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読書感想文「大正天皇」原 武史 (著)

 明治の元老にとって、自分たちが担いだ君主が代替わりするということは、決して居心地のいいものではなかったということなのだろう。なにせ「明治は俺たちが作った」くらいの自負はある。変わってもらっちゃ困るのだ。世の中が変わってしまい、握った力を易々と手放すわけにはいかない。
 トップが変わっても、昨日と同じ明日が来てくれなきゃ困る。何なら、都合のいいトップほどいい。余計なことは言わず、物事に心動かさず、パーソナリティーなぞ発揮してくれるな、と思っているのだ。溌剌としていた嘉仁皇太子は、即位後、自在ならざる生活となる。「押し込め」である。権勢を握る者には、あくまで形式的であってくれるほどイイわけだ。
 気付かされるのは、君主とテクノロジーとの関係だ。鉄道、写真、活動写真など、新たなメディアや記録媒体、高速交通などのハイテクの登場は、君主と国民の関係をスルっと変えてしまう危うさがある。変えてしまったことが前例となり、それが「伝統」だと言われたりする。先般、宮内庁が始めたインスタはどんな影響を生ずるだろうか。
 石橋湛山が批判する「行啓を利用する地方官」の存在もあっただろう。それも含め、「個人」を擦り潰す権力機構に想いを馳せる一冊だ。


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