【湖の底で】#2000字のホラー

タイトル【湖の底で】

ある日私は妊娠しました。
けれどそれは夫には言えません。
だって彼は長期出張中であり家には帰ってきていないのだから。
つまりこの子は別の男性の子なのです。
私のわがまま、身勝手で身ごもってしまった子……。
産むかどうするか悩みました。
しかし彼の
「産んで欲しい。
　俺の方で育てればいい。お前もたまに会いに来ればいいさ」
の一言で産むことを決意しました。
それから一年後、
「別れよう」
夫に言われた一言でした。
バレたのです。不倫とその子の存在が。
私は夫を愛しています。
不倫相手への愛情はもうありません。
あくまで子供を育ててくれる人、となっていました。
しかし、その子の存在までバレてしまった以上決断しなければいけません。
私の身勝手極まる愛情を証明しなければ。
だから――

この子を、どうやって処分しよう……。

ある日私は大きな湖にボートで中心あたりまで漕いで行きました。
そこで、まだ小さなあの娘を、溺死させました。
湖の中に落として。
不倫相手には誘拐されたということにしました。
これで終わり。
夫と別れる理由はなくなりました。
私たちは何度も話し合い、なんとか離婚を避けられました。
その後私は夫との間に子を身ごもり、産まれてくるのを待つだけになりました。

その子が産まれて数ヶ月後。
私は夫に連れられて例の湖にデートに行きました。
中央付近まで行ったとき、私の腕の中で眠る小さな子が言うのです。

「ママ今度は落とさないでね」