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3.1 三和音(トライアド)の種類とコード表記法

この節では早速、数あるコードの中でも最も基本となる、三和音のコード表記法について見ていきます。

3.1.1 三和音についての概論

本論に入る前に、概論として、まず以下の用語を押さえておきましょう。

「三和音」とは、3つの異なる音を同時に鳴らしてできる和音のことです。英語でトライアド triad とも言います。基本的には、「ルート」「ルートの3度上」「ルートの5度上」の3音を鳴らした和音を指します。いわゆる「ドミソ」の和音がその典型例です。

「ルート」(根音)とは、あるコードの土台となる、一番下にある音を指します。また、三和音の下から2番目、3番目の音をそれぞれ「第3音」「第5音」と言います。第2音、第3音という数え方はしないので注意しましょう。あくまでルートからの度数で呼ぶわけです。「ドミソ」の三和音で言えば、ドがルート、ミが第3音、ソが第5音です。

「コードネーム」とは、三和音などのコードを、音符で書かなくても文字・数字・記号のみで表現できるようにしたものです。ポピュラー音楽やジャズの楽譜によく出てくる、G7とかE♭m7(-5)みたいなアレです。なお、実は「コードネーム」というのは和製英語で、日本以外では通じない用語です。英語では chord symbol と言います(このマガジンでは、この用語を和製英語と分かった上で使用していきます)。

さて、基本用語を押さえたところで、これからコードネームを学んで行く上での注意点を簡単に述べます。

まず、コードネームの表記法にはいくつかの流儀があります。クラシック音楽の楽典のように何もかもがキッチリと決まった世界ではありません。従って、ミュージシャンは、コードネーム表記にいくつかの流儀があることをきちんと理解し、与えられた譜面のコードネームがどの流儀に基づいて書かれていても、戸惑わずにすらすらと読めるようにしておく必要があります。

また、コードネームを表記する際に使用する音名は英語式です。特にクラシック音楽出身の方は、Bをドイツ音名のベー(シのフラット)と勘違いしないように充分気を付けましょう。コードネームにおいて、Bはビーと読み、シのナチュラルを意味します。また、派生音については♯や♭を幹音名のに付加して表記します(F♯、B♭など)。

ちなみに、ジャズ以降に確立された音楽理論上のさまざまな用語も、ほとんどが英語です。そのため、このマガジンでもこれ以降、英語の用語が多くなっていくことをあらかじめ覚悟しておいてください。これまで日本語で学んだ用語の英語表記も必要に応じて触れていきます。

3.1.2 4通りのトライアド

さて、トライアドは、ルートから3度音程を2回積み上げてできるものです。ただし、ここで言う3度は、長3度短3度の2種類に限定しておきます(増3度や減3度などを除外するということです)。

長3度・短3度ってそもそも何だっけ?という方は、ぜひこのマガジンの2章2節を復習しましょう。

2種類あるものを2回積み上げるわけですから、組み合わせの数としては2x2=4通りになりますね。具体的には下記のようになります。

長3度、短3度の順に積み上げる
短3度、長3度の順に積み上げる 
長3度を2回積み上げる
短3度を2回積み上げる

これら4種類には全て名前が付いており、①をメジャー、②をマイナー、③をオーグメント、④をディミニッシュと言います。以下、具体的に見ていきましょう。

3.1.3 メジャートライアド

ルートから長3度 (major 3rd)、次いで短3度 (minor 3rd)を積んだトライアドです。典型的にはメジャースケールの主要三和音として現れます。およそコードというものにおいては、ルートから第3音までの音程が最も重要なのですが、このトライアドでは、ルートから第3音までが長音程(major 3rd)なので、三和音の名前としてもmajor triadと呼んでいます。日本の楽典では長三和音と訳されています。

ルートと第5音の音程は完全5度 (perfect 5th)になります。長調の曲に多く現れる明るい和音です。あらゆるコードの中でもっとも基本的なコードだと言えるでしょう。

コードの表記法としては、「ルートの音名のみを記す」というものが最も一般的です。ただし、これだけだと単純すぎて、コードネームであることが分かりづらくて紛らわしい、というような場合に、「maj」や大文字の「M」を付けたり、「△」を付けることもあります。majやMはmajorという意味で、△はトライアドを表す記号です。ただし、Mという表記は後述の小文字のmと紛らわしい場合もあり、個人的にはお勧めできません。

なお、このマガジンでは、単なる音名と区別するため、必要に応じて「△」を付けた表記を積極的に使用していきます。

読み方としては、単に「C」あるいは「Cメジャー」のように読みます。

繰り返しますが、メジャートライアドは、クラシックでもジャズでもポピュラーでも、最も基本的な三和音です。そしてここが大事なのですが、他の全てのコード表記は、この「メジャートライアド」からどのように違うか、ということを示す形で表記されます。いわば、メジャートライアドは三和音のデフォルトのコードということになります。

3.1.4 マイナートライアド

ルートから短3度、次いで長3度を積んだトライアドです。典型的にはナチュラルマイナースケールの主要三和音として現れます。ルートから第3音までが短音程(minor 3rd)なので、トライアド全体としての名称もminor triadとなっています。日本の楽典では短三和音と訳されています。

