「カッパフィールド」 #3
この風変わりな雨ガッパは、河童でも宇宙人でも幽霊でもなく、自分は7次元のスピリットだと言う。私からしたら、河童も宇宙人も幽霊も7次元のスピリットもあまり変わらない。ぶっちゃけどうでもいいけど、なぜ私はテレパシーでコイツやブチと会話が出来るのだろう?
「キミが今テレパシーで会話できるのは、3.8次元のこのカッパフィールドにいるからだよ」
「4次元なら聞いたことあるけど、3.8次元ってなんか中途半端じゃない?」
「キミとボクがコンタクトできるギリギリの次元が3.8次元。それ以上でもそれ以下でもダメ。
ちょっと後ろを振り返ってみて」
後ろを振り返ると、土手の階段に私とブチが座っていた。
「なんで私があそこに座ってるの?私のソックリさんかな?」
「幽体離脱って聞いたことある?」
「幽体離脱知ってるよ。マンガで読んだことあるもん」
「今キミは、幽体離脱してるの。これ以上次元を上げると幽体が肉体から離れてしまう可能性があるから、3.8次元くらいなら大丈夫かなと思って」
「えぅえーーーーー!私、幽体離脱してるって本当に大丈夫なの?ちゃんと元の体に戻れるよね?戻れなかったらどうなっちゃうの?戻れなかったらマジ許さないからね!」
「落ち着いて、落ち着いて。ちゃんと元に戻れるから。それはボクが保証する」
「夕べはこの空間を作るのに苦労したんだよ。雷凄かったでしょう?次元を調整してたら、大気にも影響出ちゃったみたいで」
昨夜のもの凄い雷は、このカッパフィールドを作る事と関係していたの?そしてテレパシーが使える3.8次元という空間を、コイツが作ったっていうのか?
見た感じいつもとなんら変わらないこの土手の原っぱが、3.8次元のカッパフィールドだなんて。そしてそんな所に自分がいるなんて。しかも私は今、幽体離脱しているなんて。なんて日だ!
雨ガッパはあやしさ満開ではあるけど、そんなに悪いヤツでもなさそうだ。とりあえず私は自己紹介をしてみた。
「私の名前はかず。みんなから“かずちゃん”って呼ばれてます。よろしくね。あなたのお名前は?」
「・・・」
さっきまであんなにペラペラしゃべっていた雨ガッパが急に黙ってしまった。テレパシーなど出来なくても、雨ガッパが落ち込んでるのはハッキリ分かった。
そしていきなりキレ気味にこう言ってきた。
「あのさ、ボクは生まれる前のスピリットだって言ったよね!生まれる前なんだから、名前はないに決まってるでしょう。名前っていうのは生まれてはじめてもらえるもんでしょ!!しかも、最初の名前は誰かにつけてもらわなきゃならないの!!!」
私は雨ガッパに名前がない理由を納得した。そして、コイツきっと名前がとっても欲しいんだろうなと思った。
「じゃあ、今日だけ特別に私が名前を付けてあげるよ」
「今日だけ?特別に?」
「うん、そうねえ、じゃーあー、カワタロウね!カッパフィールドのカワタロウ。」
「カワタロウって、響きがちょっと古くね?せっかくならもっとクールな名前がいいっ」
「ダメ、カワタロウで決まり!」
ブチは、私とカワタロウのやり取りに飽きたらしく、カッパフィールドの原っぱでカエルやバッタを追いかけ回していた。
そちらに意識を向けるとブチだけじゃなく、カエルやバッタの声まで聞こえてきた。
「ブチくん、捕まえられるもんならつかまえてみ!こっちだケロ〜」と言いながらカエルがピョンピョン跳ねている。
「ブチくん、私よりも高く飛べるビヨーン?」というのはバッタの声のようだ。
「カエルくんバッタちゃん、今捕まえてやるから見てろだワン」
なんか、ブチとっても楽しそう♡
「誰が一番高く飛べるか競争だケロケロ」
「それなら私負けないビヨーンビヨーン」
ブチも、カエルやバッタを真似してピョンピョン跳ねている姿がとっても可愛い。
「ブチ、負けるなよーがんばれー」
「かずちゃん、オレがんばるワン。絶対に一番高く飛んでやるワン」
しかし高く飛ぶことに関しては、バッタが一番のようだ。
「速く走る事なら誰にも負けないのに。めちゃくちゃ悔しいワン」
「ねぇカワタロウはどうしてカッパフィールドを作ったの?」
「だから、かずちゃんとコンタクトを取るため。つまりかずちゃんに会うためです」
《私に会うため》と言われたことはまんざらでもなかった。
「コンタクトって、さっきもなんかそんなこと言ってたね。でもなぜ私なの?」
「それはキミはボクだから」
???
今日のカワタロウの説明の中で、一番よく分からなかった。
キミはボク?
私はあなた?
私がカワタロウってこと?
それは一体どういうこと?
