イタリア地方都市の、超オープンで自由すぎる広場。ヨガ、人形劇、露店、フードフェス。何でもあれ。【パドヴァ・ヴェネト州】
こんにちは。ひょんなことから、パドヴァというイタリアの地方都市で院に通っている者です。現地では学生街として名を馳せているところです。(日本だと、ほとんど聞くことがなさそうな街ですが、、)
人口は20万人弱。中央駅から街の端まで一時間くらいの距離でしょうか。規模はそんな大きくないのですが、街中に散らばるバール*1で、学生たちがアペリティーボ*2をしている活発な姿がよく見られますね。
ヨーロッパでよくある「大きすぎず、小さすぎない」「ちょうどいい規模のヒューマンスケールな中小都市」が個人的に好きなのですが、パドヴァもそんな感じです。
つい最近知り合った学生たちと街ですれ違うこともあるし、行きつけのショップの店員さんとは気軽に知り合う。「顔の見える」生活感が良いんですよね。肥大化した大都市圏(東京やニューヨークなど)には、なかなかなさそうな感覚です。
かといって、小さすぎるわけでもないので、毎日顔を突き合わせるほど距離が近いわけでもなく。プライベートと他者との交流のバランスとが、いいあんばいに保たられているな~という印象です。
こんな開かれた街の空気感を支えているのは何か?というと、市民の公共空間があります。例えばここパドヴァは欧州で最大級ともいわれる大きな広場があります。
その名もプラト デラ ヴァッレ(Prato della Valle)!。面積にして約90,000m²という大きさを誇ります。写真だけだと、全容を収めきれないのですが......、
上から見たらこんな感じです。きれいな楕円状になってて、円の外側はカフェやレストランで囲われてますね。上の写真の光景が、ぐるっと一周してる形です!
すごく独特な設計で、日本だとあまり見かけない気がしますね。名前は商用に扱われる大きな空間(Pratum/Prato)+低湿地(Valle)という由来。洪水にしばしば悩まされ、停滞して淀んだ水域なのを1770年代に再設計し、人々の集う活発ショッピングセンターへと変貌させたとか。
中心部の芝生エリアは島(Isola Memmia)となり、水路で覆われています。さらに特徴的なのが、周辺を取り囲む何十もの像!パドヴァという街をつくり上げてきた、歴史的な偉人たちの78体ほどが彫られてます。
死してなお、街を見守り。文字通りの守護聖人みたいな役割をしてるという...。「シティとしてのアイデンティティ」を陰ながら支えてるのが、こうした芸術に依るというのが、なんだかとっても興味深いです。
「歴史的な偉人の像が立ち並んでる」と聞くと、ちょっと近寄り難さも感じちゃいますが。そんなイメージとは裏腹に、ティーンエイジャーなどの若者から大人まで、幅広い世代が朝から晩まで集って賑わってます。
市民たちの「空間活用術」
乗ってきた自転車を石段に預けて、像の柱にもたれつつ本を開いて読書したり。友だちと一緒に芝生に寝転がりながら、日向ぼっこしたり。エネルギッシュな学生の仲良しそうなグループがよく見られもする中、小さい子を連れた親御さんや老夫婦さんもしょっちゅう散歩してたりします。
こちらは、人形劇の様子。ちっちゃい子らがワーワー盛り上がってて、かわいいです。それを穏やかに見守る姿のお母さん・お父さんらしき人も、見ていて和ませる...!日本だと、幼稚園によくやってくる紙芝居のおじさん的な感覚でしょうか。
ヨガやダンスをしてるグループの人らもいます。集う年代もバラバラですね。各々ひとりひとりが好きなように、ありったけの空間を使い切る。「都市」に住む住民としての、なんとも贅沢な魅力ではないでしょうか。
そう、この「空間活用術」に市民は長けています。週末には100以上もの露店が立ち並び、歩行者を賑わせたり。
たまたま出くわしたのが、自家製らしき蜂蜜を売る地元の人のブース。自分たちの活動を展示の形式でアピールし、歩行者とコミュニケーションが生まれるきっかけを自然な形で創出してるのも、またいいですね。
不定期でもいろんなイベントを開催してます。先日は、"International Street Food Padova" という国際色豊かな「食」のフェスティバルに参加してきました。
イベント最終日の夜8時くらいだったのですが、この盛況ぶり!露店の鉄板から湧き出る煙とともに、大勢の人出が行き交うさまが、場を暖めているようですね。
🇪🇸スペインのパエリア、🇦🇷アルゼンチンのステーキ、🇬🇷ギリシャのピタパン、🇲🇽メキシコのタコスなど、世界中の食べ物がずらり。
🇮🇹イタリアのシチリア島で有名なお菓子なんかも並んでいます。
友達と色んなブースを見回りつつ、買った食べ物やアルコールを立ちながら持ち寄ったり...。
もちろん、座るための簡易なテーブル席もしっかりあります。人がいっぱいで空いてない!なんてときも、大丈夫。めちゃくちゃ広い空間なので、奥の方の石段にいくらでも座れるスペースがあります。数百年前に生きた偉人らをとなりにストリートフードをがっつくのも、ノーマルな光景です。
他にも...スケートの競技場にもなるし、新年や夏には花火でも盛り上がる。ワールドカップがあれば、巨大なスクリーンも設置されて大勢で観戦したり。市民の好奇心に応じて、無限に変幻自在しうる空間です。
とにかく「開かれている」のが良い点です。あらゆる老若男女を受け入れ、特定の世代や趣向に偏らない。例えば歴史的な建築物だと、所有した人がやや一方向に「昔はこんなすごい歴史があって~」と語るだけで、聞く人は「へー」となるだけに陥ってしまったりも。
なので、空間をとにかく開かせていく。あらゆる世代、立場の人へ活用させていく。アイスクリームを買った親子が立ち寄る。犬の散歩をしに毎回ここを通るおばあさん。授業終わりのティーンエイジャーたちが集う場。
普段の日常が、特別な一日になる。その瞬間から「この街が好きだ」という自主的な意欲を引き出す。プラト デラ ヴァッレのような広場が市民へもたらしている価値は、目的が先行しがちな都市計画においても、よく考えさせられますね。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?