ヴァレリー「あしおと」

あしおと


君のあしおと、それは僕の沈黙のこどもたち

厳かに、そしてゆるやかにあらわれては

しずかに冷たく歩み寄る

眠れない僕の寝床のほうへと

君のあしおとが歩み寄る


澄み渡る姿と、恵みの影をたたえて

慎みあるあしおとの、なんと快いことだろう

知らるべき全てのことは、このあしおとに乗って

私にやってくる


もしも、君のくちびるが 

僕のあたまに住む者たちの慰みに

差し向けられるとしたならば

ただ一度のくちづけで

糧を与える気でいるならば


そのやさしいおこないを

どうか急かずにしてほしい

あなたがいてもいなくても、僕は

おだやかに、あなたを待って生きてきたのだし

あなたのあしおとだけが、僕の鼓動だったのだから。


Paul Valéry, "Les Pas", dans "Charme", 1922, trans. Kazuho Tsutsui




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