読書感想文「流人道中記 (上)(下)」浅田次郎 (著)

 世の中には,理不尽が溢れている。それ故,憤懣やる方なさが時にはみ出し,事件となる。
 そんな理不尽,出鱈目,いんちき,ぺてんが通るものか,いや,通っちゃってるんだから,この世なのだ。なので,それを記して,悲劇と呼び,皮肉を言う。
 流人と押送人。始めから終いまで,主人公とその相手は,ずっと変わらない。だが,それは,目的地に着いたときの視点から見た,この二人の立場と関係であり,理不尽な仕打ちにあったことを読者に嫌になる程,押し付ける。
 これだけ魅力的で愛すべき人が,こんなに理不尽な目にあっていいのか。理不尽のまま,なのかもしれない。もっと絶望的な先が待ち構えているのかもしれない。
 だが,読者はそう思わないだろう。この先が描かれていないからこそ,世の人たちの声が流人であることを許さないだろう,流罪が解かれるだろう,こんなはずじゃないぞ,きっときっと,と。小説の世界だ,そんな道理のない世界であってたまるか。江戸に戻り,復活する痛快劇を,読者は勝手に別な視点から,つい想像しちゃうのだ。


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