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「なんとなく」の判断にモヤモヤして、本が生まれた話

3/2に『なぜ君は、科学的に考えられないんだ?』という本が発売になる。この本は、初めて挑戦した「全編小説スタイル」のビジネス書。久々に、この本の企画背景を、いつもながら一筆書きで書いてみようと思う。

ある日の、著者さんとの会話

「本、売れてますか?」
「そこそこ良い感じです!」
「それは目標に対して、何%くらいですか?」
「えっと、それは……」

「御社は電車広告とはやらないんですか?」
「電車広告は金額も大きくてリスクがあるので…」
「どれくらい効果が出れば、赤字にならずに済みますか?」
「それはちょっと、計算したことがないですね」

「なるほど。ちなみに今はどんなPRをしているんですか?」
「新聞広告です」
「それの費用対効果はどうですか?」
「……計測していないので、わかりません」
「それじゃあ、他の広告手法と比較しようがなくないですか?」
「……おっしゃるとおりです……」

内容はちょっと変えてるけど、これは、私がある著者さんと交わした会話だ。その人はデジタル系に強い人だったけど、そうでなくても、業界の外から見たら出版業界は「なんとなく」が多い世界なのではと思う。上のような会話をしたことがあるのは、おそらく私だけではないはず(そうであってくれ)。

そして思った。
「自分、ぜんぜん科学的に考えられてない」って。

クリエイティブを、「数字」から逃げる言い訳にしていないか?

先行きが不透明な時代ということもあり、最近は「デザイン思考」とか「クリエイティブ思考」とかが注目されている。たしかに、発想のジャンプは大切だ。データや実績からの積み上げではたどり着けない、新たな境地はあると思う。「人気の携帯電話の販売実績」とにらめっこしていても、iPhoneは生まれなかっただろう。

でもそれは、データや数字と十分に向き合ったうえで、必要になることだ。直感やセンスを重視することが、「科学的に考える」ことから逃げるための言い訳になっていないだろうか?正直、自分も本の企画を「感覚的」に考える人間なので、人のことは言えない。

そんなモヤモヤを抱えていたときに、著者の松尾さんを紹介された。松尾さんは、原子力などを専門に研究する、現役の研究者だ。ある国立大学の准教授でもある。

研究者の世界は、「科学的に考える」ことと切っても切れない世界だ。とりあえずやってみるとか、なんとなくやめとく、といった判断はない。

「答え」の見えないビジネスの世界と同じように、研究者の世界も、答えがわからないことに挑んでいる。だからといって、闇雲に実験したり、なんとなくで判断したりはしない。「研究者の世界の思考はビジネスに応用できるかも」と思い、書籍企画を提案した。

研究の世界ではPDCAの「C」が大事な理由

制作を進めていくなかで、とくに記憶に残った話がある。それは、「研究者はPDCAのCを重視する」という話。要するに、「なにをもって結果を判断するか」を事前に決めておくことだ。研究者は、正解を探すために実験を行う。その実験は、どのような反応や結果を得るために行うのかが明確でなくては、検証もできないし、次にも進めない。

この考え方は、ビジネスの世界でも大切だと感じた。冒頭のやりとりを例とするなら、「WIN(日販という取次のPOSデータ)で何冊売れるのを目指すのか」「何冊売れたら、重版するのか」「広告を出すなら、書店やAmazonで何冊売れるのを目標にするのか」といったところだ。「仮説をもっておくこと」とも言い換えられるかもしれない。

たとえ目標に届かなくても、仮説があることで、結果を科学的に評価できる。「○%届かなかったから、次は改善しよう」とか「○%達成したから、次はもう少しコストをかけてみよう」とか、次のアクションにつながる。当たり前のようだけど、意外と意識できていない組織も多いのではと思った(そうであってくれないとこの本が売れないから困る)。

よくあるのは、「何度も会議や検討を繰り替えして計画を磨いてばかりいて、なかなか行動できない」「とにかく行動(実行)はするけど、効果測定や振り返りをしないから、次に繋がらない」とか、P(計画)やD(実行)だけを重視する組織だ。

それを否定するつもりはないけど、PDCAはサイクルを回さないと意味がない。A(行動)までたどりつくためにも、科学的な視点でC(チェック)することが重要だ。

松尾さん、無茶ぶりに応えてくれて、ありがとうございました。

ということで、そんな「科学的な考え方」を伝えたくて生まれたのが、この『なぜ君は、科学的に考えられないんだ?』だ。

そうそう、著者の松尾さんは、現役の研究者でありながら、文学賞受賞暦を持つ小説家でもある。そこで、「それなら、全編小説スタイルで届けるのはどうでしょう?」という無茶ぶりをしたところ、「……それは、面白そうですね!」と、ご快諾くださった。松尾さんには、本当に感謝だ。

ということでこの本は、初めて小説を編集する私と、初めてビジネス書を書く松尾さんで、1年かけて作り上げた。「ストーリーと実用性のバランスはどうするか?」「読者は共感できるだろうか?」など、かなり細かに話し合った(あるメディアの記者さんが「めっちゃわかる!と共感しました」と言ってくれたので、頑張ったかいがあった)。ぜひ、多くの人に届いてほしい。

「データとか数字とか、苦手なんだよね〜」という人はもちろん、「いっつも抽象的な判断ばかりしやがって!」とムカついている上司に勧めるのもよし。「なんとなく、やめとく」「なんとなく、続ける」が多い職場に違和感を感じている人が読んで「よかった、私は間違ってなかった」と自己肯定感を高めるのもよし。きっと、いろんな楽しみ方ができるはず。

科学的であることとは、「誰が見ても明確である」ことだ。先の見えない時代に翻弄され、日々行動はしているけど手応えがないという人も、科学的な視点を得ることで、カオスのなかに光を見つけたり、自身の成長を実感できたりするかもしれない。そんな読み方をしてもらえたら、嬉しい。

おわり

『なぜ君は、科学的に考えられないんだ?』
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