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Carbon Interface & Patch: 最新テックを使ってカーボンニュートラルをやってみた!

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続けて環境系です!Climate Techや脱炭素領域でのDXやプロダクトデザインに興味のある方は、ぜひ見てみて下さい。

これまでは主にClimate Fintechを中心に、以下のような環境配慮型の金融サービスのトレンドや体験をみてきました:

今回はそういったサービスの裏側で使われている最新テックを紹介しつつ、実際に使ってカーボンオフセット等のアクションをする実験をしてみようと思います。目指せカーボンニュートラル!

用いたのはCarbon InterfaceとPatchという2つのスタートアップのサービスです。これらはシンプルなAPIで、炭素排出量を算出したりカーボンオフセットを行ったりすることができるものです。これまで専門性が必要であったりデジタル化があまり進んでいなかったこの領域も、簡単に新たなサービスを開発することができるようになってきています。それと同時に、まだまだこれから伸びるこの領域で、各社がプラットフォームとして面を取る競争が水面下では始まっていることが伺えます。

炭素排出量を算出するCarbon Interface

炭素排出量を算出する機能に特化したAPIベースのサービスです。開発者ドキュメントもシンプルにまとまっており、炭素排出量算出の仕組みも公開されています。また、API利用の価格体系で下図のようにシンプルなモデルで設定・公開されてます。

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プロダクトとしては2つに分かれており、ユースケースごとに炭素排出量を算出するもの(Estimates API)カード決済等のトランザクションデータから算出するもの(Carbon Ledger API)があります。

● Estimate API
下記ユースケースに対応しており、用途に応じたパラメータを設定して算出することができます。前提や計算方法等は、こちらで公開されています。

・電力消費
・フライト
・荷物配送
・自動車移動
・燃料消費

● Carbon Ledger API(Beta)
クレジット/デビットカードのトランザクションデータに基づき炭素排出量を算出するものです。トランザクションデータでマーチャントのカテゴリーや名前・国・地域をパラメータ指定でき、それに合った排出量を計算して返してくれます。利用者のプロファイルとしてビーガン・ベジタリアン等の属性や、よく使う移動手段としての車のサイズなどまで設定できます。

同社CEOのBrandon Vlaarと話した際に、次のようなことを言ってました:

・これまでエクセルなどで行ってきた炭素排出量の算出をデジタル化し、誰もが簡単に利用できるようにした
・炭素排出量の算出にはエキスパートな知見が必要であるため、内製よりも外注にしたいニーズがあり、そこを狙っている

カーボンオフセットを行うPatch

2020年創業でホヤホヤですが、シリコンバレーを代表するVCのAndreesen HorowitsがリードしたSeedラウンドでトータル$4.5M調達しています。

Patchでは先ほどのCarbon Interfaceが特化している排出量算出の機能に加えて、実際のカーボンオフセットとそれら売買の管理なども行えます。また、カーボンオフセットを行うプロジェクト/ディベロッパーのソーシング・品質やAdditionality(排出削減の追加性)を担保する管理を行なっており、マーケットプレイスとしてのポジションを追求しています。

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2021年2月の時点既に15-20社ほどに使われているようで、APIは企業のERPといった社内システムとつなぎ、企業の排出量を算出する用途に活用されることを想定しています。B2Bに焦点を当てているようであり、将来的にはCarbonChain・Persefoni・SINAI Technologiesなどが提供する企業向け排出量監査・認証サービスを行うプレイヤーとの連携を見据えています

少し本論からは逸れますが、このPatchもそうですがスタートアップがコンタクト先にDiscordを使っていることを最近見かけます。Discordは元々はゲーマー向けコミュニティでしたが、コロナ渦でオンラインになった学生の交流の場としてなど、米国では使われています。音声チャンネルもあり、Slack+Clubhouseみたいなものと言えるでしょうか。ここであるように「CEOってここに参加してる?」「俺だよ!」であったり「net0.comというサービスを運営していてPatchを使おうと思ってるのだけど、どうしたらいい?」など、非常にオープンに込み入ったやりとりがなされており、これぞスタートアップコミュニティという感じです。

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通勤でかかる排出量を算出してみた

さて、では実際に使ってみましょう!

まずは私の自宅であるFoster Cityと、今は全面リモートワークですがオフィスのあるSan Franciscoを車で移動した時の排出量を出してみます。距離にして往復30マイル、車種はToyota Sienna(3.6L, 2WD)にしてみました。

 結果は以下のようになりました。左がCarbon Interfaceで右がPatchです。
・マイル表記とメートル表記で異なります(60mile = 96,561m)
・Carbon Interfaceでは同じ車種でもグレードまで指定できる一方で、Patchではグレード指定が無いorバグ?で上手くいかず、車種のみ指定です。

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両者で少し違いがあり以下の結果になりました:
・Carbon Interface:25,800g
・Patch:20,585g

ちょっと確認してみましょう。Natural Resources Canadaの資料によれば、ざくっと言うと「1Lのガソリンで2.3kg」のようです。Toyota Siennaでの燃費は街/高速の組み合わせで21MPGなので、60マイルだと約2.9ガロン=約11Lのガソリン消費となります。とすると、11*2.3=25.3kgとなりCarbon Interfaceの計算結果が近いです。ちなみに、同車では高速走行だと燃費が25MPGなので、同様に計算すると20.7kgとなりPatchと近くなります。

なので両者の差は仕方がないのかもしれません。とはいえ1/5ほど差があるので、排出量算出は正確性の確保や基準を合わせることは難しそうです。いずれにせよ、これだけ排出しているのですね、、リモートワーク万歳!

