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【短編選集 ‡3】電脳病毒 #113_293
十五 上海波
午前三時。いつものように自転車の荷台と前篭に朝刊の束を詰め込む。薫陶は配達に向かう。
薫陶は、彼の国からこの国へ逃れた。劉が手配したものだ。廃業を免れた一軒の新聞販売店に住み込み、昼間は情報専門学校へ通う。
朝靄の漂う海岸の土手通りを、薫陶は駆け抜けていく。心地好い朝の潮風と海の匂い。薫陶に故郷を想いださせる。
月曜の朝。土手沿いの塵芥集積所。持ち込まれた家庭塵がうず高く積み上げられている。自転車を止め、薫陶はその塵の山に眼をやる。赤い朝陽に、サーフボードが瑪瑙《めのう》のように鈍く反射しているからだ。サーフボードは、存在価値を誇示するように塵の中で超然としている。薫陶はそう感じる。自転車のハンドルに両肘を置き、薫陶は不思議な鉱石でも見るようにサーフボードを観察する。