#6 春を迎えられなかった恋
えっ…
一瞬時間が止まる。が、すぐに何事も無かったように「へー、そうなんだ、誰と?」
と聞きたくもない質問を返していた。
「中条さんと同じクラスの佐藤くん」
テニス部のエースで、頭も良い。見るからに好青年で、男女共に人気もの。やっぱりスポーツマンの方が良いでしょ。そりゃ。
中条さんに部活の時冗談まじりで聞いてみた。「そういえばさー、チラッと聞いたんだけど、彼氏できたのー?」
「えー!誰から聞いたのー?…うん、できた 照」
そんな表情初めて見た。
ただ笑ってるんじゃなくて、ちょっと複雑な顔なんだけど、嬉しそうだった。女子って恋をするとそんな風になるんだ。照れ笑いめっちゃ可愛いなー…じゃなくて。
(…いやいや、マジか)
「良かったじゃん」なんとか笑えてたと思うけど、その後の会話は覚えてない
それから毎日の様に頭の中が、モヤモヤしていた。思い出さないよう、練習用のプリントとキーボードに向かっていた
*
7月になり、夏休みが始まる。TVで気象予報士が言っていた、今年の夏は暑くなるそうだ。
僕は夏休み前の休みを使ってバイト先の仲間数人と原付の免許を取り、貯めたバイト代で格安の中古バイクを買った。バイト先まで遠かったし、皆もバイク移動になって来ていたから、そのほうが遊びに行くのに都合が良かった。
親には内緒で、全部揃った後も、何事も無かったかのように過ごした。凄く心配だったと思うが、止められることも無かった。
それからバイク通勤(通学)が始まった。
慣れない原付の操作は中条さんのことを一時だけでも、忘れさせてくれた。何より新しい世界が楽しかったのだ。自転車や歩きとは違う、自分の速度に嬉しさを覚えた。なんて身軽に動けるんだ、何処までも行けそう。やっぱ買って良かった。
バイト先で他の友達にも羨ましがられた、当時の高校生にはバイクに乗れるのはかなりのステータスだった。
夏休みが始まり、大会が近いて来た。大会が終わるまではなるべく出ようと決めていたから、平日殆ど出たけどなるべく時間は短めに、中条さんが居ない時を狙って行っていた。
とは言っても会っちゃうわけで。そりゃそうだけど。なんとなーく離れた席で、練習用のプリントに向かう。打ちながら、なんだか気になってきて休憩といいながら、よく教室の外へ逃げていた。
少し離れたところに購買の売店と食堂、自販機がある建物があったからよくそこまで1人で歩いて行っていた。時々、部長と副部長とすれ違う。2人は幼馴染で仲が良いらしい。
「また、休憩?頑張ってるー?」部長に良くつっこまれた。「んー、どうでしょう」適当な返事にいつも何かしら反応をくれる2人は面白かった。夏休みの部活中から少し話す事が増えた。
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