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家庭が貧困になると何が起きるか?貧困の類型と時系列モデルで考える

ご覧いただきありがとうございます。竹位和也です。

図解総研の研究員として日本の子どもの貧困図解を行いましたが、その成果物の中に、どのような貧困の類型があるのかや、貧困になると何が起こるのかについても整理したものがあるので、その解説をします。

1.家庭が貧困になる要因は概ね5つに分類できる

貧困に関する研究は昔から行われており、また、当事者を直接支えている方々を前に「貧困の類型は概ね5つある」と言い切るのは少々勇気がいりますが、まずはどういったパターンが主にあるのか?を掴めればと思います。それをまとめたものが以下の内容です。

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私が行った研究では以下を前提及び対象として子どもの貧困を捉えています。上図は下図の2に当該する内容となります。

1.養育義務を負う親が存在すること
2.何かしらの要因で親が子どもを経済的貧困下に置いていること
3.経済的貧困により、子どもの成長機会や将来の可能性が奪われている状況

所得獲得機会の欠如は、働いて賃金を得る意欲はあるが、その機会にたどり着けていない状態を指します。日本は解雇規制が強く、雇用側が厳しい条件で採用を行うため、経歴で怪しいところがあると思ってしまうとそれだけで採用を見送る傾向が強くなることにも関係しています。

所得獲得能力の不足は、所得獲得機会の欠如とは異なり、十分な所得を得るためのスキルが足りていない状態を指します。一般的には専門性の高い仕事は所得も高くなり、誰でもできる仕事になればなるほど所得も低くなる傾向にあります。また、貧困の連鎖の影響で、育った家庭が貧困であった場合、十分に教育を受けられず、誰でもできる仕事を選ばざるを得ず、結果として所得が低くなってしまうケースもあります。以下の記事のようにアンダークラスが増えてきたことを踏まえると、最も当該者が多いと考えられます。

判断・行動不能状態は、何かに依存してしまい正しい判断・行動ができない状態や、心身の疾患で働くことが難しい状態を指します。依存はアルコールやドラッグもありますし、特定の人物や考え方への依存というものもあります。また、病気やけがで働けなくなることもあるので、このケースもこちらに含まれます。

養育義務放棄は、養育義務を負う親がその義務を放棄する言動をしている状態を指します。DV(家庭内暴力)やネグレクト(育児放棄)は代表的な例ですし、離婚後相手方から養育費が支払われないケースもこちらに含まれます。

家庭外支出の負担は、所得はあっても、家庭に使われていない状態を指します。借金の返済や親族からの支援の申し出のほか、反社会的勢力との関わりの中で搾取されているケースもあります。

その他、子どもに戸籍がないことで生じている子どもの貧困のケースも存在しますが、今回私が行った研究では一旦対象から外しています。研究パートナーが現れたら対象を拡大して研究を進めていきたいと考えています。

これらご紹介した貧困の5つの類型は1つだけ見られるとは限らず、複数現れることもあります。

2.家庭が貧困になると親から子どもへ、そして短期・中期・長期と影響が波及する

先ほど説明した貧困の5つの類型が生じると、家庭ではどのようなことが起こるのかをまとめたのがこちらになります。

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どのような貧困の原因であっても、まずは親に影響が現れ、そして子どもにも影響が広がっていきます。

時系列でみると、貧困状態になると徐々に社会とのつながりが薄くなっていきます。労働により所得を得るという行動は社会とのつながりを持つためにもとても大切な手段ですが、労働機会へのアクセスが弱くなってしまうと、消費を通じた社会とのつながりが弱くなり、労働機会にありつけていないことに対する自信喪失で社会とのつながりを積極的に持てなくなることにつながり、結果として人間関係が希薄になってしまいます。

そのような環境に置かれると心身にも影響が現れるようになります。生活に窮するようになると余裕がなくなり、不安が常に付きまとい、目先のことに視点が当てられがちになります。また、心身にも影響が現れ、感情の起伏が現れやすくなったり、最悪病気にかかることもあります。

そうなっていくと、今後の行動にも影響が現れるようになります。たとえば、一度生活保護を受けると脱することが難しくなる(貧困の罠)、異常な水準で働いて解決しようとする、DVネグレクトを引き起こす、といった具合です。そして、最悪の場合自死に至ることも考えられます。

上記の影響の波及は短期的に生じるものから中長期に生じるものまであり、それは親だけでなく、子どもにも現れます。社会とのつながりも徐々に失われ、心身に影響をもたらし、登校拒否、引きこもり、進学断念、非行化、家出、自死という結果を招くことも考えられます。

このように、貧困の家庭では様々な影響が、毒が体を徐々に蝕むかのように波及していくので、その流れを理解することが重要になってくると考えています。

一方で、しばしば断片的な事実に基づいたり、貧困ポルノ的な取り扱いで情報の発信がされたりすることがありますが、適切な当事者の理解を損ね、解決策を歪めるおそれがあると思っています。また、何かしらの当事者支援を考える場合、現在親子が置かれている状況の把握と、短期・中期・長期での対応を、客観的な枠組みに基づいて行っていくことが必要ではないかと考えています。今回この記事で紹介した内容は、まさにこれらの課題にも対応できる可能性を考慮して作ったものとなります。

記事はこれで以上となります。ご覧いただきありがとうございました。

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