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給与とは何か?社員が自分で給与を決める会社

今回は「風と土と」で働いている人たちの話をご紹介します。
「給与は会社が決めるもの」というのが通説ですが、風と土とでは2020年から社員自ら給与を決める方法へシフトしました。その紆余曲折や「給与を自分で決めること」で社内にどんな変化が起こったか、をお伝えしたいと思います。


なぜ自分で給与を決めることになったのか

「風と土と」は2008年創業以来、常に両手で数えられるくらいの社員数で、上下関係の少ない、自律性を大事にした非常にフラットな組織です。それでも、社員の給与は最終的に経営者(役員含む)が決めていました。

ところが2020年、ある社員の「社員全員が会社を自分事として考えるには、給与は他人から決められるのではなく、自分で決めた方がいいのではないか?」という問いに端を発し、「そもそも給与とは何か?」をめぐって2か月にわたり議論。しかし、なかなか解は出ませんでした。

そこで、給与とは成果や能力で差を設けず「給与=個々の存在」と意味づけし、実験的に給与を一律に設定。但し、給与額に関しては毎年全員で議論して決めるというルールをつくりました。毎年試行錯誤しながら進めていった結果、最新版となる2023年度にとった方法は、3つの指標(仕事力、チームワーク力、地域の風土を体現する力)を判断基準として、一人ひとりが自分の給与額を自分で決める、というものです。

給与を自分で決めることにした背景は「取締役のみが給与額を決める、つまり経営者だけが経営方針を意思決定することで経営力を磨くよりも、社員一人ひとりが経営力を磨いた方が会社全体の”成長の伸びしろ”は大きい」という仮説があったからです。

そして、実際に一人ひとりが財務諸表を見ながら「何に投資すると会社はより自分たちらしい成長ができるのか?」を議論しながら、四苦八苦して自分の給与額を提示。蓋を開けてみるとそこにはほとんど差がなく、2%前後の昇給を設定した人が大半。しかし中には10%以上自ら賃下げした社員も…

給与を自分で決めてみてどうだった?

まず意見として出てきたことは「自分で決めたからより納得できた」という声。誰もが小さな会社の財政事情を理解しているからこそ、各々で考えた給与額も結果的には横並びでした。しかし「誰かに決められたのではなく、自分で決めた給与だ」という納得感は、実際やってみたからこそ腹落ちした感覚でした。

一方で、これまで受動的に決められてきた給与を自分で決めるのは正直つらかった…という思いはほぼ全員に当てはまります。小さな会社で給与という繊細かつ重要な経営判断を担う行為は、一人ひとりが経営の責任を持つことと表裏一体です。中でも自ら給与を下げた社員は、「おかげで、働くということに対する自己理解が深まった」とのこと。働くモチベーションは給与だけではないということを、身をもって実感したといいます。

印象的だったのは、ある社員の「みんなの給与を上げるためには、自分の給与を上げなくちゃいけない」という言葉。
会社が強くなるということは、チームとして強くなること。自分は会社という生き物の一部であるという意味を実体験から得られたことが、自分で自分の給与を決めた一番の収穫だったのかもしれません。

2か月にわたり、何度も議論を重ねてきました

なぜ自分はこの会社にいるのか

働く上で収入が重要であることは、この離島であっても同じです。
社内には都会で働いていたときより給与が下がった人もいますが、それでもこの会社で働き続ける理由は何なのでしょうか?

在籍4年目の社員曰く、「この会社は、自分で決める、ということを守っている会社だから」。一人ひとりがオーナーシップを持って仕事をしており、仕事を通じて知り合った多くの人たちや島に集まった仲間と一緒に未来をつくっていくことを選択している。そうした在り方が世間の当たり前を変えている実感がある、と力強く語ります。

人材育成事業を担当する社員からは、「給与を上げたのは、事業や会社に対してオーナーシップを持ち、自分でプロジェクトを回していくことを引き受けると決めたから。個人の思いを大事にすれば社会はもっとよくなり、もっとよいプロダクトが生まれるはず。そのために自分にとっては、自己理解と成長を続けることが必要。この会社でSHIMA-NAGASHIというプロダクトを生み出していくことはそのどちらにも叶っている。」

「希望を持って生きたいから」と語るのは在籍12年目の古参社員。「自由と責任が表裏一体のこの会社で働くのは正直ハードなところもあるけれど、自分で決めたことだから頑張れている。この会社は、風だけではなく土だけでもなく、風と土とが混ざり合い、まるで生き物のように新しい何かを生み出している。外からも内からも常に動きがあることで、自分たちの未来は明るいかもしれない、と感じながら働き、生きていける気がする」と語ってくれました。

自分たちが生きていく世界を自分たちの力でよくしていく実感があること。そこに日々希望を感じられること。その手触り感を感じる場所がたまたまこの海士という島であり、「風と土と」という社員6名の小さな会社である、ということ。

ここでの生活は意思決定の権限が自分たちにあるということを教えてくれます。一般に「自立した個人の集合体が社会である」と言われます。たとえ一人ひとりの力は小さくても、周囲によい意味で依存できる仲間が増えることで、互いに応援し、助けあい、結果的に自立的な社会がつくられていく、というものです。私たちがオーナーシップを持って働くことの意義はここにあるのだと思います。

今回の「自分で給与を決める」という実験的行為によって、「未来は、予測するものではなく”つくるもの”」であり、そのまま私たちが会社としてどのような未来に向かっていくか、を考える上での大きな土台になっていることに改めて気づかされました。

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