはずの鉛筆は、消えているのと同じことになります。
「あっ、なるほど! そういうことか!」
おっ、気付きましたか?
「はい! 先生が最初に値段違うって言ったから、みんな高いもののほうがおいしいって思い込んだんやと思います」
「それに、『騙します』って先に言われてたから、Aに見せかけてBみたいなだましやと思って、ホンマは同じ味やってことがわからんようになったんやと思います」
「あっ、そういう意味で、味が変わったってことか!」
そういうことです。
だから信じられへんかもしれんけど、「日本酒です」って言われて水を出されても、おいしい日本酒やな〜って感じることもあって、味覚って、実はめちゃくちゃ曖昧なものなんですね!
「へぇー。大人になって、おれが日本酒飲めるようになったら、絶対だまされへんようにしよ〜」
うん。そうやな。みんなも大人になったとき、どれだけ探しても目の前にあるはずの日本酒が見えなくなったら、このお話を思い出してくださいね! 思い込みで日本酒が消えてるだけなのです。
「先生! そこまでいくと思い込みの力じゃなくて、酔っ払いすぎなだけやと思います!」
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