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宝塚歌劇団月組『応天の門』『Deep Sea ―海神たちのカルナバルー』を観た

ありがとう…走り続けてくれてありがとう…

約1年ぶりにムラの空気を吸いました。もう感謝しかないです。
振り返れば抽選にはことごとく外れ、当たったかと思いきや蒸発…と、昨年からずっと観劇運に見放されていた。そして先日、ようやく、本当にようやくムラでの観劇を叶えることができた。

観た舞台の概要はこちらから↓
月組公演 『応天の門』『Deep Sea -海神たちのカルナバル-』 | 宝塚歌劇公式ホームページ (hankyu.co.jp)


①『応天の門』

●ストーリーについて

こちらは漫画原作のお芝居。原作は過去に途中まで読んだことがあったが、青年漫画らしい噛み応えのあるストーリーが印象的な作品だった。平安時代初期というかなりニッチな時代設定ながら、ところどころ遊びも効いていて読みやすく、何よりイラストが美麗!名作と言われるのも納得だった。
そして主人公と彼を取り巻く女性陣の間にロマンスはほぼ無い(婚約者?は出てくるが)。宝塚での舞台化が決まったとき、嬉しい反面どのようなアレンジが加わるんだろう…と、ちょっぴり胸に不安がよぎった。

その不安は、上演が始まってすぐにかき消された。宝塚歌劇として成立させつつ、原作漫画の空気もしっかりと織り込まれていた。
いくらでも「宝塚ナイズ」できる余地はあっただろうが、原作漫画の魅力である「噛み応えのある」コンセプトはちゃんと踏襲されていた。(上演時間も限られているので)原作のストーリーをスキップしたり、キャラクターの背景をぼかしたりしている点はあったものの、ストーリーは筋が通っていて、シンプルに舞台作品として面白かった。また時代設定は平安時代ながら、政治のドロドロとか、社会の片隅に追いやられた人たちへのまなざしなど、現代にも通じる要素が散りばめられていたのも好印象だった。
ここまでうまくまとまったのは、月組スターさんの力量もあるが、脚本・演出の田渕先生による原作リスペクトがあってこそだろう。観劇後に原作を読みたくさせる舞台は、それほど数はないと思っている。

●スターさんたちについて

トップスター・月城かなとさん(以下れいこさん)は若い菅原道真役。非常に賢いんだけどまだまだ青二才なひねくれ者、というキャラクターを目線と身振り手振りだけで伝えてくるところがさすれい(さすがれいこさん)だった。特にソロパートではトップスターの顔なのに、芝居パートになるととたんに「僕以外全員アホ」みたいな顔になるところが非常に良かった。
なお前述のソロパートはじめ、舞踊や殺陣(手馴れてない演技はしている)パートもあるため、本作品でも十分に宝塚トップスターとしての魅力を味わえる要素はある。ネットでいろいろ意見あるがちゃんとあるからな?
トップ娘役・海乃美月さん(以下うみちゃん)はミステリアスな女主人・昭姫。そう、トップスターのお役とは恋愛関係にならない!妙な恋愛要素ぶち込んでくれなくて本当にありがとうございました田渕先生。
原作では「かつて外国で後宮の女官をやっていて、いろいろあって日本に流れ着いて商売を始めた」という設定があったが、それも語らずとも佇まいや言葉だけで表現できちゃうのはさすうみ(さすがうみちゃん)。気高いながらもちゃっかりしたところもあり、凛々しさの中にキュートな面が見え隠れする魅力的なお役だった。特に大師as結愛かれんさん(以下かれんちゃん、この方も見納め…貴重なセクシーダンサーが…)との絡みが最高にキュートだった。女子会とかやるのかな…