● Patchは万能か?
だとすると「排出量算出もオフセットもできるPatchで良いんでは?」となるかもですが、APIを触ってみて以下感じたことです。

PatchのEstimate APIは、オフセットオーダーと密にセットになっています。以下のJSONレスポンスを見れば分かる通り、あくまでオフセットを実施するための見積もりに過ぎません。

{
   "data": {
       "id": "est_prod_911962db162b5f987652c8ba0a43106...",
       "mass_g": 20585,
       "order": {
           "id": "ord_prod_01e14ed3edbf9ebae1cfcc4ab7d2a41...",
           "allocation_state": "allocated",
           "allocations": [
               {
                   "id": "all_prod_4d2609aeb328d3bd909bd0a3dbd7f15...",
                   "mass_g": 20585,
                   "offset": {
                       "id": "off_prod_36f23c080fb8fe62148501a4ef2710d...",
                       "allocated_mass_g": 972676,
                       "developer": "Bluesource",
                       "mass_g": 1000000,
                       "price_cents_usd": "1000.0",
                       "production": true,
                       "project_id": "pro_prod_582cb9dd0fc0efa516a3d73ba971b51...",
                       "retired": false,
                       "serial_number": null,
                       "vintage_year": 2020
                   },
                   "production": true
               }
           ],
           "mass_g": 20585,
           "metadata": {},
           "patch_fee_cents_usd": "2.0",
           "price_cents_usd": "21.0",
           "production": true,
           "state": "draft"
       },
       "production": true,
       "type": "vehicle"
   },
   "error": null,
   "meta": null,
   "success": true
}

つまり、PatchのAPIはあくまでマーケットプレース(オフセット販売)であり、排出量が既知の場合はダイレクトに購買入れるか、未知の場合は算出してから購買入れるか、のどちらかが提供されている訳です。例えば、自動車の排出量計算において、パラメータが抜けており複数のタイプの車が合致すれば、その中でも最も排出量の多いものの数値を適用する仕様になっているようです(以下引用)。

If not all of these fields are provided and we find more than one vehicle that matches the given parameters, we select the vehicle with the highest emission factor that matches the parameters.

マーケットプレースとしては沢山のオフセットを売れると良いので、このあたりの割り切りはmake senseですよね。つまり、PatchのEstimationはあくまでオフセット販売の補助ツール的な位置付けであり、正確に排出量を算出したいというニーズには使い勝手が良くないものと言えるかもしれません。Carbon Interfaceはそういうニーズに着目しているようです。

カーボンオフセットしてみた

ではPatchを使ってカーボンオフセットをしてみましょう。APIを直接叩いてもオフセットできるのですが、ここではダッシュボードを使いました。購入は簡単で、購入する重さとプロジェクト/ディベロッパー選ぶのみです。

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代金は$0.27(つまり約30円)で、$0.02がPatchへの手数料でした!

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Patchを使ってみて、簡単さは良いのですが、このオフセットの信憑性を担保する方法や他者への伝え方(当局報告やIR開示等)などどうするのだろう?と感じました。また、自分たちがオフセット購買=支援しているプロジェクト/ディベロッパーの状況が分かったりすれば、より面白いなとも思いました。環境プロジェクトのクラウドファンディングのような感覚ですね。

まとめ

さて、オフセットのコストって思ったより安いと感じませんでしたか?因みにプロジェクトによって単位量当たりの価格は異なるようです。それでも市場原理が働くので、それほど大きな差にはならないでしょう。

通常、自宅〜サンフランシスコまでの片道でUberを使うと、時間帯や混み具合にもよりますが$50-100ほどかかります。片道なので今回算出した排出量の半分の$0.15ほどとなり、個人的には全く気になりません。そうすることで環境配慮につながるなら、特に続けることで何かリワードがあったりすると払う選択肢を選びそうです。

今回オフセットしてみて気付いたことは、このようにそれほど気にならない金額であれば、上手く体験をデザインすることでちょっとした行動変容につなげることが出来るのではないかということです。環境配慮を重ねることで、買い物がお得になったり、少し嬉しい情報にアクセスできたり、、より良い生活とより良い環境を両立できるものでしょうか。

ESG・SDGs・脱炭素といった環境分野でもデジタル化/DXが進み、様々なスタートアップやテックが出てきています。今後はこれらを如何に組み合わせて開発のハードルを下げ、優れた体験の創出に力を入れることが重要になるでしょう。DISではこういった新規事業創造を支援しており、環境分野での取り組みを考えておられる方はぜひご相談下さい。

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