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【短編選集 ‡3】電脳病毒 #103_292

 今、この列車に乗らないと。あの列車でもなく、この後の列車でもない。今の層を走るのは、これだけだ。未来にも、過去にも飛び移ることはできない。
 二人は遠くに目をやる。小さくなりつつある最後の列車を。火車は進む。ほの赤く光る宣伝映像を映しながら。燃え上がる日輪の映像だ。やがて、日輪は焔に変わり、火車の側面に燃え移る。そして、火車全体を包み込む。火の粉を散らし焔の尾を引きながら、それでも火車は進む。
 その燃え上がりながら小さくなっていく火車を見送りながら、劉は思い起こしす。こんなことになった、その発端を。