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NY留学90’Sストーリーその12

アメリカにはオープンマイクというものがあります。バーやレストランは週末開けの月曜日や火曜日は客の入りが悪いので、素人のパフォーマーを募って2曲ずつぐらい歌わせて、売り上げを盛り上げる作戦です。もちろん純粋に素人の演奏や漫才、あるいは詩の朗読を楽しむ企画のものもあります。当然、素人のパフォーマーは客でもある訳ですから、1人、1、2杯はドリンクを頼むでしょう。ルームメイトのロブが僕をバーに連れて行く、というのはそのオープンマイクの事だったのです。ロブが言いました。「来週の火曜日に行くから、準備しとけよ!」

いよいよ火曜日が来ました。授業が終わって僕は部屋に買いためておいた缶ビールをがぶがぶ飲み始めました。でも緊張のあまり、いくら飲んでも酔えない。もちろん僕はズブの素人ではない。15歳の時からステージに立ってきた。でもそれは地元や日本での話。やはりどんな小さなバーでもアメリカで初めて演奏すると思えば緊張します。

ロブの赤い車に乗ってレッツゴー!大学から車で20分ぐらい行った所にバイユーというケイジャン料理のバーがありました。ケイジャンは南部料理ですね。ザリガニとか食べます。バーに入って出演者としてサインアップします。普通は2曲ぐらいしか出来ないのだけれど、ロブの手回しで大学からたくさんの生徒が見に来ていました。それを察したバーの人は「5、6曲演っていいぞ。」との事。もう気が気では無くてただただ自分の出番を待ちました。

とうとう出番が来てステージへ。「彼は日本から来た学生です!」みたいな紹介があって、とにかく無我夢中でビートルズの曲を中心に5、6曲歌いました。これがウケにウケた!終わってしまえば割れんばかりの歓声。興奮冷めやらず、テーブルの席につくと、いろんな人がこれ飲めよ、と言ってビールの瓶を僕におごってくれる。僕のテーブルは10本ぐらいのビールの瓶で埋め尽くされている。そこで急にガクンと酔いが回ってきました。こんなに飲めるかよ!でもうれしかった。ああ、人種なんて関係ないんだな。本気でうまくやれば、みんなそれを激励してくれる。これがアメリカか!これはいい、と感じました。

ロブも「おお、今日良かったぜ!」と言ってくれる。寮の部屋に戻った時にはもうグデングデンになってベッドに倒れ込み、そのまま気を失ってしまった。(続く)

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