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(40)こじれる ー part1

「勝手にしろ!」
この決定的な言葉が出てしまう背景に、ドラマが隠れている。

一生のうち、何度も人に向かって言う言葉ではない。下手をしたら、その人との関係に大きなひびが入るかも知れないからだ。しかし、それも分かりながら言わざるを得ない苦しい場面があるものだ。

私の仕事の中ではこんな場面がたびたびあるのだ。だからと言って私は「勝手にしろ!」と言ったことは一度もない。それは、言うことによって(あぁ、そうか!私がその言葉を言わせてしまった。ああでもない~こうでもない~と言い過ぎたな・・・。何で私ってこうなんだろう?)と、気づいて頂けるなら、その言葉を活用するのだが、その可能性はゼロに近い。

母親「そういう訳で、叱ろうがなだめようがうちの子はまるで言う事を聞かないんです。どうしたらいいですか」

「はい、叱っても無理なんですね。お母さんとお子さんのやりとりを第三者の目で見られるお父さんに来て頂き、三人で相談しませんか」

母親「えぇ~、うちの主人なんて全然ダメです。子供のことは全部知らんふりですから」

「諦めないでください。親であるお二人と私で一度話し合いましょう。日頃子供さんに関心がないご主人に、良いアイディアがあるかも知れませんしね」

母親「はい、しかしうちの主人は絶対に来ないと思いますよ。あてに出来ないです。他にどうすればいいのですか」

「困りましたね。八方塞がりで・・・。それでは少しの間、叱ることを我慢して変化を見ませんか」

母親「そんなの甘えるだけですよ!うちの子にはまるで無理です。図に乗るだけでかえってわがままになるだけです」

「母と子が四六時中顔を合わせていると、見なくてもいいものまで見えたりすることがありますから、離れるつもりでなるべく外で遊ばせてみたらどうなのですか」

母親「はい、でもあの子はダメなんです。私にいつもベタベタくっついて外へ行くなんて、とても無理なんです」

「友達を家に呼んで、一緒に遊べる工夫をしてみませんか。子供って言うのは親とは線を引いて、子供同士で遊ぶことが必要でもあります」

母親「はい、それはそうですけど・・・近所の子供に良い子がいないんですよ。どの子も乱暴で困ります。あんな子たちと遊ばせたくないんです」

深刻な相談ではないのだが、妙に力んで話されるケースのひとつだが、普通なら「勝手にしろ!」と、なる場面である。もっともらしい話で始まりながら、その人の常用する”癖”が話の中に盛り込まれている。人との関係を”こじらせる癖”なのだ。これらは、最後に決まって双方が”不愉快”な気分で終わる”ドラマのシナリオ”を持っている。(「はい、でも」と名前までつけられた、ドラマ的交流である)

経過を観察してみると、やりとりの裏に別の”動機””目的”が隠れている。当然本人は気づいていないから流れが止まることはない。

☆ どんなことがあっても、私の考えを曲げるつもりはないよ

☆ 私を変えようと思うなら、やってみなさいよ。絶対にあなたの言う通りにはなりませんよ

と、聞こえて来そうだ。

”頑固に自分の考え方を通したい”通さないと気が済まないのである。隠れている”動機””目的”とは何なのか?人との関係を”こじらせる癖”を持つ人は、楽しい気持ちの代わりに”怒り・憂鬱・罪悪感・自己嫌悪・悲しみ”と言った不快な感情を何度となく自らに味わうように仕向けるのだ。これと言うのは、「私はダメな人間だ」とか、「先生は役に立たない」また、「あの子はどうしようもない子だ」と心の中でつぶやき、嫌な気分にどっぷり浸りたい無意識の仕業なのだ。言うなら、何ひとつ良いことはないのだ。自己否定・他者否定の構えの証明でもある。

皮肉な言い方をするなら、”不快感を楽しんでいるかのように、手放そうとしない”本人は気づくことなくこの不快の中で、これが”人生だ”と思い込んでしまっているのだ。自分なりに人生をいくらでも楽しく出来るのに、自身の構えからの”癖”の為、辛い人生を無意識に選んでしまうことになる。悲しいし、残念なのだ。

私は生業上、「勝手にしろ!」とは決して言わない。それは、このカラクリを知って欲しいと強く願うからだ。無駄にならないように、”動機””目的”に近づいて行けるヒントを出しながら丁寧に呼びかけを続ける。背後には、自信の無さがあり、だけど人から認められたいという承認欲求の強さの空回りからアピールが強くなる一方で、周囲の意見・思いを取り込めないまま卑屈になってしまった、というドラマが隠れている。

〈人とこじれる事の隠れたドラマ〉を分かって欲しい一心で命懸けになってしまう”癖”が私にはある。【小さな親切 大きなお世話】かも知れない。いやぁ、人生は一回きりたかだか九十年。あっという間なのだ。”楽しんでなんぼが人生”だから、心から楽しんでもらいたいと思い・・・私は今日も【小さな親切 大きなお世話】を生きている。


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