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電脳病毒 #8_199

 薫陶は、段ボールハウスから出ることはない。劉と配給所へ行く以外に。孤独症、ひきこもりのまま、終日、遊技に熱中する。長時間没頭すれば、眩暈や車酔いを起こす。そのうえ、倒叙、フラッシュバックという断片的回想発作に発展する。やがては、心身に後遺症的障害を引き起こす可能性が高い。そのため、電子計算机遊技の長時間使用は政府により制限された。だが、薫陶にとっては無意味だった。制限鍵、キーを解除する方法を探り当てていたからだ。
「薫陶!」
 薫陶の身体を、劉は激しく揺すり起こそうとする。だが、薫陶は目覚める気配もない。諦め、劉は薫陶の横に胡座をかく。遠くの軌道を眺め、劉は昔を思いやる。日輪の炎のように燃え尽きた、あの時を。


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