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東浩紀

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東浩紀の本の感想です
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アメリカはロシアだー座談会「ロシア思想を再導入する」を読んでみた

ウクライナ戦争の開戦の動機を探っていたら、だんだんロシア現代思想に興味が湧いてきました。 今回は座談会「ロシア思想を再導入するーバフチン、大衆、ソボールノスチ」(雑誌『ゲンロン6』2017年に収録)を読んでみました。 参加者は貝澤哉、乗松享平(ロシア文学、思想研究者)、畠山宗明(映画理論研究者)、東浩紀(思想家、ゲンロン編集長)の4人。 問題設定まずロシアと日本のざっくりとした共通点が確認されます。 両国とも近代に遅れて参入し、近代の超克をめざしました。ロシアでも日本の

ウクライナ戦争の動機を考えるー座談会「帝国と国民国家のはざまで」を読んでみた

前回までのあらすじ 戦争に巻き込まれるのはまっぴらごめんということで、ウクライナ戦争を題材にして回避策を見つけることができないかと考えたのでした。まずロシア軍事・安全保障の研究者、小泉悠の著作を二つほど読みましたが、回避策を考えるにも、そもそも2022年2月に開戦しなければならなかったロシアの動機がわからないということでした。小泉は「自分の代でルーシ民族の再統一を成し遂げるのだ」といった民族主義的野望のようなものが動機なのではないかと考えるのですが、しかし2022年2月に開戦

意識と無意識をつなぐ通路ー東浩紀「想像界と動物的通路」を読んでみた

MV『人は夢を二度見る』(乃木坂46)では絶望と希望をつなぐ通路がビジュアル化されていることを記事にしました。 これ↓ 絶望と希望をつなぐ抽象的通路。 抽象的通路といえば東浩紀「想像界と動物的通路ー形式化のデリダ的諸問題」(2000年)(『サイバースペースはなぜそう呼ばれるか+』河出文庫に収録)でしょ、ということで、改めて読んでみました。今回はこの論文をご紹介します。 課題東の問題設定は以下のようなものです。 デリダは、ハイデガーがナチスへ加担したことは理論的に必然だっ

人間にはどんなOSが実装されている?ー東浩紀『存在論的、郵便的』を読んでみた

批評家、株式会社ゲンロン創業者である東浩紀のデビュー作。1998年に新潮社からリリースされた。 脱構築という概念で有名な20世紀を代表する哲学者ジャック・デリダの研究書。研究書であるにもかかわらず、論証のしかたは推理小説みたい。最初から最後まで探偵の推理を観察している感じ。読んでいて楽しい。 博士論文をベースにしているということもあり専門用語多め。わからないところはネットで調べたり読みとばしたりしよう。 問いの一つ一つは研究者ではなくても疑問に思うような身近なことを取り

知覚のシステム図を作成してみるー『存在論的、郵便的』を下敷きに「無人島と砂漠」を読んでみた

はじめに 前回に引き続き國分功一郎「無人島と砂漠 ジル・ドゥルーズ『無人島、その原因と理由』から出発して」(『批評空間』第3期第4号 2002年、以下「無人島と砂漠」)を読みます。 私たちは巨大な謎という沼から抜け出して、明るく晴れた無人島の海辺(千葉雅也)、または砂漠(浅田彰)を目指す。その無人島の海辺と砂漠はそれぞれどんなところで、どんな違いがあるのかという謎を追いかけました。そしてこの二語(無人島の海辺と砂漠)ともドゥルーズのdésertを翻訳したものらしいというこ

葛藤をとりもどせー東浩紀「訂正可能性の哲学2、あるいは新しい一般意志について」を読んでみた

陰謀論、フェイクニュース、ポピュリズムが蔓延したディストピア。 人間がつくってきた世界がこんなにも荒涼としていて、もはやどうすることもできないのなら、AIにもっとましな世界をつくってもらおう。ラッキーなことに、二十数年後には人間より機械の方が賢くなることだし。 現在大きな影響力をもつ論客(落合陽一、ユヴァル・ノア・ハラリ、成田悠輔)たちは、ざっくりいうと、このような考え方に基づき新しい制度、機械に判断を委ねる民主主義(「シンギュラリティ民主主義」)を提案しています。 シンギ

リセットとは殺すことー東浩紀『クォンタム・ファミリーズ』を読んでみた※ネタバレあり

前回読んだ『構造素子』(樋口恭介 ハヤカワ文庫 2020年)から「あなたのまえに『クォンタム・ファミリーズ』がある」と言われたような気がしたので、読み直しました。『クォンタム・ファミリーズ』(東浩紀 新潮社 2009年、河出文庫 2013年)。 構造とあらすじと感想を書きます。 ※以下ネタバレあります。 構造とあらすじ物語外1 2008 葦船、航空機爆破テロ未遂容疑で逮捕。 葦船経歴 1972 東京生まれ 父はサラリーマン、母は主婦、妹一人 1990 東大入学、演劇