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11月27日のDYNAM.I.Cがひたすらにヤバくて熱かった話

はじめに

 HIPHOPヘッズ、若しくはMCバトルヘッズの皆さんは、数あるMCバトルの大会の中でどのイベントが熱いと感じるだろうか。

 王道のUMB? 豪華なMCが出場する凱旋? それとも長い歴史を持つ戦極? いやいや地元のバトルも熱いんだぜって人もいるかもしれない。

 その一つ一つの戦いの中に、様々なドラマや名場面、後世に残る個性的なベストバウトが含まれていることは容易に想像出来るし、理解も出来る。どれが正解で不正解かとか、これが最高でこれはダメとか、優劣をつける事自体ナンセンスだ。

 ただ、それを承知の上で、私は声高にこう言いたい。

「11/27のDYNAM.I.Cは今までの中で一番熱かった」と。



事の発端

 クラブ内の様子を語る前に、少しだけ私の話をさせて頂く。

 私は普段、一社会人として浜松に住み、働きながらダラダラと駄文を書き連ね、その日その日をダラダラと生きている小説家崩れのクズな男である。

 がしかし、縁あって浜松のサイファーに参加したことがきっかけでラッパーを志す若いMCと仲良くなり、初めて地元のバトルイベントに交流させて頂いたところからあれよあれよという間に名古屋のラッパーの方々と交流をもち、毎回毎回一回戦で負けながらも、MCバトルやラップする面白さや楽しさにハマり、曲を作らないまま今日までズルズルと続けてしまっている中途半端な男でもあった。

 小説家崩れでもあり、ラッパー崩れでもある(最近は占いにも手を出していよいよ救いようがない)私であったが、自分はラッパーだとは毛ほども思ってはなかった。そんな事1ミリでも思ったら本業の方に殺されると考えていたからだ。

 ——あくまでもサイファーに来ているのは取材(今自分が書いてるMCバトルを題材とした小説)と、自分の興味に惹かれてやっている事。いつか身を引く時が来るまで全力で楽しもう——

 そんな事を考えたり考えなかったりしながら仕事してたある日の事だった。

「よかったらDYNAM.I.C遊びに来てー(^^)」

 TwitterのDMに、B.Cさんからお誘いがあった。

 このB.Cさんと言う方は、このDYNAM.I.Cの主催者であり、後述する納屋橋LUSHというクラブのバーカンから運営まで、その殆どを行っている謂わばLUSHの重鎮である。

 社会人なりたての頃に別の大会でお邪魔させて頂いた時にB.Cさんと初めて出会い、そこからちょこちょこ納屋橋LUSHに遊びに行っては顔を合わせ、直近だと名古屋のUMBで主催をしていた時もお邪魔させて頂いた、とてもお世話になっている存在なのである。

 今回のお誘いはこれで3回目。

 つまり、B.Cさんはこんな僕にMCバトルの機会を与えてくださったのだ。なんともありがたい話である。

 普段何にも考えてない自分だったら二つ返事で「行きます!」と答えていたところであったが、日付を確認するとその日は日曜日。

 この日は私が所属している法人で地域の交流パーティーがあり、朝から準備で動かなければならなかった。

 時間と体力的に厳しいかなぁとも考えて辞退しようとしたが、パーティーは片付け含めて2時で終わると気づいた事に加え、「今回行った方がいいぞ」という自分の本能がそう告げた。

 気づいた時には「参加させて頂きます!」と返信していた後であった。


いざ鎌倉、もといいざ納屋橋LUSHへ

 そんなこんなで日曜日。

 2時間の電車に揺られ、到着したるは納屋橋LUSH。

写真は別のDYNAM.I.Cのものだが雰囲気を感じてくれれば幸い。

 到着した時は丁度DJ lingのDJタイムの時間であった。B.Cさんやcill×2さん、その他納屋橋の知り合いの方々に挨拶を交わし、私もその音楽に首を揺らす。

 耳ヲ貸スベキ、legacy、カミサマなどなどのクラシックや、自分も聞いたことがない有名どころ(だと思う。流れてた曲全部知ってる方いたら教えてください)に体と鼓膜が喜んでいた。疲れもこれで全部吹っ飛んだ。

 そしてライブではハイロさんがぶち上げたところが特に印象に残っている。この方もラッパーとして相当な場数と年数を重ねた方で、言葉の重みが圧倒的に違った。

 特にすげぇって思ったのはアウターヘブン。時事ネタや世情を皮肉りながら自身のスタンスをこれでもかと提示していた。動画に撮らなかったのが悔やまれる。

 そしてB.Cさんの威勢良い司会と共に、メインイベントが幕を開けた。


バトルの様子

 そしてこの時、私は自分の直感を信じてよかったと思い至ることになる。

 何故か? それは全ての試合に歓声が上がって盛り上がっていたからだ。

 通常、MCバトルのイベントにおいて、いくつかの試合の中に歓声があまり上がらない瞬間がある。

 コロナの関係だけでなく、観客の疲れや言ってる事にピンと来なかったなど、様々な要因が考えられるが、この日のバトルにそんな瞬間は一度もなかった。全ての試合で盛り上がり、誰かしらが大きな歓声をあげていた。

