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旧耐震マンションはどこまで大丈夫か?

 リノベーション向けの物件を探していると、旧耐震(きゅうたいしん)の物件を勧められることも多い。ぼくたちは結局、新耐震(しんたいしん)の物件を選んだのだけど、本当のところどこまで大丈夫なものだろうかというのはひととおり調べたので、ここに書き残しておくことにする。

次の「関東大震災」は、どんなものになりそうか?

 ぼくたちは関東在住なので、当面の敵と考えるべきは次の「関東大震災」だ。まずは、内閣府の中央防災会議が出した最新情報から、敵の姿を推測してみる。BGMには「シン・ゴジラ」のサウンドトラックなど合うかもしれない。

・発生確率は、今後30年間で70%、とされている。
 この「30年間」という数字は目安であって、既に関東圏は地震の活動期に入っているのでないかという説もある。きょうあすに揺れたとしても不思議はない。70%という数字も目安だけれど、降水確率が70%ならふつう傘を用意するだろう、そういう程度の数字だとぼくは思っている。

・具体的にどこで起きるか、というのは、「わからない」というのが結論だそうだ。関東圏全体が複数のプレートの上に乗っている非常に複雑な状態のため、内閣府防災会議は起こりえる19ケースをシミュレートし、そのうち最悪のものを被害想定のベースとした。

・その最悪ケース、都心南部直下での想定被害は、家屋61万棟・人命2万3千名が失われる。うち地震の揺れでは家屋18万棟が全壊し、1万1千名が亡くなる、とされている。(これは、夕方かつ風が強く吹いているという最悪のタイミングで発生したら、という想定で、そのケースでは地震の揺れよりも地震後の火災のほうがダメージが大きくなると予想されている。)
 内閣府の参事官が講演会で話していたが、これは最悪のケースであって、実際はもっとずっとましだったね、という結果になるかもしれない、だから最悪のケースだけ考えて諦めちゃったりしないで普段の備えをちゃんとしてほしい、ということを強調されていた。

・地震の規模を示すマグニチュードは、M7相当と推測されている。
 前回の大正関東大震災はM8クラスだったが、それからまだ100年しか経っていない。関東圏でのM8クラス地震は200~400年周期と言われており、いまはM8クラスの先触れとしてM7クラスが何度か発生する時期にあたるだろう(大正関東大震災のときそうだったのと同じように)、というのが、内閣府が採用した学説だった。
 M7クラスというのは、熊本城を崩した2016年春の熊本地震や、神戸をわやにしてしもた1995年初の阪神淡路大震災などが該当する。

もしものそのとき、マンションへの被害は?

 阪神淡路大震災から五年後の時点で、被害を受けた旧耐震・新耐震それぞれのマンションがどうなったか、という民間会社の調査結果がある。首都圏直下型地震への想定として参考にするには、手近に入手できる資料の中ではもっとも適切なものだと思う。

 調査対象となった神戸市周辺の分譲マンション5,261棟のうち、最終的に取り壊し・建て直しが必要になったマンションの割合は、
・旧耐震(築1970年以前) :約11.8%(  366棟のうち43棟)
・移行期(70年~80年まで):約  3.2%(1,811棟のうち58棟)
・新耐震(80年以降)   :約  0.5%(3,084棟のうち14棟)
だった。
 この割合をサイコロの確立で例えれば、
・旧耐震:二個振って二個とも1か2だったら建て替え
・移行期:三個振って三個とも1か2だったら建て替え
・新耐震:三個振って三個とも1だったら建て替え
くらいだ。

 気を留めておきたいのは、これは1995年のデータだということだ。震災当時、1980年築の物件はまだ築15年だった。2018年の現在、同じ物件は築38年になっている。同じ規模の地震に遭ったとして、築15年当時に大丈夫だったとしても、築38年時点では大丈夫じゃないかもしれない。
 さらにいえば、関東圏は2011年の東日本大震災で、震度5弱~6強の揺れをすでに受けている。その後も補修など行ってはいるだろうけれど、建物にそのときのダメージが残っていてもおかしくはない。
 複合して考えると、次に起きる首都圏直下型の地震での被害確率は、上述よりも悪くなっているだろうと想像できる。

(ちなみに、同じ民間会社が東日本大震災での仙台市近辺のマンションに対する調査も行なっているが、建て替えの発生確率は阪神淡路の神戸市よりもずっと小さく、「耐震基準よりも土地・地盤との相関性が高い」と結論付けられている。旧耐震の物件自体が減っていることや、地震の揺れ方の違いもあったのだろう。
…阪神淡路での神戸市を無視して、東日本での仙台市の調査結果だけを持ってきて、「旧耐震でも大丈夫ですよ」という話も、できてしまう。実際、そういうプレゼンをしてくる不動産屋にも会ったことがある。不勉強なのか意図的なのかは分からないけれど、いずれにしても、そういう業者さんとはあまり深いお付き合いはしたくない。)

失われるものは何か?

 ぼくたちが新耐震の物件を選んだのは、要するにはサイコロを振る勇気がなかったからだ。
 マンション自体が取り壊しになってしまうと、リノベーションした分も含めて幾千万円ぶん、丸ごと損をすることになる。物件がなくなってもローンは残る。地震保険だってせいぜい、被災後の新居の家財道具を間に合わせるくらいのレベルであって、ローンの肩代わりまではしてくれない。
 取り壊すかどうかと理事会で云々協議をする余地もなく、地震直後に倒壊というレベルの被害に遭ってしまったら、命を失う危険がある。ぼくだけの命なのならまぁ、団信でローンは返せるんだろうが、家族の命は何物にも代えがたい。
 阪神淡路では、ドミノ様にばったりと倒れたビルもあった。「シン・ゴジラ」でも似たようなシーンがあった、蒲田に上陸した巨大不明生物が、避難しようと部屋の中であたふたしている家族連れを巻き添えに、タワーマンションをばったりと押し倒す光景。(あの映画は本当に怖かった。怪獣映画なんてふだん観ないぼくの妻は、映画館の隣の席で泣き出していた。)

 なので、旧耐震の物件をあえて選ぼうとする方がいらっしゃるのであれば、その方には何度か試しにサイコロを振ってみることを、ぼくはお勧めしたい。…実際にサイコロを振ってみると分かると思うけど、「二個振って二個とも1か2」というのは、案外、出ない。
 旧耐震だけどよい物件というのも沢山あるとは聞くし、そもそも地震は起きないまま100年くらい過ぎてしまうかもしれない。もろもろ覚悟のうえでその物件を選ばれるのであれば、それはその方の選択だ。

以上。