『ワンフレーズ』 18話 「久しい連絡」

 何時に帰って来てたの?というお母さんの声を聞いて、ようやく頭が目を覚ました。特に潰れるまで飲んでいたわけでもなかったし、ヨウジの子供だって、見て帰って来たはず。
 僕はスーツだけをカーテンの留め具に綺麗に立てかけて、他人の家のようなソファに寝っ転がっていた。



 居酒屋を出て、ヨウジの家に着いたとき、もう大分夜も遅かったから、リコも子供も すっかり寝てしまっていた。起こさないようにそっと、子供の顔を覗いて見たけれど、僕はそれより、隣ですうすうと猫のいびきのような音を立てているリコのことが気になって仕方なくて、子供の顔なんてひとつも記憶から無くなってしまっていた。リコが寝ているところなんて、見たことが無かったから。



 僕は起き上がろうとすると、まだ眠りの世界へ引っ張られていくように、自分の掌がソファの隙間へ引き摺り込まれていった。時計を見ると、午前十一時をさしている。明日には、朝九時ごろからまた、企業の説明会がある。夕方までには、大学の家の方に帰ろうと思っていたし、寝て起きたはいいもののそろそろ帰る準備でもしなきゃいけない。

 昨日のお酒の匂いがついた白いワイシャツのボタンを外し始めたとき、自分のスマートフォンに一通、連絡が入っていたことに気づいた。
 リコからだった。

 「もう帰っちゃった?」それだけの連絡だった。
 リコから連絡が来ることは本当に久しぶりだったと思う。「まだ帰ってない、実家にいるよ」と返した。三年半の間凍り付いていたリコとのトークルームだ。連絡の通知時間をふと見たら、どうやら十時半過ぎに僕に送っていたらしい。
 「大学戻る前にちょっと会えないかな、」と、返事はすぐに返って来た。僕もすぐに「いいよ、どこで会う?」と返した。「近くのカフェ、車で迎えにいくから、家の前で待ってて」「わかった、じゃあ、そのまま帰り、ついでにバス停前で降ろしてよ」僕はそれだけ送って、急いでシャワーを浴びて、昨日の居酒屋の臭いを落とした。一日実家に泊まるだけだったので、大した荷物は持って来ていなかったし、帰りの服に着替えるだけだった。

 「準備できたからいつでもいいよ」とリコに連絡を入れた。
 「スーツ、くっさ」

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