見出し画像

「成功したいなら、旅行アプリをつくる前に、ユーザーの声を聞け」

「お前は知財のプロフェッショナルなんだから、旅行アプリをつくっている場合じゃない。ビジネスプランを考え直せ。自分の専門性を生かすべきだ」。

「世界を変えるぞ!」と息巻いていた40歳の私は、投資家にビジネスプランを一蹴され、メンターに説教されました。

画像1

Photo credit: Daria Nepriakhina on Unsplash

ロースクールに留学したことがきっかけで、スタートアップコミュニティに足を突っ込み、起業家育成プログラムを受講していました。

プログラムでは、実際にビジネスプランをつくりこみ、投資家にピッチを行います。

当時、私が構想していたのは「旅先の危険情報共有アプリ」です。

大学1年生の頃に訪れたインドを皮切りに、多くの国に旅行をして、ガイドブックには掲載されていないリアルタイムの治安変化やボッタクリ情報が、不透明と感じていました。

また留学していたアメリカでは、今いる場所と、道路を一本挟んだ向こうの地区では治安が異なるなど、「現地人しか知らない治安の悪さ」があります。

それらを解消したいというのが、プロダクト構想の原点でした。

今でも「アイデアそのものは悪くなかった」と思っています。

しかし、「マネタイズが難しい」という理由で、投資家から資金調達することはできませんでした。

そして、メンターには「お前は全然わかってない。起業はそんなに甘くない」とキツいお叱りを受けました。

私の起業家人生は、ここからスタートします。

ユーザーの声を聞け

スタートアップの世界に片足を突っ込みながらも、ロースクールでも真面目に勉強をしていると、あるとき卒業生の方が講演をしにやってきました。

彼はリーガルテックの草分け的存在の会社「リーガルズーム」の創業メンバーです。

半袖短パンサンダルで登場した彼は、弁護士を目指す若者たちに向け、開口一番「弁護士なんてやめておけ」と言い放ちました。

正直な話、「なにしに来たんだ?」と拍子抜けしました。

でも、私は起業(特に私が専門性をもつリーガルの世界)に興味があり、悶々としているタイミングです。

アポを取って、話を聞いてみることにしました。

画像2

Photo credit: Ashkan Forouzani on Unsplash

リーガルズームは、端的にいうと「非常に安価で簡単に、一連の法的文書を作成できるサービス」を提供しています。

当時の私は、このサービスが弁護士法に違反していると感じ、「なぜ違法なビジネスをするのか?」と、遠回しな表現をせずに聞きました。

すると、彼は「私たちは法律に抵触しないよう努力している。業界団体内の保守的な声は気にしなくていい。まずはユーザーの声を聞け、ユーザーの中に答えはある」と話し、ビジネスモデルを詳細に教えてくれました。

アントレプレナーの意志を、向かうべきポジションへ

日本に帰国してから、もともと「中小企業を助けたい」と考えていたことを思い出しました。

日本で弁理士に相談すると、相談するだけでも費用が発生しますし、実際に特許庁への手続きを依頼すると、(私が起業した当時は)少なく見積もっても20万円ほどのお金がかかります。

個人事業主や中小企業からしてみれば、非常に高価な出費です。

しかし人件費がかかる以上、安くしようにも限界がありますし、仮に安くしても、ビジネスとして持続的ではありません。

この状況をなんとか改善できないものかと、まずはユーザーに話を聞いて回りました。——「ユーザーの声を聞け、ユーザーの中に答えはある」という彼の言葉を信じて。

話を聞いていると、まずは商標登録に課題があることが見えてきました。

例えば同じ知財権でも、「特許」と聞くと、それが事業成長を加速させるイメージが湧きますよね。

また、「真似されたら終わり」という緊張感もあります。

しかし、「商標権」と聞いても、同じような緊張感が湧かないのが一般的です。

事実、「まあ大丈夫だろう」といったイメージを持たれていました。

それゆえ商標登録が後回しになり、ビジネスがうまく回ってきた頃にトラブルに見舞われてしまうケースが多々あったのです。

当時発生していたトラブルではありませんが、例えば「悪意のあるパクり」が挙げられます。

画像3

Photo credit: Andrew Leu on Unsplash

JR東日本のCVCが運営するスタートアップアクセラレーターで、高輪ゲートウェイ駅にある無人コンビニなどを運営する株式会社TOUCH TO GOが、法人設立前にメディアで大きく取り上げられました。

代表の阿久津さんは知財の重要性を認識しており、設立に合わせて商標権を取ろうと「Cotobox」をご利用いただいたのですが、なんと2週間くらいの差で、誰かが「TOUCH TO GO」で商標登録を申請していたのです。

「明らかなるフリーライド」と主張し、苦労した末に先願は拒絶となりましたが、これだけ素早くに商標登録に動いたとしても、トラブルが発生するケースもあるのです。

今回は難を逃れましたが、非常に例外的なケースであり、通常は資本力がある大手日用品メーカーなどがすでに全国で販売し、かつ大々的に広告宣伝しているようなケースでなければ、先願を退けることは困難です。

「こうした事態を避け、意志を持って事業を立ち上げる方々が、事業成長に打ち込める環境の整備が必要だ」と感じたことがきっかけとなり、「Cotobox」は誕生しました。

知財領域のアップデートならびに、リーガル市場の変革

私たちは現在、ビジョンに共感していただいたメンバーでチームを結成しています。

副業や業務委託の方を含めると、およそ20名の規模です。

まだまだスモールチームですが、とはいえ特許庁に商標を申請している数のうち、約5%が「Cotobox」を経由するようになり、創業から5年の間に急速な成長を続けています。

実質的な「オンライン商標登録サービス」をプラットフォームとして展開している企業はほぼなく、紙と人力ベースの業界スタンダードを刷新している段階です。

数年先の未来では、商標だけでなく、特許・意匠・著作など、知財に関わる幅広い領域でのビジネス展開も描いています。

現在のところVCから資金調達はしておりませんが、すでに利益体質な経営になっており、アーリーステージ〜シリーズAフェーズのベンチャーにしては、稀有な存在です。

今後は組織として飛躍するために、サービスのグロースはもちろん、カルチャーづくりにも本格的に取り組んでいきます。

もし、知財領域のアップデートならびに、リーガル市場の変革に少しでも興味を持っていただけたら、ぜひご連絡をいただければと思います。

今後も、サービス構想までの詳しい経緯や、立ち上げの苦悩、現在の組織について、不定期で配信していきます。

リーガルテック領域や、cotoboxに興味を持っていただけたら、ぜひフォローしてお待ちください。


編集協力:オバラ ミツフミ(@ObaraMitsufumi


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?