肉食獣の懺悔
最近、なんだか自分がすり減ってしまったなと感じている。
大したことをしているわけじゃないし、今の世の中で、ぼくなんかより大変な思いをしている方も沢山おられるだろう、とは思うのだ。
だけど、たまにはたっぷり自分を甘やかしたっていいだろう。
このままじゃ、自分がパンクしてしまう。
今の世の中の何に対して自分はキツいと思っているのだろう?
未来に向けて、希望を見出しづらいのがキツい。
それがたとえ気休めだとしても、未来に何か楽しいこと、明るい兆しを見出せれば、それで頑張れるはずだ。
だけど、ニュースを見ても、人から聞く話も暗い気持ちになるばかりだ。
だから、ぼくはステーキを食べることにした。
肉を食ってやる、しかも赤ワインと一緒にだ。
その夜は雨が降っていた。もう桜の季節も過ぎたというのに寒い。
それでも、ぼくは冬用のコートを引っ張り出して、スーパーにステーキを買いに行くことにした。
気分は肉食獣だ。
雨の降る暗い夜道を、スーパーに向けて猛進する。
普段はスーパーに行くと、目についた美味しそうなものに誘われて、あっちにフラフラ、こっちにフラフラするのだが、その日は肉のコーナーへ一直線だ。
オーストラリア産のサーロインと目が合う。
二つの肉がパックの中に見える。値段は1700円。良かろう、今宵は貴様と夜を共にしよう。
お次は炭水化物だ。パンコーナーへ行くと、半額セールをやっているではないか!
ぼくは狂喜した。
ドーナツもピザも、チーズ入りのバケットも半額だ。
ぼくの頭に悪魔のひらめきが浮かぶ。
主食ピザ、おかずステーキ。
いいじゃないか、たまには。
労働漬けの退屈な日々に俺はじっと耐えてきたのだ。
たまには、やりたいようにやってやる。
帰宅して、フライパンにバターを溶かす。
バターは至福の香りを部屋中にひろげ、フライパンの中には、溶けたバターが泡立ち、一面にひろがっている。
そこに軽く塩をなじませた肉をそっとおく。
片面を30秒づつ弱火で焼き、今度は1分づつを2回。
肉にじっとりと火がはいる。美味そうな焼き色がついたところで肉をあげ、フライパンに残った油に赤ワインを足して簡単なソースを作る。
付け合わせにほうれん草をソテーして、肉にそわせて、上からソースをかける。
赤ワインの準備もした。箱詰めワインで我が家に常備しているセブンイレブンのヨセミテロードのカベルネソーヴィニヨン(安くて、そこそこうまい)をグラスに注いだ。
肉を頬張り、赤ワインを口にする。
そして、追い討ちをかけるように、ピザとチーズ入りバケットを口に放り込む。
そして、静かに全神経を味覚に集中する。
う、うまい
ポテチと赤ワインの組み合わせとは満足感が比ではない。
そのまま、肉を食っては、赤ワインを飲むを数回繰り返すと、数回で夢の時間はあっという間に終わってしまった…
次の朝起きると、ステーキ、ピザ、チーズ入りバケット、赤ワインにぼくの胃は驚きを隠せなかったようだ。俗に言う胃もたれだ。
休日の暴飲暴食を少し後悔しながら、職場につくと、職場のボスから一言
「昨日はゆっくりできたかい?」
一人勝手にやけ食いしてみたけど、残るのは胃もたれだけだ。
結局、人は他者からの優しさにしか癒しや喜びを感じられないのかもしれない。
ステーキと赤ワインとピザでエネルギーをチャージしたその日、ぼくはいつもより人に優しくすることを心掛けたのだった。
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