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スマテ

7
何故だ?携帯は左掌から離れない。離れない。青白い指先だけが微かに動いている。右手で思い切り携帯を離そうとする。癒着したように離れない。
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スマテ #7

スマテ #7

 携帯は掌に癒着しており、未だ離れない。
掌を挙げ画面を確認する。バッテリーアイコンはフルを示してる。
背面の指紋センサーに触れ、シャットダウンすることもできない。
背面のスピーカーからくぐもったチャイムが聞こえる。

 メール、着信。そんなばかな。こんなに見通しがいいのに、なぜだ?それは、誰からのメール・・・。

スマテ #6

スマテ #6

朝。仕事先に連絡を入れておかなくては。
そう、午前中、病院に立ち寄ると。
仕事先といっても派遣先だ。
正社員で所属する企業は、市場環境の悪化から本業が立ち行かなくなっていた。
だから、外部派遣という名目で業種に放り出された。
需要回復後、本業に戻すと説得され。
戻るのはいつのことになるか、わからない。
派遣先には、本業の仕事に炙れた女達、場違いな素人で溢れている。
監査、という仕事に今まで触れたこ

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スマテ #5

スマテ #5

 安心した。彼のサイト。その計算は未だ進行している。都度、参加者を取り込みつつ、遅滞なく。彼の目論見は続く。続く。

 左手の有様を眺め、現実に戻る。スマートフォンの使い手は、果たしてスマートといえるのか?首を不自然なほど曲げ、虜になったかのように画面に吸いつく。蒲鉾板を握りしめ。あるいは指先で撫でまわし。無様だ。無様。

スマテ #4

スマテ #4

 アラーム。掌を返し、すぐさまスマホの画面を見る。こんな時は便利だと認めよう。起きる時間ではない。4時56分。1年ぶりに聴く電子音。そう、彼のサイトをチェックする日。それが今日。

スマテ #3

スマテ #3

タケシの旧いギャグを思い出した。
「木口小平は死んでもラッパを離しませんでした」
ワタシが死んでも、スマホは手から離れませんでした。
いや、ワタシよりスマホが死ぬのが先だろう。
何しろ、2,500mAhのバッテリー。充電しなければ命は短い。
手で覆われているから、USB Type-Cのコードも刺せない。
放っておいても、夜には文鎮になるだろう。
その文鎮が左手に癒着したまま、ワタシはどうやって生活

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スマテ #2

スマテ #2

そうだ、尿意で目が覚めたというのに・・・。

太腿が冷たい。便座に座り、はっきり目が覚めた。
用を足しながら、これが夢の中ではないと悟る。
片手が使えないのがどれだけ不自由か、わかった。
左手は添え物のはずがない。

ベッドに戻り、右手を突いて横たわる。

ちらりと左手を見る。

携帯が張り付いたまま離れない左手が疎ましい。
ブルーライトがほの白く辺りを照らしている。
手首を曲げ、画面に目をやる。

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スマテ #1

スマテ #1

一日目

夜中、尿意で目が覚めた。
体を左下にしたまま右手を伸ばし携帯を探る。
いつも、枕脇に置き睡眠計測をしているのだ。
枕の辺りを弄っても携帯に触れない。
何処にいったのか?
起き上がり両手で枕の辺りを弄る。
ない。
と思ったら、左手で携帯を握りしめている。左手は痺れている。
なんだと思って、携帯の画面を見る。もう一度、見る。
4.9インチの小さな画面は、16:9と一世代前のアスペクト比。

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