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 [巻物と女] ①

 あの山のてっぺんにある茶屋まで
 この巻物をお届けくださいませ
 よろしくお頼みいたします。

 ~オリジナル物語 第1回~ 作 瀬戸和吉


 五吉(ゴキチ)は、荷役務めをしよる若者じゃ
 ある日
 五吉が詰めとる、荷役屋の受付口に、女がやっ   
 て来た。

 「ごめんください、ごめんくださいませ。」
 詰所の奥で、用事をしておった五吉は、女の
 呼ぶ声に気がつくと、足早に土間の受付口へ
 向かった。
 「へぇ~い、今いきますで。」

 受付口に出て来た五吉の前には、黒髪の長い
 肌白で細身の美しい若い女が、立っておった。

 女「山のてっぺんにある茶屋まで、運んで頂き
   たい物がありまして、寄りました。」
  「お願いできますか?」
 五「勿論、荷受けしておりやすよ。」
  いっていどんな荷でやんしょ!?」
 女「では、はい!こちらの物です。」

 女は、五吉に依頼したい物を、懐から出して
 見せたのじゃった。
 緑色の紙が褪せて、みるからに年期の入った巻 
 物が一つじゃった。

 五「こりゃ~!古そうな、巻物でごぜいますな」
 女「はい!この巻物は、私にとって命より大事
   な物でございます。
   ですので、大切に届けてほしいのです。」
 五「へい!でぇじょうぶですよ。」
 女「荷役料は、おいくらでしょう?」
 五「山のてっぺんまではなぁ、結構な距離じゃ
   そうですなぁ~!?」

 五吉は、まだ山のてっぺんまでは、一度も行っ
 た事がなかったので、少し考えていた。

 女「それじゃ五両で、どうですか?」
 五「五両!!そりゃあもらいすぎじゃあ!!」
 
 五吉は、驚いてそう言いった。

 女「山のてっぺんですし、大切に届けてほしい
   ですので、此でお願いできますか。」

 そう言うと、女は受付台に、小判を五枚置いて
 五吉に、こう伝えだしたのじゃった。

 女「この巻物は、よぉ~狙われるんです。!」
 五「狙われるとは、どういう事でやんしょ?」

 五吉は不思議に思い、女に聞いたのじゃった。

 女「訳はお話出来ませんが、今まで何度となく
   狙われ、危ないめにあってきました。」

 五吉は、少々物騒な話で、不思議に思いはした
 のじゃが、引き受ける事としたのじゃった。
 
 五「そうですか、分かりやした。山のてっぺん 
   の茶屋まで、お届けしまひょ!!」
 女「ありがとうございます。」

 女は五吉に、巻物を渡し荷役屋を出ていった。
 
 五「はて、受けはしたものの、山のてっぺんの
   茶屋までは、二つ峠を越えないかんの~!!」
  「噂では、道中山賊が出ると言うし、こりゃ
   万全で荷役せにゃいかんな。」

 五吉はそう独り言をいいながら、巻物を届ける
 準備を始めたのじゃった。

 ~この続きは次回で~

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