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似顔絵を描いたのは私じゃない

小学3年生か4年生の頃の話。

私は頭が良くなかったけど、授業中の先生の質問に対しては正解がわかっている方だったと思う。(特に国語に関しては)

ただ自分の解答に自信がなく、間違ったら恥ずかしいと思っていたし、人前で声を発するのも発表するのも苦手だった。

先生に当てられるのはもちろん怖かったし、自分から手を挙げずに済むのならわかっていてもあえて挙げなかった。

当時担任だったA先生は、男性で確か50代くらいだったと思う。(小学生から見るその年代の大人の年齢はよくわからなかった。)

A先生は、私が正解をわかっているのに、あえて手を挙げないのを見抜いていた。

ある日の授業中。

答えはわかっていたけれど、私はいつものように挙げなかった。

しかしA先生は

「かずちぃさん」

と私の名前を読んだ。

私、手をあげてないのに…。

そう思ったけれど、わかっていた解答を答えた。

A先生は

「なんでわかっているのに、手を挙げないの。」

と言った。

私は喋らない子だったので、何も答えなかった。

また別の授業中、やっぱり私は手を挙げなかった。

A先生はまた私を指名した。

わかっていたのに手を挙げなかったと気付かれたら、また注意される。

そう思った私は、わざと時間を溜めてから解答した。

A先生は

「わかっているのにわざと遅く答えたでしょ。」

と言った。見抜かれていた。


そんな私の性格がある日、裏目に出た。

少し記憶は曖昧だけど、1年生から6年生の全クラスで、各クラス1枚ずつ校長先生の絵を描いて提出することになった。

コンクールのようなものだった。

私は図工の時間に絵を描くのが好きで、クラスの中でも割と知られていた。

しかし全く上手ではなかったし、何かを見て描くことしかなかったので、人の顔を想像して描くのは無理だった。

校長先生に何度か会ったことはあるけれど、もっと絵の上手な人はいたし、まさかそんな重大なことを私に頼まないだろうと思っていた。

ところがA先生は、私を指名して

「描きなさい。」

と言った。

私は本当に描けないと思ったから、勇気を振り絞り、描けないと答えた。

何回言われても、描けないと答えた。

けれど普段の授業中でのやりとりがあったので、A先生は

「本当は描けるのに、また描けないふりをしている。」

と言った。

本当に描けないのに‥。

半泣きの私に先生は、泣いたふりをしていると思っていた。

何度断ってもわかってもらえず、私も受け入れるしかなかった。

画用紙を持ち帰り、家で描いて翌日提出することになった。


家に帰宅した私は、机に画用紙を広げたまま描けずに困っていた。

どうしよう…と泣いていると、気付いた母に

「どうしたの!」

と言われた。

「絵を頼まれたけど、描けない。」

と答えると、

「何で描けないのに引き受けたの!」

と怒られた。


すると、横から母が鉛筆でサラサラと輪郭を書き始めた。

校長先生の顔はたぶん入学式で見ていたと思う。

そのたった1回なのに、あまりに似すぎていて驚いた。

結局ほとんど母が描き、私は少し加工する感じで仕上げ、翌日持って行った。


A先生は

「ほら、やっぱり描けるでしょ。」

と嬉しそうに笑っていた。

本当は私が描いたんじゃない。そう言いたかったけど言えなかった。


絵を渡してホッとしたのも束の間、後日私を悩ませる展開になった。

学校の全体朝礼がテレビ放送で行われ、その中で私の提出した校長先生の絵が表彰されてしまったのだ。

最優秀賞だったか忘れたけれど、とにかくすごく似ているということで選ばれてしまった。

クラスのみんなにも上手すぎると言われ、A先生も誇らしげな表情をしていた。

もう本当に言えなかった。


結局言えないまま私は卒業することになる。

15年以上経ってからA先生と電話する機会があったけれど、その時も言えなかった。

今さら言っても覚えていないだろうし、覚えているとしたら言わない方が先生も幸せだろうと思った。

けれど私の罪悪感はしばらく残っていて、今でも時々思い出す。

絵を頼まれたあの時、どうするのが正解だったんだろう。


今では笑い話でネタにもなるけれど、それでもやっぱり先生ごめんねと思う。

クラスのみんなよりも、先生にごめんなさいと思う。

描けなくても似てなくても、何か描けば良かったのかな。

どうしても鉛筆が動かなかった。


A先生は連絡を取っていなかった数年以上前に亡くなったけれど、小学校の記憶の中では1番好きな先生だった。

いつも上下青いジャージ姿で、優しく話しかけたり、怒ってくれたりした先生。

似顔絵の罪悪感を思い出すたび、先生のことを思い出す。

けれどこうやって思い出すきっかけになったから、あの時の出来事も悪いことではなかったのかなと思う。

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かずちぃ/Webライター
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