「何言ってるの、気持ち悪い。って今思ったでしょう?でもボクらは元々一つのスピリットだったんだよ」
やっと私の付けた名前を受け入れたのか、さっきまでの饒舌なカワタロウに戻りノリノリで説明をし始めた。
「ボクらは空にポッカリ浮かぶ雲ように、本来は一つのスピリットだったんだ。その時はキミもボクもなかったんだけど、ある時突然、二つに別れ始めてキミとボクになっていった。そしてキミは『肉体を持って3次元の世界を体験してみたい』って言い出した。そして、雨の雫のようにあっという間に3次元に降りて行ってしまったんだよ。突然自分の半分が切り離されて、取り残されたボクはすごく寂しかったよ」
「だから、かずちゃんとカワタロウのココロは、とても似ているんだね。それで納得したワン」いつの間にかブチがそばにいた。
「ブチ、ココロみえるの?」
「オレはいつも人の話や表情じゃなくて、ココロをみているんだ。あやしいことを考えてる人とかすぐに分かるんだワン」
「さすがブチくん。キミは本当に素晴らしいワンコだね。ココロってまさにスピリットの事だからね」
カワタロウは更に続ける。
「残されたボクは、7次元からかずちゃんのことをずっと見守ってたんだけど、かずちゃん見てたらボクも3次元に生まれてみたくなってきちゃって。へへっ」
「今、私のことをずっと見てたって言った?ずっと見てたの?」
「うん、ずっと」
「学校で勉強してる時も?」
「学校で勉強してる時も!」
「ご飯食べてる時も?」
「ご飯食べてる時も!」
「お風呂に入ってる時も?」
「お風呂に入ってる時も。頭を洗っている時とか後ろ姿をずっと見てたよ!」
「それってヘンタイじゃん!」
「今はボクって言ってるけど、7次元のスピリットは男子でも女子でもないから。それに自分と同じスピリットなんだから別にいいじゃん!」
カワタロウはめちゃくちゃ開き直ってそんな事をを主張しているが、勝手に自分のプライベートを覗き見されるのは気持ちいいものじゃない。
「でも、かずちゃんだって7次元にいる時は一緒に3次元のいろんな人たちを勝手に覗き見してたよ。かずちゃんも3次元でがんばってる人をみて、応援したりしてたよね」
「そんな事覚えてないよ。生まれてくる前の事なんて分かるわけないじゃない」
7次元の世界から見ると、夢に向かってがんばっている人や、人生を楽しんでいる人はキラキラ輝いて見えるので、とても目立つらしい。
そしてキラキラ輝く人たちを7次元の人たちが応援すると、とてもミラクルな事が起こることもあるらしい。
『神様はなんでも見ている』ってよく言うけど、7次元のスピリットたちが見ていたとはね。やっぱり悪い事は出来ないな。
カワタロウは、離ればなれになった私のことが気になって、ずっと見守っているうちに私の3次元の生活がとても羨ましくなり、自分も生まれてくる決意を固め、いったん下見のために次元を降りてきているという事だった。
生まれる前のスピリットたちは、生まれる前に3次元の世界を下見して、どこらへんに生まれるか、どの家の子になるか、そして生まれたらどういう人生を歩むのかなどを、ある程度決めておくらしい。
「ボクは、この3次元でやってみたい事を見つけたんだ」
「カワタロウは何をやってみたいの?」
「たくさんの人を集めてフェスをやる!」
「フェス?フェスって何?」
「フェスっていうのはフェスティバルの略。この時代にはまだあまり使われてない言葉だったね、ゴメン。フェスっいうのはコンサートとか音楽祭みたいなものだよ。たくさんの人を集めて歌を歌ったり、踊ったり、美味しいものを食べたり飲んだりしてみんなで騒ぎまくるんだ。楽しそうでしょ?」
「うん。楽しそうだね」
「そしてたくさんの人を集めるために、ボクはスターになるって決めたんだ」
「スター?ロックスターとかそう言う事?」
「まだ何のスターになるかは決めてない」
「フェスをやる時には、かずちゃんも絶対きてね。そうだ、みんな雨ガッパを来て集まるっていうのはどう?」
夢を語っているカワタロウは、姿は見えないけどキラキラしているように感じた。
同時に私は考えていた。私は一体、何をしたくてこの世界に生まれてこようと思ったんだろう?
「ねぇカワタロウ、ずっと気になってたんだけど、聞いていい?」
「なんでもどうぞ」
「そのヘンなマスクは何?」
カワタロウの着けているマスクは、今まで見たことがないマスクだった。ガーゼではなく紙のようなもので出来ていて、色は緑色というか薄いウグイス色。平面ではなく立体的になっていてモコっとしている。モコっとしている感じは河童の口元のように見えなくもない。それを狙っているのだろか?私にはその風変わりなマスクがブラジャーのように見える。
「ブッ、ブラジャーじゃないからね!ブラジャーを顔に着けてたら本当にヘンタイになっちゃうでしょ!これは2022年のマスク。2020年ごろから、とある事情でみんなマスクをしなきゃならなくて、そのせいでカラフルでいろんな形のマスクが作られるようになるんだよ」
「カワタロウ、2022年に行ってきたの?」
「うん、その頃に大きなフェスをしようと思ってね。でも、2020年より前にフェスした方がいいかもな」
「なんで?」
「それは詳しくは言えない。ゴメンね」
「そう言えばカワタロウさ、2022年に行ったって言ったよね。という事は、1999年に地球は滅亡しないって事だよね。よかったぁノストラダムスの大予言は当たらないんだね」
「ノストラダムスの大予言が当たるのか当たらないのかは、あなた次第です!」
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