 振り返ってみれば、一回戦からもうバチバチで、先行も後攻もデカい声と高いスキルで真っ向から勝負を仕掛けて来ていた。

 それに会場が引っ張られたのか、それともハイロさんのライブに触発されたのか、会場には真剣勝負の熱と覚悟が無意識に刷り込まれていたように思える。

 そんなベストバウトばかりのこの日だったが、私が印象に残ったバトルをここでは紹介しようと思う。

  • 蓮臥(後攻)vsMCハーピー(先行)

 先ほど述べた初戦のバトル。先行のハーピーさんが真っ向から攻撃を仕掛け、蓮臥さんがそれをのらりくらり躱しながらも確実に韻を踏んでいくという王道かつシンプルな展開だった。

 結果は延長までもつれ込んでハーピーさんの勝ち。

  • シオンサカキバラ(先行) vs chill×2(後攻)

 チルさんのアンサー力が光った試合。どちらも高い実力で拮抗していたが、2、3バース目のチルさんのアンサーがクリティカルヒットしてシオンさんが完全にノックダウンされてしまった。

 シオンさんもアンサーして食らいついていただけに悔しそうだったのが印象的だった。

  • KAD(先行) vs 飛兎(後攻)

 岐阜のHIPHOPグループ「HIKIGANE SOUND」のクルー、飛兎さんといつかの納屋橋のイベントでめちゃくちゃ強かった記憶があるKADさんの対決。なんと延長2回戦目までもつれ込んだ正真正銘のベストバウト。

 KADさんの押韻とドープな声質が飛兎のアンサーを下して勝利。

 個人的にKADさんに子供いて幸せそうで少しだけ心あったまりました。

  • 詩言(後攻)vs ハイロ(先行)

 対話バトルの最高峰を見た試合。どちらも相手の言葉の揚げ足や確信を突くことが凄い上手くて図太いから、お互いにめちゃくちゃ嫌なとこ突かれても平気な顔してアンサー返して来てこの人達化け物かと思ってしまった。

 結果は納得感の強かった詩言さんの勝利。両者最後まで一貫した主張で小手先の勝負に持ち込まなかったのもカッコよかった。

 この後、そのまま詩言さんは優勝した。


 他にもそんな詩言さん相手に一歩も退かなかったハーピーさんや、風俗の良さを語るアザラシゴエモンさんが珍しくバイブス全開で勝ちに行った試合とか、色々語りたいことはあるが、ここでは割愛させてほしい。

 何故なら納屋橋では、こんな熱いバトルがイベント開かれるごとに見られるのだ。

 全て見たい人は現場へ足を運ぶべし。




登竜門で最難関

 これは、詩言さんがライブ中のMCで言っていた言葉である。

 彼はこの言葉の前に「いろんな奴が消えていくけど、続けたやつが正義だから」という事も語っていた。

 DYNAM.I.C、ひいては納谷橋RUSHというクラブは、この登竜門で最難関の環境になりつつある。

 誰でもバトルに参加できる環境であり、かつ名も知れている大会でありながら、優勝するにはスキルと発声法と運が必要な、簡単には勝ち上がれないものとなっている。

 無論、DYNAM.I.Cが特別というわけではない。が、毎週の休みごとに確実に大会は開かれ、金曜日にはラッシュサイファーという緩いイベントも開かれ、更にはchill×2さん主催のAT ONE‘S CHOICEという大会も開かれている。

 つまり、いつでもラップが出来る、ラップを続けられる環境がある(=登竜門である)という事だが、当然そこに通い続けている納谷橋の方々はスキルも高く、勝ち上がるのは難しい(=最難関である)

 この最高の環境は、ある日ポッと出来たわけではない。

 開催してくださるB.Cさんや、そこに来る多くのMCの尽力があって、徐々にその知名度が知られてくるようになった。

 特に前年の全国UMBベスト4のハイロさん、今年度名古屋予選優勝の詩言さん、今回のDYNAM.I.Cには出場していないが、奈良予選優勝のKeiserさんの功績は大きいだろう。

 さぁ、腕に自信のあるMCの方々はすぐに名古屋に足を運ぶのだ。

 納谷橋RUSHは来るものを拒まないだろう。


ライブ中の詩言さんの様子

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