【大学野球】大学野球選手権 決勝 青学大2-1早大(青学大 2年連続6回目の優勝)を考察
1.はじめに
6月16日(日曜)に行われた、第73回全日本大学野球選手権大会決勝戦(青山学院大ー早稲田大)の試合について振り返り、印象に残った場面などを掘り下げてみたい。
2.決勝戦は2年連続で東都大学リーグと東京六大学リーグの代表同士の対戦
昨年に引き続き、東都大学リーグ代表(青学大)と東京六大学リーグ代表(早大)による決勝戦となった。昨年は青学大が明大を4-0で勝利し、優勝を飾っている。青学大はこの決勝戦を勝利すると、2年連続での選手権制覇となり、一昨年は亜細亜大が制しているため同リーグ代表のチームの優勝は3年連続となる。一方、早大が勝てば9年ぶりの選手権優勝となり、東京六大学リーグ代表としては3年前の慶應義塾大以来となる。
3.両チームのここまでの戦績
両チームの春季リーグ戦と今大会決勝までの試合結果は以下の通り。
【表1】両チームの春季リーグ戦から選手権決勝戦までの歩み
《青学大》
4/8 国学大 ○1-0
4/10 国学大 ○1-0
4/16 亜 大 ○2-1
4/17 亜 大 ○9-0
4/30 駒澤大 ○5-4
5/2 駒澤大 ○4-0
5/9 中央大 ○2-1
5/15 日本大 ○1-0
5/16 日本大 ●2-3
5/17 日本大 ●1-4
5/24 中央大 ●1-2
5/29 中央大 ○3-1
6/11 福工大 ○8-1 *7回コールド
6/13 中京大 ○6-3
6/15 天理大 ○10-2 *8回コールド
《早大》
4/13 立 大 ○3-1
4/14 立 大 ●1-3
4/15 立 大 ○7-1
4/27 明 大 ○5-4
4/28 明 大 ●2-5
4/29 明 大 ○5-0 *延長11回
5/4 東 大 ○15-0
5/5 東 大 ○9-0
5/18 法 大 ○3-2
5/19 法 大 ○2-0
6/1 慶 大 ○8-1
6/2 慶 大 ○12-2
6/11 大商大 ○1-0 *延長10回
6/13 九産大 ○6-2
6/15 東国大 ○4-3 *延長10回
*左から日付、対戦相手、勝敗スコア。
3.(A)打線の状態が良く、投打で高いレベルにある青学大
青学大は、春季リーグ戦では高いレベルの投手陣を主に継投でつなぎ、僅差の試合を展開し安定した守りで失点を最小限に抑え、勝利につなげた。打線はリーグ戦で調子が上がらず低空飛行を続けていたが、今大会に入ると打線が本来の力を発揮し、ボール球を見極め四球の走者を絡ませて得点を奪うケースが目立った。3試合中2試合でコールド勝ちするなど、投打のバランスが非常によくなってきた。
3.(B)打線は元気ないが、投手陣が奮闘して勝ち上がってきた早大
早大は、春季リーグ戦序盤では先取点を奪われると相手のペースで試合を展開され、そのまま逃げ切られての敗戦も目立ったが、リーグ戦中盤からは投手陣が奮闘して失点を喫しても追加点を与えず、終盤に逆転勝利する試合が多くなり、投打のバランスが整ったチームは結局リーグ戦を7連勝で締めくくった。しかし、その勢いで臨んだ今大会では、リーグ戦で絶好調だった上位打線が出塁できず、得点機会を作ることができていない。そのため、2試合で延長戦にもつれる展開となり苦労して勝ち上がってきた印象が強い。
4.決勝戦の見どころ
青学大、早大ともに選手権では3試合に勝利して決勝戦を迎える。
4.(A)選手権では打線好調の青学大、一方の早大は沈黙続く
青学大は、リーグ戦序盤は1番打者に1年生から試合経験のある佐々木選手(4年・県岐阜商業)を起用していたが、開幕から安打が放てず長いトンネルに入ってしまい、その影響がチームの得点力に大きく響いてしまっていた。リーグ戦中盤からは両打ちの藤原選手(2年・大阪桐蔭高)がトップバッターとして定着し、出塁も多くなり破壊力のある中軸に有走者の場面で託す事ができ、形ができてきた。打順はその流れを選手権でもほぼ崩さず、リーグ戦終盤の打線を維持している。
早大は、リーグ戦では非常に高い出塁率を残した自慢の1番〜5番打者が、選手権に入ってからその勢いが見られず、依然として調子が上がってこないためチームの得点力が低下。しかし、リーグ戦で優勝の原動力となった打線の奮起を信じ、リーグ戦同様に上位〜中軸は打線を固定して決勝戦も臨む。リーグ戦はDH制ではなかったため、選手権ではその枠に日替わりで打力に定評のある選手を起用。この日は、今春のリーグ戦と選手権で合わせて4打席のみの出場となっていた吉田選手(3年・浦和学院高)をDHで抜擢。リーグ戦ではチーム打率が3割超えの暴れ回った厄介な打線が、決勝の舞台で息を吹き返すことができるのか注目だ。
