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2.2 音程:2音の隔たり(前半)

2.2.1 音程とは

前回(2.1)は、音名、すなわち1つの音が与えられたときに、その音の高さを表す名前について見てきました。ここからは、2つの音が与えられたときに、その2音の音の高さの距離について考えていきましょう。

2音の音の高さの距離、隔たりのことを音程(英語でinterval)と言います。

2.2.2 音程の表し方

さて、前回、音の高さに名前をつけたように、音程についても正確に言い表す方法を見ていきましょう。いくつかあります。

2.2.2.1 半音の数による表記

十二平均律においては、1オクターブは12の半音に均等に分割されることを第1章で学びましたね。従って、与えられた2音が、十二平均律上のいずれかの音に分類される限り、2つの音の隔たり、すなわち音程は「半音いくつ分離れているか」で、取り敢えず正確に表すことができます。これが1つ目の方法です。

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上のa)では、鍵盤図を参照すると、ドからミまでが半音4つ分離れていることが分かります。同様にb)では、ソからレまでが半音7つ分離れていることが分かります。

このマガジンでは、半音いくつ分離れているか、に基づいて認識された音程を、単純に「4半音」「7半音」のように表記していくことにしましょう。

2.2.2.2 セントによる表記

第1章で少し触れたように、半音をさらに100等分した「セント」という単位もありましたね。1半音は100セントです。これを用いれば、十二平均律の12音に当てはまらない音との音程もあらわすことができます。私達はすでに第1章で、「ピタゴラスのコンマ」がどのくらい離れているかをセントによって表しましたね(ちなみに、ピタゴラスの実験におけるミ♯とファの差は23セントあまり、つまり4分の1半音弱でした)。

2.2.2.3 度数による表記

しかし、実は、これら2種類の音程の表し方は、音楽理論的には主流ではありません。音名の話でも触れましたが、私たちの音楽理論は「1オクターブにはドレミファソラシの7音がある」という基本認識に基づいており、五線譜もその前提でデザインされています。つまり、五線譜上の二つの音符を見ても、それが半音いくつ分離れているのか、直感的には大変分かりづらいわけです。

そこで必要になるのが、以下に説明する「度数」という方式です。

度数による表記では、まず、与えられた2音が「五線譜上の見た目でどれだけ離れているか」を調べ、それを「3度」「5度」のように言い表します。

度数の数え方ですが、比べる2音および、その間に隙間なく下から上へ順番に並べることのできる音符の数を加えた数を用います。具体例は下記譜例の通りです。

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この譜例から、ド~ミは3度(ド、レ、ミ)、ソからレは5度(ソ、ラ、シ、ド、レ)だけそれぞれ離れていることが分かります。元の音符を数えることがポイントです(スタート地点がすでに「1」なので、「数え年」の年齢の数え方に似ていますね)。ちなみに、同じ高さの2音(例えば「ラ」と「ラ」)の音程は「1度」となります。「0度」というものは絶対にありませんので注意しましょう。

2.2.3 「度数」と「半音の数」の関係

では、度数表記と半音の数による表記は、どのような関係になっているのでしょうか。試しにいくつか例をとって実際に調べてみましょう。

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上の例で、五線譜上で度数を調べると、ラ~ド、レ~ファ、ソ~シはすべて同じく3度です。しかし、鍵盤上で半音の数を調べてみると、ラ~ドとレ~ファは3半音ですが、ソ~シは4半音になっていますね。

このことから、度数による表記では、同じ度数でも「半音いくつ分離れているか」が異なってくる場合がある、ということが分かります。つまり、単に「3度」とか「5度」とか言うだけでは、それがどんな音程なのか確定できないわけです。そこで、その音程が「何度」で、かつ「何半音」離れているかを同時に正確に言い表すことができて初めて、度数表記は完全なものになります。

実は、この度数表記については、西洋音楽の伝統の中で、すでに理想的な方式が完成しています。これはクラシックでもジャズでもポピュラーでもばっちり通用する方式であり、このマガジンで音の高さにまつわる音楽理論を学んでいくにあたっても、極めて基本的かつ重要な知識となります。慣れないうちは複雑で分かりづらいと思いますが、以下、順を追ってご説明しますので、じっくり理解していきましょう。

まずは、1オクターブ以下の音程に絞って見ていきましょう(1オクターブ以上の音程は「応用編」となりますので、この記事の後編で扱います)。

2.2.4「完全」系の度数

第1章に出てきた、ピタゴラスの実験の話をもう一度思い出してみましょう。「ド」と「その1オクターブ上のド」とは、周波数比が1:2になっていました。また、「ド」と「そのすぐ上のソ」とは、周波数比が2:3になっていました(十二平均律でも、わずかな誤差はあるものの、ほぼ2:3です)。このような非常にシンプルな周波数比で表される音程を、「完全○度」という言い方で表します。

