UN06 国連機関の採用プロセス:面接試験
国連機関の職員の採用選考の第三段階は面接試験だ。通常、筆記試験の上位3~4名を対象に行われ、面接の時間は30~45分のことが多い。事務所までご足労頂いて対面で実施することもあるが、最近はオンラインで行うことも多い。面接試験の後、レファレンスチェックと幹部の決裁を経て採用予定者が決まり、健康診断の結果をもって正式な採用通知が出される。
僕が所属する機関では、面接をする側は3~4人の質問と採点を行う面接官と、人事担当者、それから面接の公平性を期すためのオブザーバーで構成されることが多い。採用マネジャーと人事担当者が、当該職務の面接に適任の面接官を数人選ぶ。募集にかけている職務によって(インターナショナルかナショナルポストか、プロフェッショナル職員かサポートスタッフか、職務のグレード)、面接官となる職員は異なる。プロフェッショナル職員の採用だと機関の専門家が面接にあたるし、P4グレード以上のポストだと事務所長や部長レベルの幹部職員が面接に加わることが多い。ナショナルスタッフの採用だと、当該事務所で類似業務を担当しているナショナルスタッフが面接に加わる。
面接の質問事項は、大まかに言えば志望動機の確認、職務に関連する専門知識を問う質問、コンピテンシーに関する質問で構成される。面接の質問や配点は、当該職務の職務記述書に基いて、面接官が協議して決める。質問の数に決まりはないが、面接時間の制約から、6~8つの質問がなされることが多い。
面接官の事前協議で重要なのは、評価対象とする内容、特性を決めることだ。職務記述書にその職務に求められる知識、スキルやコンピテンシーが明記されているが、その全てについて質問することは出来ないので、どうしても選ばざるを得ない。何を質問するかが決まると、過去の質問の例を参考にしたり、人事担当者のアドバイスを受けたりして、質問の言い回しを調整する。評価するのに適した情報を得るのに相応しい質問かどうか、質問の意図が候補者に分かりやすいかどうか等、注意を払って検討する。
さて、実際の面接では、形式的な確認の後、僕が採用マネジャーの場合、候補者にリラックスしてもらうため簡単な会話をする。昨日はよく眠れましたか、とかそういった類だ。
多くの採用面接でそうだと思うけれど、面接の最初の質問は、「どうしてこの職務に応募したのですか」についてだ。面接官が聞きたいのは、おおよそ次の3点だ。
1. 政府・民間企業・研究機関・NGOではなく、どうして国連機関で働きたいのか
2. なぜこの職務を担当したいのか、職務を通じて何を達成したいのか
3. 職務を遂行するのに必要な知識や経験、スキルを有しているか
面接官に好印象を与えたいのなら、明確な志望動機を語ることだろう。「国連で働いて世の中のために役立ちたい」ことは、それはそれで十分立派だが、やや漠然としている。例えば、「女性の雇用促進を通じて、女性が能力を発揮できる機会をより多く作りたい」と言った方が、面接官がメモをとるきっかけになる。
職務に関連する知識を問う質問が2つ、3つあるかもしれない。これは筆記試験の際に十分準備をしたのなら、回答に困ることはないだろう。面接官は勿論、回答内容の専門性や妥当性も評価しているが、重視しているのは話し方だ。候補者が職員として採用された場合、プロフェッショナルスタッフであれば、政府高官と話すこともあるだろうし、国際会議でスピーチをすることもある。質問された事項に関して、ポイントを押さえ、順序良く、分かりやすく話せるかは重要だ。
残りの3~4の質問はコンピテンシー(行動特性などと訳されるようだ)に関するものだ。コンピテンシーは日本で馴染みの薄い言葉だし、概念自体分かりにくいけれど、国連機関の面接に呼ばれたのなら、コンピテンシー面接について事前に知っておくといいと思う。要は、候補者がある状況下でどのように行動・対応するかを問うものだ。「チームがうまくまとまって、仕事上の成功につながった経験はありますか。そのとき、あなたの役割は何でしたか。どのようにチームに貢献しましたか?」とか、「上司がとても締め切りに間に合わない仕事を頼んできたことはありますか?あなたは、その時どう対応したのですか?」といった質問がなされることがある。
コンピテンシー面接の準備で大事なのが、エピソードを多く用意しておくことだ。職務記述書に必要とされるコンピテンシーが10~12ほど示されているので、それぞれについて、自分がうまく行動した(例えば、リーダーシップを発揮した、チームワーク能力を発揮した、コミュニケーションがうまくいった)事例を準備しておくと、スムーズに面接で受け答えできると思う。緊張する面接で、過去の事例を挙げて話してください、と言われても、咄嗟にちょうどいい経験談が思いつくとは限らないし、何度も回答につまった候補者を見てきた。
こちらが用意した質問が終わると、候補者に「何か質問はありますか」と聞く。この時、「いえ、ありません」と答えたのではもったいない。自分の熱意をアピールするのに利用できるからだ。感心した質問を紹介したい。「あなたの機関が出したxxxのレポートを読みました。このようなレポートは、どのように企画して、作成するのですか」「もし私が採用された場合、どのようなチームで働くことになるのですか?そのチームのことを話してください」
候補者が退出した後、面接官が15分ほど候補者の受け答えや総合的な評価について協議する。いくつかの質問への回答内容の良し悪しだけではなく、総体的に候補者が職員として相応しいかどうか話し合う。筆記試験では、採点者によって点数が著しく異なることはあまりない。しかし、面接官によって候補者の印象が異なることが少なからずある。面接の答えに正解はないし、もっと言えば、画一的な採点基準があるわけでもない。面接官の主観を排除することは出来ないけれど、複数の面接官の意見と得点を平均することで、偏りが修正されるのだろう。
全ての候補者の面接が終わった後、面接官の合議で候補者の順位を決める。この後、採用マネジャーと人事担当者の大事な仕事は、面接の報告書(interview panel report)を起案することだ。採用選考のプロセス、方法、筆記試験の結果、各候補者の面接での受け答えの要約、面接官の評価、各候補者の得点(複数の面接官が与えた得点の平均)、候補者の順位を書く。報告書が幹部に承認されると、人事担当者がその後の最高位の候補者への連絡、経歴・レファレンスの確認等の手続きにかかる。
この記事を書いている今、2人の新スタッフがチームに加わるのを待っている。採用プロセス自体は上首尾だったと思うけれど、採用活動の成否はひとえに採用された人材が活躍できるかによる。2人のスタッフが着任し、プロジェクトを担当し始め、成果を出すまで、採用の成否は分からない。
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