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撮影業界の“賃金”を考える|Think Basic #1

撮影は“労働集約型”の産業のひとつです。現場で何かしらの作業を行うことにより、報酬が得られます。

 労働集約型の産業では、人件費の単価というものが、かなり重要な意味を持ちます。今回はそんな撮影業界の定量化、効率化を実現するための基礎となる、賃金にまつわる情報を整理していきます。

1|最低賃金の推移

 日本の最低時給は毎年ずっと上がり続けている。たとえば、東京都の最低時給が、この20年間でどれだけ変化したか?

<東京都の最低時給>
1998年・・・692円
2018年・・・985円

 この20年間で、約1.42倍。1日10時の労働で2,930円、月20日で58,600円、年間では約70万円の差になる。これは日本に限らず、世界の先進国で同じ傾向となっている。

2|世界の平均所得の推移

 平均年収を見ると、まったく変化のない日本。他の国々の給与水準はだんだんと上昇してきており、この20年間で、その差はどんどん開いている。

 2018年、日本の平均年収 $40,000(430万円)に対して、アメリカは$63,000(680万円)。その差は、約1.58倍となっている。

 日本の撮影業界では、少なくとも25年はギャラ単価が変わらないという現実があるが、海外の撮影業界では、定期的に料金が改正されている。最低時給、ギャラ単価の国際比較に関しての資料はこちらをご覧ください。

3|世界の物価水準の推移

 先進国(OECD加盟36ヶ国)の平均値を100として、世界の国々の物価を比較したグラフ。ざっくり捉えると、この20年間で、だんだんと物価の差は収束してきているように見える。

 たとえば、お米1kgが500円で買える時代に受け取る1万円と、お米1kgが1,000円で買える時代に受け取る1万円では、同じ1万円でも価値は異なる。その点を考慮した、いわゆる実質的な評価は、賃金を決める上でも重要な要素となり得る。

4|マネーストックとは?

 日本のお金の供給量を示すグラフ。棒線が日本に出回るお金の総量「マネーストック」、折れ線が東京都の最低時給の推移を示している。両者の上昇率は、ほぼ比例しているように見える。

 ネット上でもいろんな見解が見られるが、ざっくり捉えると、お金の量は毎年増え続けている、と言える。お金の供給量が増えると、当然その価値は「目減り」していく。この点も、最低時給の額面が上がる理由のひとつとして挙げられる。

マネーストックとは「金融部門から経済全体に供給されている通貨の総量」のことです。 具体的には、一般法人、個人、地方公共団体などの通貨保有主体(金融機関・中央政府を除いた経済主体)が保有する通貨(現金通貨や預金通貨など)の残高を集計しています。
出典:日本銀行

5|労働生産性の推移

 ネット上でもいろんな見解が見られるが、賃金水準に関しては、多くの場合が“労働生産性”とセットで語られている。

 世界各国との比較では、まだまだ低迷しているが、時間あたりで見ると、日本の生産性は徐々に向上しているようだ。

 参考までに、映像制作の分野は「サービス業」に分類されるが、業種別で見ると、サービス業全体の労働生産性は下がっているようだ。

 また生産性の高い国々では、比較的、賃金水準も高い傾向が見られるようだ。賃金を上げれば、生産性が上がる?生産性が上がれば、賃金が上がる?さまざまな見解があるが、その両面を推し進めているとも言える、日本政府の取り組みについて、最後にすこし触れておきたい。

6|政府の方針

 2015年より「生産性革命」を重要なテーマに掲げる日本政府は、2020年までの3年間を「集中投資期間」として、そこに毎年ある程度の予算を割り当てている。ちなみに、2018年度の「中小企業生産性革命推進事業」の予算案は1,100億円となっている。

 この分野での政策目標を簡単にまとめると、以下の3点。この目標の実現に向けて、さまざまな補助金や減税プランが用意されているようだ。

・労働生産性を年2%向上
→ IT・クラウド導入に対する支援+補助金
・2020年度までに設備投資額を10%増加(対2016年度比)
→ 固定資産税の負担を減免+補助金
・2018年度以降、3%以上の賃上げ
→ 法人税の負担を軽減

大きな考え方としては、以下の感じとなる。

▶︎ 賃金を上げるためには、生産性の向上が必要。
▶︎ 生産性を向上させるためには、IT化の促進が必要。

6|まとめ

 今回は賃金に影響を与えると思われる要素を以下の4点にまとめて、簡単に情報整理をおこなった。

1. マネーストック (お金の量)
2. 物価水準 PLI(物価の変化)
3. 最低賃金(法律・基準)
4. 労働生産性(IT化率)

 まもなく少子高齢化社会を迎える日本では、今後、海外のスタッフ(労働力)に頼らざるを得ない場面も増えると思われるが、国際的な賃金水準に対応できる業界構造を用意しておくことも重要な課題となりそうだ。

---------- REVIEW ----------

 賃金の話は、ともすればスタッフ側の民主運動(労働者が搾取されている)であったり、逆に商工会議所の抗議活動(高い人件費は払えない)のような企業側の圧力に発展していく性質があるので、冷静に課題に向き合える状況をどう作れるか?がカギになりそうです。

---------- SOURCE ----------

OECD|Average Wages
https://data.oecd.org/earnwage/average-wages.htm

OECD|Price level indices
https://data.oecd.org/price/price-level-indices.htm

内閣府|長期経済統計
https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je15/h10_data07.html

新しい経済政策パッケージについて
https://www5.cao.go.jp/keizai1/package/20171208_package.pdf

マネタリーベース、マネーストック、マネーサプライの違いは?過去推移を調べる方法 https://oneinvest.jp/monetary-base/

最低賃金アップで「生産性が向上する」仕組み
https://toyokeizai.net/articles/-/292603?page=3

日本の労働生産性の動向 2018 |公益財団法人 日本生産性本部
https://www.jpc-net.jp/annual_trend/annual_trend2018_1.pdf

日本の生産性の現状、サービス産業の生産性向上に向けた取組み|イノベーションを通じた生産性向上に関する研究会・財務省財務総合政策研究所
https://www.mof.go.jp/pri/research/conference/fy2017/inv2017_01.pdf

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