例えば以下の例で、ド~ソは「完全5度」、ド~ド(1オクターブ上の)は「完全8度」となります。

また、全く同じ2音が作る音程を「完全1度」と言います。さらに、「完全8度」と「完全5度」の差としてできる4度(下の例ではソ~ド)を「完全4度」と言います。

なお、完全1度のことを「同度」とか「ユニゾン」という場合もあります。

「完全○度」の形で言い表せる度数は、基本的にこの4種類だけです。「完全3度」などは存在しないので注意しましょう。1,4,5,8という数字は覚えてしまいましょう。

それでは、これら4種類の音程の、半音の数による表記を確認しておきましょう。分からない方は、お手元の鍵盤で確認してみてください。正解は以下の通りです。

  • 完全1度:0半音(全く同じ音)

  • 完全4度:5半音(例:ド~ファ、ソ~すぐ上のドなど)

  • 完全5度:7半音(例:ド~ソ、レ~ラなど)

  • 完全8度:12半音(例:ド~上のドなど)

2.2.5「長/短」系の度数

「完全○度」の形で表せない度数はすべてこの「長/短」系の度数となります。1オクターブ未満の音程だけで言うと「2度、3度、6度、7度」の4つですね。「完全」の代わりに「長」または「短」を付けて、例えば短3度とか長6度とかいう言い方になります。これらの音程は、ピタゴラスの実験で直接出てくることはありませんでしたね。

いきなり結論を言ってしまうと、度数表記と半音の数による表記の関係は以下のように定義されています。

短2度=1半音
長2度=2半音
短3度=3半音
長3度=4半音
短6度=8半音
長6度=9半音
短7度=10半音
長7度=11半音

これを丸暗記するのはツライですね。とりあえず、「長」のほうが「短」より1半音広い(例:短6度+1半音=長6度)という法則があるので、覚えるのは半分で良いとも言えますが、それでもツライ。

そこで、さっそく、とっておきの覚え方をお教えしましょう。

まず、ハ長調のドレミファソラシドの音階において、下のから上に2度、3度、6度、7度を取ってみます。それぞれレ、ミ、ラ、シの4音になりますね。これらの4つの音程の半音の数をそれぞれ調べてみます。

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上の図のとおり、それぞれ2半音、4半音、9半音、11半音となりますね。このように、「ド」から上の白鍵で取る2度、3度、6度、7度はすべて「長」となります。ド~レ=長2度、ド~ミ=長3度、ド~ラ=長6度、ド~シ=長7度です。

では次に、これらの音を五線譜上で下に一つだけずらしてみましょう。から、その上のド、レ、ソ、ラの4音までの半音の数をそれぞれ調べてみます。

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それぞれ1半音、3半音、8半音、10半音となりますね。すなわち、「シ」から上の白鍵で取る2度、3度、6度、7度はすべて「短」となります。シ~ド=短2度、シ~レ=短3度、シ~ソ=短6度、シ~ラ=短7度です。これを覚えておくと、すべてを丸暗記するよりは大分ラクだと思いますが、いかがでしょうか?

ちなみに、皆さまもうお気づきと思いますが、「短2度」はいわゆる半音、「長2度」はいわゆる全音のことです。

さて、ここまでで、「完全○度」「長○度」「短○度」の形で表される音程については、対応する半音の数が全てはっきりしました。音程の狭い順に並べて整理しておきましょう。

完全1度=0半音(同じ音)
短2度=1半音(半音)
長2度=2半音(全音)
短3度=3半音
長3度=4半音
完全4度=5半音
完全5度=7半音
短6度=8半音
長6度=9半音
短7度=10半音
長7度=11半音
完全8度=12半音(1オクターブ)

2.2.6 黒鍵の絡む音程

ここまで調べてきた音程は、すべて白鍵から白鍵までの音程でした。しかし、鍵盤上には黒鍵もありますので、当然ながら、「白鍵から黒鍵まで」とか「黒鍵から黒鍵まで」の音程も、度数表記で表せなくてはなりません。以下、その方法を見ていきましょう。

まず、度数表記の数字の部分については、♯、♭などの変化記号を無視して、単純に「五線譜上の見た目でどれだけ離れているか」を数えることになります。その後、変化記号を反映した状態で半音いくつ分離れているかを調べます

いくつか例を見てみましょう:

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上の例では、度数は「ド、レ、ミ」の3度、半音の数は3半音なので、ド♯~ミは「短3度」であることが分かります。

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上の図では、度数は「ミ、ファ、ソ、ラ、シ」の5度、半音の数は7半音なので、ミ♭~シ♭は「完全5度」であることが分かります。

次回予告:完全でも長でも短でもないヤツら

ここで、下の譜例の音程を調べてみましょう。

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まず、五線譜の上で度数だけを見ると、
a) シ~ファ:5度(シ、ド、レ、ミ、ファ)
b) ファ~シ:4度(ファ、ソ、ラ、シ)
c) ソ♯~シ♭:3度(ソ、ラ、シ)
ですね。

では、半音の数はどうでしょうか。鍵盤を使って調べてみると、a)は6半音、b)も6半音、c)は2半音ですね。しかし、先ほど私たちが得た音程のリストには「5度かつ6半音」「4度かつ6半音」「3度かつ2半音」というものはありませんでした。

要するに、「完全」「長」「短」だけでは、すべての音程を表すことができない、ということです。このような音程はどのように扱えばよいのでしょうか。「2.2 音程」の後半に続きます

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