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単元計画をして取り組む授業と、その場しのぎでやりきる授業との違い

 自分自身が教育現場にいる身分であり、日々の忙しさは肌で感じる毎日でである。しかし、それを理由に授業の質が低下することは、あってはならない。
 学習内容の理解という一過性な学力ではなく、汎用的な力である資質・能力の育成を目指す現行の学習指導要領の理念は、大いに賛同である。知識基盤社会において、時代の変化によって、常に知識を更新し、目の前に立ちはだかる課題を粘り強く解決していくためには、どのような状況においても役に立つ資質・能力が求められるからだ。学習内容を鵜呑みにし、クイズのように、暗記した知識を再生する能力は役に立たない。このような学習観を転換しない限り、日本はどんどん世界に遅れをとってしまうことだろう。

 さて前置きが長くなってしまったが、先生方の授業を指導する立場であるため、たびたび先生方の授業を見る機会をいただく。しかし、なかなか資質・能力の育成を意識し、児童生徒に考える場面を与えて育てようとする気概のある授業を見ることが少ない。

 授業を見させていただくと、1時間の授業をうまくやり遂げることに一生懸命であることが多い。また、児童生徒の学習活動よりも、先生の指導法に重点が置かれていることがしばしばである。

 ここで重要なのは、単元計画である。資質・能力を育てる授業は、当然ながら1時間の授業では育たない。時間をかけてじっくり取り組む必要がある。
 
 なぜ時間を掛ける必要があるのか。それは、資質・能力を育成する際、培いたい力(例えば、コミュニケーション力とか、根拠をもって分析する力など)を児童生徒自身にどう意識させて、どのような活動を行い、どう振り返らせて改善させるのか等を繰り返し行っていく必要があるからである。
 
 さらに、同じことの繰り返しでは、成長が見込めないし、児童生徒自身も飽きてしまうので、1時間1時間のレベルを変えていく(系統性を考える)必要がある。ここまでの話をしたら、単元計画の重要性を分かってもらえたと思うがいかがだろうか。

 その場しのぎの1時間の授業の繰り返しでは、学ぶべき学習内容は得られるかもしれないが、単元のはじめと終わりで、「ここまで自分の力が高まった!」という達成感もなければ、授業自体も同じことの繰り返しで楽しくはないだろう。

 ここからは、単元計画をする際のポイントを紹介する。
まずは、単元計画をするうえで最も大事なのは、最終到達点の姿を明確にすること(ルーブリックの作成)である。ルーブリックは、学習の達成度を測るための評価方法の一種であり、A・B・Cなどの段階に分けて表記される。ルーブリックは、児童生徒にも公表することで、学習活動の到達すべきゴールが明確になる。
 そして、 児童生徒をゴールに導くために、どこで揺さぶりをかけて(困らせて)、どのような知識を与えて考えさせ、どのような発見・気付きをしてほしい(内容だけでなく、資質・能力の育成も視野に入れる)かを考え、単元全体の見通しをもつことが大切である。

 単元計画をしっかり検討した授業は、参観しているとすぐに分かる。
導入の場面では、教師から児童生徒に対し、単元を貫く大きな課題と、1時間で解決すべき小さな課題を提示する。今後の学習の活動をどう組み立てていくといいか児童生徒に考えさせ、学習の計画を自らで立てるように促す。「主体的な学び」の姿である。

 また、展開の場面では、自身で考える時間だけではなく、対話を通して、他者の意見を聞いて自分の考えに生かしたり、グループで1つの意見に高めたりするような活動を取り入れている。それを眺める教師は、よい意味で暇であり、必要に応じて声掛けをする。
 論点がずれているならば、話し合いの目的を再度確認したり、狭い視野で考えて煮詰まっているときには、新しい視点を与えたりする。

 さらに、まとめの場面では、必ず振り返りを行う。1時間の授業でどのような取り組みをし、どのような学びがあったのかを振り返る。1時間の授業の感想では終わらない。

 今後間違いなく、単元計画をしている教師の授業と、その場しのぎでやりくりしている教師の授業では、児童生徒の資質・能力は、日に日に差が開く一方である。

 GIGAスクール構想の運用で、学校現場は、授業でタブレットを使うことに慣れる「導入のステージ」を終えて、次の「活用のステージ」になっている。この活用のステージでは、タブレットやネットワークなどのICTの力を借りて、さらに資質・能力を高めていく可能性を秘めている。

 この可能性を増幅するには、「現行の学習指導要領の理念を推進する上で、GIGAスクール構想は架け橋となるべき存在(下図参照)」であることを意識し、単元計画や評価基準(ルーブリック)を明確にした授業を展開していくことが必要不可欠である。

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