一般事業会社はお金、士業事務所は人、という収益性の話

前回のこちらの記事からの流れで、じゃあ士業事務所の所長(オーナー)の収益性が良いのか悪いのかをどうやって判断するか、について書いてみたいと思います。

「ビジネス」が「良い」ってどういう状態?

まず最初に、士業事務所に限定せずにビジネスそのものの収益性をどう見るのかについて書きたいと思います。

収益性の話をするには「そもそもビジネスとは何であって」「どうなったら良いと言えるのか」を決めておく必要があるわけですが、ここでは

ビジネス・・・何かに投資をしてリターンを得ること

良い・・・より少ない投資で、より多くのリターンを得られること

として話を進めます。

(もちろん「より短期で投資を回収できること」や「リターンの安定性があること」を"良い"とする観点もありますが、まずは最も基本となる金額ベースの観点で話を進めます)

ビジネスの収益性を見るための指標

ビジネスの収益性を見る最も基本的な指標にROE(return on equity)というものがあります。

return on equityを直訳すると「資本に対する利益」という感じでしょうか。

砕いて言うと「いくら投資していくらリターンがあったか」ということで、上記のビジネスの定義にズバッと当てはまる指標です。

計算式としてはROE=利益/株主資本 となります。

そして通常はこれを分解して

利益/株主資本=(利益/売上高)×(売上高/総資産)×(総資産/株主資本)

の3つの項目で分析していくことになります。

3つの後ろの方から順番に下記のような意味合いです。
(後ろから考えた方がビジネスの順番(元手になる投資と外部資金の調達→資金をまわして売上が発生→経費を引いてリターンが確定)と一致していてわかりやすいです)

・総資産/株主資本・・・元手となる投資である株主資本に対して、どれだけの資金調達(≒借入)をしてレバレッジをかけているか(投資元本の何倍の資金を動かせているか)

・売上高/総資産・・・動かした資金全体で、どれだけの売上を生み出せているか(資金全体を何回転させられているか)

・利益/売上高・・・生み出した売上高に対して、どれだけの利益が出ているか(利益率)

ROEを士業事務所に置き替えると?

上記のROEの解説はあくまでも一般事業会社を対象にしたものです。

このROEを士業事務所に置き替えるには、各項目を士業事務所独自のものに読み替える必要があります。

読み替えるのは「株主資本→パートナー数」と「総資産→スタッフ数」の2点です。

一般事業会社での株主資本は出資金・資本金というお金のことですが、士業事務所での株主資本はパートナー(=経営陣)の人間そのものということになります。

いわゆるスウェットエクイティという考え方ですね。

また、総資産についても同じような考え方で、一般事業会社では生産設備などの固定資産や在庫などの流動資産を合わせた総資産をまわして売上をあげていくことになりますが、士業事務所ではスタッフという人間そのものがまさに生産設備ということになります。
(言い方は悪い気がしますが…)

ということで、

利益/株主資本=(利益/売上高)×(売上高/総資産)×(総資産/株主資本)

を士業事務所用に読み替えると

利益/パートナー数=(利益/売上高)×(売上高/スタッフ数)×(スタッフ数/パートナー数)

となります。

各項目が意味するところは?

・スタッフ数/パートナー数・・・パートナー1人に何人のスタッフをつけてレバレッジをかけているか(パートナーの何倍のスタッフを動かせているか)

・売上高/スタッフ数・・・スタッフ1人がどれだけの売上を生み出せているか(1人当たりの担当可能件数と客単価はどうなっているか)

・利益/売上高・・・生み出した売上高に対して、どれだけの利益が出ているか(経費の大半は人件費→案件に対してどれだけスタッフ構成を最適化できているか)

そして

ROE=利益/パートナー数・・・パートナー1人当たりの利益はいくらか

となります。

ちなみにパートナーが所長(オーナー)1人の場合は、このパートナー1人当たり利益がまさしく所長の利益ということになり、ROEがストレートに所長の収益性を測る指標となります。

自分の事務所でどうしているか?

士業事務所で収益性を高める、つまり「ROE=利益/パートナー数」を高めるには

(利益/売上高)×(売上高/スタッフ数)×(スタッフ数/パートナー数)

の3つに分解して、各項目について改善していくことになります。

自分も実際に全ての項目を常に見ているわけではありませんが、

・自分1人で正社員を何人までコントロールできるかな

・正社員1人で何件まで担当可能かな

といったあたりは定期的に考えて、必要に応じて事務所の仕組みに手を入れるようにしています。
(うちの場合、客単価は一定だし経費率ももともと低いので上記2点だけ考えておけば大体OKという発想)

参考になれば幸いです。

*このへんも詳しくは「プロフェッショナルサービスファーム」に記載されています。

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