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【短編選集 ‡3】電脳病毒 #116_296
左に傾いた自転車の重心をとりながら、薫陶は思う。故郷に帰ることができたならば、きっと波乗りをしてやろうと・・・。逆流する黄河の大波に乗る、自分の姿を想像してみる。サーフボードに横風を受けながらも、薫陶には自転車のペダルが軽く感じる。
新聞配達所に戻る。サーフボードを自転車置き場の隅に立てかけ、薫陶はその表面を撫でる。納得したように頷くと、薫陶は食堂に向かう。
食堂には、いつものように佐田が一人居残っている。薫陶が食堂に入ると、佐田は持ち上げた丼を少しずらし頷く。
「遅かったじゃないか。早く食わないと、飯なくなるぞ」
「何杯目ですか?」
「三杯目だ」
朝食はいつも納豆と味噌汁と決まっている。納豆の臭いも、薫陶はいつしか気にならなくなっている。