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短編小説「今日も火星人がやってくる」


昔、人間は地上というところに住んでいたのだそうだ。

でも、200年前くらい前に、ぼくたち人類とそっくりの火星人達が地球に攻めてきて、地球人を地下に追いやってしまったのだそうだ。

地球人と火星人の戦争は、それはそれは激しいもので、地球人は地球上に存在したありったけの核弾頭を使って攻撃したのだけど、火星人達の文明は地球人のそれと比べると格段に進歩していて、核攻撃をはじめとする物理的な攻撃は一切効果がなかった。

地球人の使った核爆弾のせいで、地上は真っ黒い雲に覆われて、やむことのない放射能の雨が降り注ぐようになってしまった。

そして、地球人は、地下に撤退し、かつては地球上に70億人いたとされる人類は、1億人にまで減ってしまった。

それでも、ぼくたちのひいおじいちゃんやおじいちゃん達が、絶え間ない努力で地下世界の生活インフラを整えた。

核融合で作り出した、新たな人工太陽、地下世界に張り巡らされた換気ダクト、地下水を濾過する地下水道、地下の大きな空洞にバイオ工学で作られた地下の森、これらがぼくたちの住む地下世界の欠かすことの出来ない循環システムだ。

この循環システムはアンダーアースと呼ばれていて、ぼくたち生き残った人類は、このアンダーアースを守り次の世代に伝えるのが至上命題だ。
アンダーアースのために、ぼくたちは命を差し出さなければならないし、反アンダーアース派を見つけたら、地下中央警察にすぐに通報しなくちゃいけない。


だいたい以上が地下学校のどこに行っても、初めに習う内容だ。
まあ、習わなくても、みんな知ってることだし、ぼくも友達とわざわざ、あんなこと学校でやらなくてもいいのに、と話している。

でも、こないだ妙な怪文書が街に出回った。

ぼくもリアルな紙を見たわけじゃなくて、掲示板のネットの画像で見ただけ。

そこには、

「そもそも火星人など地球に来てはいないし、火星人と地球人の戦争があったなんて出来の悪いジョークにいつまで騙されている!

君たち貧民層は、地上での生活を許されず、地下の収容施設に投獄されているに過ぎない。

君たちは嘘の歴史、現状認識を植え付けられている。

私達はレジスタンスだ。世界を牛耳る富裕層に立ち向かう為、君達の目覚めを必要としている。

真実を知りたい者は、下のQRコードをマイナスAR方式でスキャンしてくれ。

そこにいくつかの質問がある。

私達が適正者だと判断した者には、こちらから直接アプローチをする。

では、一緒に再び青空を見上げる勇気ある同士に期待する」

と書いてあった。

何が同士だよ、頭沸いてる奴か、愉快犯か。

だいたい学校も社会も、そんな統一された嘘がつけるわけないだろうが。

もし仮に、この怪文書の言ってることが本当だったとしても、ぼくは今の生活を捨てるつもりはない。

この地下世界での生活が、ぼくにとってのリアルなのだから。

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