苦手だった男子からの年賀状
年賀状の時期は過ぎていますが、新年を迎えるたび思い出すことがあります。
話はまたもや小学校時代にさかのぼります。
小学校5年生、6年生と同じクラスだった男子がいました。
頭も良くスポーツもできて、色白で爽やか。
顔の濃いイケメンという感じではなかったのですが、モテていたと思います。
しかし、私はその彼Hくんが苦手でした。
優しいオーラを出しつつも毒舌な面があり、特に私にはめちゃくちゃ冷たかったからです。
「好きだからわざと冷たくしていた」という学生時代にありがちなパターンではなく、顔の表情から本当に私のことを好きじゃなかったと思います。
小学校時代の私は、母親の制限で髪を伸ばすことを禁じられていました。
母は精神的な病気を持っており、娘が色気づくと危ない人に拐われるという思い込みがあったからです。
髪型はいつもベリーショート。
元々眉毛が濃く目も細かったので、男の子に間違われることもしょっちゅうありました。
運動会などで女子トイレに入ると、他の保護者に
「ぼく、間違ってるよ。」
と言われたり、母親に連れて行かれた美容室で
「3分刈りでいいですか?」
と美容師さんが母親に確認したりと、ひやひやする体験もありました。
小学生の時って男か女かわからない人をからかう傾向がありますよね。
私はそれに加えて暗かったので、特にクラスでは好かれていませんでした。
6年生の学芸会でお遊戯メンバーに選ばれ、ピンクのドレスを着る機会がありました。
まるで男子が女装しているような風貌だったと思います。
その衣装のまま教室でスタンバイしていた時には、隣の席のHくんに笑いながら気持ち悪がられました。
また別の日の親子レクリエーションでは、Hくん親子と一緒にバドミントンをすることになりました。
私の母が来なかったので、Hくんのお母さんが気遣ってくれたのかもしれません。
バドミントンのシャトルを打ち返せなかった私にHくんは
「下手くそ!」
と言いました。
Hくんのお母さんはそんなHくんに怒り、
「ごめんねー。」
と私に優しく声をかけてくれました。
小学校を卒業すると同時にHくんは地方へ引っ越すことになります。
正直私はホッとしました。
田舎なので学校の数が少なく、そのまま進級すると同じ中学校に行くことになるからです。
今後、からかわれることもなくなると思いました。
しかし中学1年の冬休み。
新年があけてポストに年賀状の束を取りにいった時、その中の1枚を見て固まりました。
Hくんからの年賀状でした。
誰かと間違ったのかな?と宛名を見ましたが、間違いなく私の住所と名前が書いてありました。
中学生の男子とは思えないとても綺麗な字で
「元気か?中学校どう?」
と書かれています。
どういう気持ちで書いたんだろう。
同級生みんなに出したんだろうな。
返した方がいいのかめちゃくちゃ悩みました。
もし返したら、
「こいつ返してきた」
とバカにされるのでは?という、ひねくれた考えが頭に浮かびます。
それほどHくんとの日々のやりとりは、私の心に嫌な気持ちとして残っていました。
悩んだ結果、その日だったか何日か経ってからだったかは忘れましたが、
「年賀状ありがとう」
と返しました。
その数日後、遊んだ友達の中に小学校の同級生がいたので
「Hくんから年賀状来たよね?」
と聞いてみました。
みんなに出しているのか知りたかったのと、他の人だったら素直に返すのか気になったからです。
しかし返って来た答えは
「来てないよ!」
でした。
他に確認するほど仲の良かった子がいなかったのですが、なぜ私に届いたんだろうと再び疑問が浮かびました。
そして翌年。
またもHくんから年賀状が届きます。
「去年は年賀状ありがとう!」
と書かれていました。
1度で終わると思っていたので、私はまた悩みました。
連続になったことで、もしかしたらという気持ちも何%か芽生えました。
しかし、本当に私に興味があれば年賀状ではなく普通に手紙を出して来るのではないかと思います。
考えられる理由は、4つありました。
1.小学校時代の私へのきつい言葉を反省して申し訳ない気持ちで送っている。
2.Hくんのお母さんが気にかけてくれて、出してあげなさいと言っている。
3.引っ越して寂しい思いをしているので、絡みやすい私に送っている。
4.優しくすることで、私が落ちる姿をからかおうと思っている。
この中のどれかかなと思いました。
さすがに中学生で4はないかなと思いましたが。
はっきりした理由はわからないけれど、何か懐かしく思うことがあるのかもしれない。
私はまた年賀状で返事を出しました。
そして、その年の12月の終わり。
連続で年賀状をくれたHくんを思い出し、私からも出そうかなと考えるようになっていました。
たった2通の年賀状ですが、私のHくんへの苦手意識は少しだけ薄れていました。
もしかしたら、きっとまた届くと調子に乗っていたのかもしれません。
翌年、Hくんから年賀状は届きませんでした。
やっぱりからかわれたのかなと、再び苦手意識が大きくなりそうでした。
しかし新しい土地で友達ができて、私に絡む必要もなくなったのなら良かったのかなと思います。
謎だった2通の年賀状。
気まぐれで送ってくれたものだったとしても、嫌な思い出が少し薄くなり、不思議な感覚で心の中に残っています。
狙ったのかはわかりませんが、ただ苦手なだけの印象で終わらせなかったところが、Hくんの賢さなのかなと思います。