ほか舞台を彩る方々も、スターさんご本人の強みと原作キャラクターの特性がぴったり合わさっていて見事だった。
在原業平as鳳月杏さん(以下鳳月お兄様)は毎度よろしく目線が合った人すべて抱いて骨抜きにしていくし、藤原基経as風間柚乃さん(以下おだちん)は安定の繊細な芝居でとんでもない邪悪さを発揮していた。道真とチーム若者(?)を結成している紀長谷雄as彩海せらさん(以下あみちゃん)白梅as彩みちるさん(以下みちるちゃん)も相変わらず芝居が上手で、セリフがない部分でも「キャラクターらしさ」をチャーミングに表現していた。
個人的にいちばんたまげたのが千海華蘭さん(以下からん先輩)。からん先輩は月組…いや宝塚が誇る名バイプレイヤーで、芝居の解像度が非常に高い。個人的には『桜嵐記』のジンベイ役(芳田はこれを観て月組さん沼に沈んだのだ)とか、『ピガール狂騒曲』のロートレック(アル中の再現があまりにも高すぎて恐怖を覚えた)など、舞台をぐっと上等にする、スパイスのようなおじさん役が非常にうまい印象があった。
からん先輩は今回の公演で退団になるが、ラストのお役はなんと10代前半の帝。おじさんじゃない!とびっくりしたが、そこはさす先(さすがからん先輩)、幼さと純真さ、そして藤原家に操られている感を絶妙に演じ切っていた。ここにきてからん先輩の底力を見せつけられるとは。退団しないで…せめてバウホール主演やってからにして…と観ながら心の中で泣いた。
このほか「応天の門」の中で政をする貴族たち、昭姫の店の皆さん、ほか市井の人々など、もう目を500くらいに増やさないと追っかけられないくらい見どころがあった。ガヤ芝居が上手い舞台は良い舞台!

●お芝居まとめ(というより月組トップコンビが尊い件について)

トップスターとトップ娘役のお役が恋人or夫婦ではない件についてはもろもろ意見があるらしいが、私はそこまでこだわらない派である。
特にれいこさん・うみちゃんコンビはそれぞれが自立して舞台を引張る強さがある(他の組トップコンビもそうだが、月組トップコンビは特に「2人で舞台引張っていくぜ!」感が強く伝わってくる)ので、今回みたいなバディものもはすごくお2人にぴったり合っていて最高だった。
抜群の芝居力と存在感で何にでも化けるれいこさんと、舞台に溶け込みつつ求心力の高いパフォーマンスができるうみちゃんだからこそできる作品。思い返せば昨年上演された『今夜、ロマンス劇場で』や『ブラックジャック』も同じ部類かもしれない。いやぁ…私は大好きですよ『応天の門』
なお恋愛要素は、道真と昭姫ではなく若き頃の在原業平と若き頃の藤原高子がバチクソロマンチックにやってくれるので安心してほしい(何にだ)。


公演限定ジェラート、おいしかったです


②Deep Sea -海神たちのカルナバル-

はじめに言いたい。
月組さんのレビューは地味とか言っていた奴ら、観たかこの作品!?!?
ド派手すぎて体感5分だったぞ?!?!?!

はい、もう、ギラギラバッチバチで最高でした。
特に序盤。これが噂で聞いていた“チョンパ(※暗転から明るくなったら舞台にズラリとスターさんが並んでいる演出)”か!!とひっくり返ってしまった。テンションが上がらないわけがない!!あとはもうジェットコースターのように進むレビューに情緒をかき乱されるだけになった。

『Deep Sea~』、何が良かったって月組スターさん全員にもれなく見せ場がある。そのため印象に残ったシーンすべて書いていくとこの記事が永遠に終わらなくなることから、思い出せる限りダイジェストで書くことにする。

●その1:最も撃墜回数が多かったのはうみちゃん

今回一番ハートをぶち抜いてきたのはまさかの娘役・うみちゃんだった。
まず序盤(S2)からいきなりダイレクトにウィンクを喰らう。もうこの時点でダメ。「デュフェ」みたいな声が喉の奥で鳴った。その後もたびたび出てくるカッコいいお姿に頭を抱え、中詰め(S5)で再びストレートスマイルで殴られて「ンンン”」みたいな声をあげた。
そんでもって後半戦。クライマックスはじめ(S8)の美しいドレスにひれ伏し、あれよあれよという間にデュエットダンスだ~!とワクワクしていたら、まあセクシーなドレスに振り付け!ここでもれいこさんとの「2人で舞台引張って行くぜ!」感がバチバチに生きていて、もう心の中で拝みまくっていた。トップスター・れいこさんは輝きがすごい。それと同じくらいうみちゃんもギラギラに輝いていた。やはり私は強い娘役が好きなようだ。

