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【短編選集】ここは、ご褒美の場所

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どんな場所です?ここは。ご褒美の場所。
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2022年12月の記事一覧

【短編選集 ‡3】電脳病毒 #106_297-298

編碼(コード) 黒客(ハッカー) 民運分子(民主化活動分子) 東突(東トルキスタン分裂主義) 疆独分子(新疆独立主義者) 蔵独分子(チベット独立主義者) 恐怖分子(テロリスト) 異議分子(反体制分子) 後援(バックアップ) 高知犯罪(知能犯罪) 国家電網応急処理中心(国家コンピューター・ネットワーク応急処理センター) 局外人(アウトサイダー) 高技術(ハイテク) 帰創現象(海外帰国者の企業創立ブーム) 宏病毒(マクロウイルス) 応用軟件(アプリケーションソフト) 程序文件(プ

【短編選集 ‡3】電脳病毒 #105_295-296

人気最旺的遊戯站点(人気最高のゲームサイト) 電子計算机遊技(コンピューターゲーム) 孤独症(ひきこもり) 倒叙(フラッシュバック) 制限鍵(キー) 電影(映画) 電脳画刊(コンピュータグラフィックス) 美国(アメリカ合衆国) 電脳画刊創造者(コンピュータグラフィックスクリエーター) 虚擬現実(バーチャルリアリティー) 国際標準化(グローバリゼーション) 知識経済(知識型経済) 国家主義(ナショナリズム) 暗示(ヒント) 動画片(アニメーション) 電脳机科学(コンピューターサ

【短編選集 ‡3】電脳病毒 #104_293-294

【注釈】 鬼城(ゴーストタウン) 木造棚屋(バラック) 釘子戸(立ち退き拒否世帯) 火車(列車) 高層高楼(ビルディング) ウルトラモダン(超現代的) 三無人員(不法滞在者) 酒精依頼(アルコール依存症) 偶像歌星(アイドル歌手) 尋親網(尋ね人ネットワーク) 網頁(ホームページ) 数据庫(データベース) 民工潮(出稼ぎ) 藍印戸口(出稼ぎ者向の準都市市民資格) 人口普査(国勢調査) 計算機両千年(Y2K) 千禧年(ミレニアム) 戸籍警(戸籍警察) 信息(情報) 演員(アクタ

【短編選集 ‡3】電脳病毒 #103_292

 今、この列車に乗らないと。あの列車でもなく、この後の列車でもない。今の層を走るのは、これだけだ。未来にも、過去にも飛び移ることはできない。  二人は遠くに目をやる。小さくなりつつある最後の列車を。火車は進む。ほの赤く光る宣伝映像を映しながら。燃え上がる日輪の映像だ。やがて、日輪は焔に変わり、火車の側面に燃え移る。そして、火車全体を包み込む。火の粉を散らし焔の尾を引きながら、それでも火車は進む。  その燃え上がりながら小さくなっていく火車を見送りながら、劉は思い起こしす。こん

【短編選集 ‡3】電脳病毒 #102_291

 それから、劉は昼夜を分かち歩き続ける。劉はどこを目指しているのか?そこは薫陶も向かっているはずの場所。  黄海を望む山東半島に位置する港町。かつては、対岸の隣国への亡命ルートとして注目された。密航拠点だった漁村は寂れ、隣接するフェリーターミナルには旅客船の姿もない。この騒動で、目ざとい人間は隣国に渡っている。この近辺の住人は隣国の出身者も多い。  運河を跨ぎ二俣に分岐した軌道。火車が通過して行く。火車が残していったのは、炎の跡だけだ。運河のぬかるんだ中州に立ち、劉は通り過ぎ

【短編選集 ‡3】電脳病毒 #101_290

 劉は自分のテントのあった場所へ。周りを見回す。薫陶の姿はない。腰を下ろし、劉は薫陶を待つ。だが、夕方になっても薫陶は現れない。  夜になる。薫陶は、もう戻ってこないだろう。そう劉は感じる。劉は身の回りの物をまとめる。  点々と灯る焚き火を道しるべに、劉はテント村の外へ。暫く歩き、劉は振り返る。小さく遠のいた焚き火が円形に拡がっている。

【短編選集 ‡3】電脳病毒 #100_290

 周りでは怪我を負わなかった者、軽傷者は身繕いを始めている。ここを立ち去るつもりなのだろう。だが、多くの者は傷を負い横たわっている。両者とも、これから遠い道程が続くことだろう。  焼け残った食糧備蓄倉庫を覗く。当然、中は空になっている。倉庫の外、略奪された食糧が物々交換されている。劉は腕時計を外し、何日分かの食糧と水を手に入れる。立ち去る側になるために。

【短編選集 ‡3】電脳病毒 #99_289

 暫く歩く。向こうで火の手が上がっている。その火に向かって散らばった残骸を放り込んでいる人影。テント村の住人たちだ。近づきよく見る。管理棟は焼け落ちた後だ。 「中の連中は?」劉は火事場見物の男に声を掛ける。 「さあね。逃げたか、それとも炭になったか?俺が来たときは燃えていた」 「爆弾だったのか?」 「さあね」 「開放されたってことか?」 「開放?ここから出られたらな。ここは、どんなところだかわかってるだろう?」男は劉を見てにやっと笑う。首をすくめると、劉はそこから離れていく。

【短編選集 ‡3】電脳病毒 #98_289

 劉はようやく立ち上がり、歩き出す。怪我人が多く横たわっている。彼らの多くは治療も受けていない。このテント村を管理していた新政府の役人達。すでに逃げ出したのだろう。テント村の中ほどにある事務管理棟。そこに向かって劉は歩き出す。  暫く歩く。向こうで火の手が上がっている。その火に向かって散らばった残骸を放り込んでいる。テント村の住人たちだ。近づきよく見る。管理棟は跡形も残っていない。

【短編選集 ‡3】電脳病毒 #97_288

 劉は起きあがろうとする。背中がひりひりと痛む。 「もう少し俯せになっていて」 「どのくらい意識を失っていた?」 「数時間」 「夢を見てたよ。それより、薫陶、お前は大丈夫か?」 「うん、劉さんのお陰で。被さっていてくれたから、何ともないよ」  周りから人々の嗚咽が聞こえてくる。あの爆風で傷ついた者も多かったのだろう。劉は目を閉じる。  やがて、辺りが明るくなってくる。背中の痛みが幾分ひいてきた感じがする。劉は上体を起こし、周りを見回す。数千あったテントは跡形もない。収容者達は