ルートと第5音の音程はやはり完全5度になります。短調の曲に多く現れ、暗い和音であると一般に言われていますが、メジャートライアドにはない独自の美しさも持ちます。

表記法としては「ルート音名の次に小文字のmを書く」というのが最も一般的です。このmは必ず小文字で書いてください(大文字のMはmajorの意味になってしまうため)。

その他の表記法として「mの代わりに-(マイナス)を書く」という方式もよく使われています。特にジャズの現場では多いと思います。有名アプリのiReal Proでもこの表記です。余談ですが、このiReal Proは、アドリブ演奏の練習をしたい方には超お勧めのアプリです。ご興味のある方はぜひググってみてください。

その他、mの代わりにminやmiと書かれる場合もありますが、頻度は低いと思います。

読み方としては、「Cマイナー」のように読みます。

3.1.5 オーグメント

ルートから長3度を2回積んだトライアドです。正式には augmented triad と言います。日本では「オーギュメント」という言い方も流通していますが、これは英語の発音に忠実とは言えません。「オーメント」と呼びましょう。日本の楽典では増三和音と訳されています。

ルートと第5音の音程は増5度 (augmented 5th) になっており、これがそのままトライアドの名前にもなっています。音楽の中でどのように使われるかによって、ずいぶん印象の変わるコードです。狭義の全音階(メジャースケールおよびナチュラルマイナースケール)上には絶対に作れないコードで、楽譜上に音符で書くときは必ず臨時記号を伴うことになります。ハーモニックマイナースケールやメロディックマイナースケール上の第3音をルートとして三和音を作るとこの和音になります。

このコードのその他の性質として、ルートを無視してコードの構成音だけに着目すると、「オーグメントのトライアドは4通りしかない」と言うことが言えます。たとえばCaug、Eaug、A♭augの構成音はどれも同じ(C=B♯、E、A♭=G♯)で、ルートが違うだけです。これを1種類と見做すと、下に示すように、全部で4通りしかない、と見ることができます。

表記法としては「ルート音名の次にaugを書く」というのが最も一般的です。また、「augの代わりに+(プラス)を書く」という方式もかなり一般的です。このプラスは「第5音を半音上げる」という意味です。「+5」あるいは「♯5」と書く場合もあります。これらはいずれも読める必要があります。

読み方は「Cオーグメント」のようになります。

3.1.6 ディミニッシュ

ルートから短3度を2回積んだトライアドです。正式には diminished triad と言います。日本の楽典では減三和音と訳されています。

ルートから第5音の音程は減5度 (diminished 5th) となっており、これがそのままトライアドの名前にもなっています。単独で鳴らすと、縮こまった、不安な感じを受ける和音です。「このままでいるのは嫌だ」という感じを起こさせます。メジャースケール上では、階名で言うシレファの和音として現れます。

表記法としては「ルート音名の次にdimを書く」というのが最も一般的です。「dimの代わりに小さい○を書く」という方式もかなり一般的です。この小さい○だけで、diminished triadそのものを表します。

また、マイナートライアドからさらに第5音を半音下げた、という捉え方で「Cm(-5)」や「Cm(♭5)」のように書く場合もあります(diminished triadには、minor triadの性質はほとんどないので、個人的にはあまり好きな書き方ではないのですが……)。やはりこれらの表記はいずれも読めなくてはなりません。

読み方は「Cディミニッシュ」のようになります。

補足として、diminished triadは、実は短3度をもう1つ積んで四和音にしても、ほとんど性質が変わりません。後に四和音のところで詳しく学ぶように、ルートから短3度を3回積んだ四和音(diminished 7th chord、日本の楽典で言う減七の和音)を「Edim7」のように表記するのですが、これを単に「Edim」のように表記する場合があります(特にジャズの場合に顕著です)。

さて、以上でトライアド(三和音)の種類およびコード表記について学びました。次節では四和音について学びます。

3.1.7 コードの転回と自由なヴォイシング

おっと、四和音について学ぶ前に、一つ大事なことに触れさせてください。

以前、音程の転回(2.2.8項)という操作を学びましたね。同様に、コードについても転回という操作を行うことができます。見ていただいた方が早いので、まずは以下の譜例をご覧ください。

三和音の場合は、このように一番下にある音を順次1オクターブ上に移動することによって、第1転回形、第2転回形という2種類の転回形ができます。

また、単なるコードの転回形からさらに自由に離れて、コードの構成音だけを保って以下のような形でコードを演奏する場合もあります。

このような、コードの構成音を1オクターブ以上の範囲に広げて演奏することをオープンヴォイシングと言います。それに対して、コードの基本形や転回形のような、各構成音を3度やせいぜい4度を超えない範囲に収めて演奏することをクローズドヴォイシングと言います。

ヴォイシングとは、ある与えられたコードの構成音一つ一つを、それぞれどのオクターブの高さに配置するか(場合によっては、どの構成音を省略するか)、を工夫して、より演奏しやすく、またより音楽の求める流れや響きに合ったものにすることを言います。あるコードの転回形を用いることはヴォイシングの一種です。

そして、重要なことですが、基本的に、コードというものは、ヴォイシングをいくら自由に変更しても、そのヴォイシングが適切なものである限り、そのコードの持つ性質は変わらないということです(ただし、雰囲気、響きは変わります)。

なお、少し予習になりますが、四和音の転回は次の譜例のようになります(第3転回形というものが登場していますね)。

では、いざ、四和音にもチャレンジしていきましょう!

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