●その2:若手すごいな…

個人的にレビューの中でいちばん印象的だったのは中詰め終了直後のシーン(S6)だ。演出・稲葉先生のレビューでは度々「若手爆踊りタイム」が設定されるが、今回も例にもれず設定されていた。
中心でグルーヴィを引張っていたのはあみちゃんと礼華はるさん(以下ぱるくん)。お2人とも若手ながらショースターとしてかなり技量が高い。あみちゃんはニッコニコ笑顔とキリリ決め顔を使い分けながら客席を惹きつけるし、ぱるくんは長い手足で舞台の空気を支配してかっちりとシーンを締める。お2人の得意分野はやや異なるものの、上手くミックスされ、一緒に踊る若手の個性も際立った、非常に見ごたえのあるシーンだった。もうル・サンク買って復習するしかない。

●その3:中堅~ベテラン勢もいいぞ

S2終盤の光月るうさん(以下光月組長)白雪さち花さん(以下さちかお姉様)のデュエットボーカルはもうさすがとしか言いようがなかった。あの音源だけでも欲しい。光月組長は本公演で退団ということもありとても寂しく、他のスターさんに撃ち抜かれながらもずっと追いかけていた。所作が丁寧なセクシー組長…あなたにもバウホール主役やってほしかった…。さち花お姉様は歌もダンスも圧倒的で、娘役のダンスシーンで「やたら目を惹く美女がいるな?!」と思ったらたいていお姉様だった。
ちょっと芝居チックなS4は芝居巧者の皆さまが光っていた。芳田が絶対的信頼を置く蓮つかささん・蘭尚樹さんらが絶妙な存在感でシーンの随所をきれいにまとめ、可愛いの権化みちるちゃん・かれんちゃんらが花を添える。雰囲気だけで持って行かない、それが月組のレビュー…。
それといろいろ話題になっていたS7。あれはいけませんね…すけべ過ぎましたね…。鳳月お兄…いや鳳月お姉様の、背中がバーン!スリットシャキーン!なドレス姿、しかもれいこさんとの濃厚な絡みが来るとは…。他の観客もそうだったらしく、鳳月お姉様のおみ足が出る度に周囲の観客が一斉にオペラグラスを構える姿はとても面白かった。まあ私も構えていたんですが。

●レビューまとめ

というわけで、語り出したらきりがないのでここまでにしておく。
カラーこそガラリと変わるものの、『応天の門』も『Deep Sea~』も、ところどころ難易度の高そうな演出が施されていて、だからこそ「月組スターさんたちの高い芝居力」が輝きまくる作品だった。
特に『Deep Sea~』は、スターさんお1人お1人の得意分野を生かした演出になっていたのが良かった。稲葉先生の観たい月組スターさん(百変化のれいこさん・強いうみちゃん・妖艶な鳳月お姉様ほか)像が前に来ていたというか、稲葉先生からの「今の月組スターさんを堪能しろ」という圧(?)が伝わるというか…。とにかくスターさんへのリスペクトが強く感じられた。


そんなこんなで約1年ぶりのムラ観劇、もう大満足だった。
何より明日のムラ千秋楽まで休演することなく走り抜けられただけでもオタクとしてはとても嬉しい。昨年は辛い出来事もたくさんあったが、今年はどうかそういったことがなく、スターさんたちも、演出家さんはじめ舞台・劇場スタッフの皆様も、そして私たちファンも、幸せと思える宝塚イヤーを過ごせることを願うばかりだ。
月組さんから受け取ったキラキラを糧に年度末を乗り切るぞ~!


宝塚歌劇の殿堂にも行きました。アウトロ~!



パンフフレットに寄せられている演出家さん・原作者さん・専門家さんのコメントもリスペクトに溢れてて非常に良いです。読みましょう。  芳田

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