4.(B)両チームともに本格派右腕の先発
両チームの先発投手は青学大が中西投手(3年・智弁和歌山高)、早大が鹿田投手(4年・早稲田実)の両右腕。中西投手は今春のリーグ戦では、序盤はリリーフとして、終盤は先発として大事な試合でも貢献してきた。選手権では初戦の先発として登板し、5回を投げて69球1失点の内容。タイプとしてはオーソドックスなオーバーハンドの投手だが、前回登板でも9奪三振無四球の投球で、追い込んでから低めのボールゾーンへ変化する球の制球が安定。欠点が少なく決勝戦の先発に相応しい投手を中3日で抜擢した。鹿田投手は今春のリーグ戦での先発登板はなく、公式戦での先発は約1年ぶりとなる。選手権では、準々決勝で5点リードの7回から登板し、1イニングを三者凡退に抑えている。中2日で左腕・宮城投手(2年・浦和学院高)も予想されたが、リーグ戦終盤にロングリリーフとして好投を見せた4年生の本格派右腕に大事な試合を託した。
5.青学大が接戦を制して2年連続の選手権制覇
青学大が中盤に先制を許すも、直後に逆転して逃げ切り、昨年に続いて選手権を制覇した。
5.(A)早大・鹿田投手が初回のピンチを切り抜け力を発揮
両チームの先発投手はともに、本格派の右腕でタイプは似ており、早大・鹿田投手は青学大・中西投手より学年は1つ上だが、試合経験の豊富な中西投手に比べると大きく劣る。鹿田投手の公式戦での先発登板は昨年の春季リーグ戦以来。中西投手は選手権でも先発を経験しており、決勝戦という大舞台であるがある程度自制された投球が期待できるが、鹿田投手の立ち上がりは特に制球面で大きな乱れが生じてしまわないか注目していた。万が一、自制の利かない不安定な制球ならば、青学大打線は一気に大量得点を奪える力があり、一方的な展開となってしまう可能性も低くはなかった。
しかし、鹿田投手は初回の二死1・2塁のピンチを無失点で凌ぐと、2回から4回まで3イニング連続で8つのフライアウトを奪うなど三者凡退で、好調な青学大打線を抑え込んだ。5回に精神的なスタミナが底をつき、長打を含む3本の安打を許し2点を失ったが、決勝の大舞台でこれまでの経験を考えると十分過ぎる投球を見せた。
5.(B)青学大は先制許すも小技を絡めて直後に逆転
青学大は早大先発の鹿田投手の不安定な立ち上がりで得点を奪えず、4回に先取点を許したが、直後の5回に先頭打者の二塁打から2得点し逆転に成功した。この大会で、青学大打線は好調が続いていたが、打つだけでなく走者を進めたい場面で犠打を着実に決める技術も高かった。実際にこの回も無死2塁の場面で、リーグ戦で犠打ゼロだった渡部選手(2年・智弁和歌山高)が初球で送りバントを成功し、即座に一死3塁と走者を進塁させた。登板経験の浅い鹿田投手は動揺を隠せず、続く打者の二塁打で同点とし、二死3塁から藤原選手(3年・大阪桐蔭高)の適時打で一気に逆転に成功した。走者を進塁させたい場面で、モタモタせずに初球で送りバントを成功できた事で、相手投手に与えたプレッシャーはより大きくなり、2本の適時打につながった。青学大の打者はただ打つ事だけではなく、走者を進塁させる事が常に頭に入っている様子がうかがえ、序盤は好機を作るのが難しい中で、ようやく手にした先頭打者の出塁から着実に得点に結びつける野球が浸透していた。
5.(C)投手陣の層の厚さは青学大が上回り、余裕のある継投へ
青学大先発の中西投手は、大きく制球が乱れた訳ではないが、これまでの登板に比べるとコースギリギリを攻めようとする投球で神経質になっていた。打ち込まれた印象はないが、ややストライクを取るのに苦労していた様子だった。他のチームならば、コースへ投げ分けのできている中での継投はなかなか考えられないが、ブルペンに様々なバリュエーションの控え投手がおり、4回途中に味方の失策絡みで1点を与えた所で、2番手として左腕・ヴァデルナ投手(3年・日本航空高)をマウンドに送った。ヴァデルナ投手はリーグ戦で4試合の登板だったが、この選手権では決勝戦を含めて全ての試合でリリーファーとして登板し、継投策で勝ち上がったチームを支えた投手となった。タイプの異なる投手へ代わり、早大打線は得点を奪えないまま、終盤になるとストレートに力のある鈴木投手(2年・東海大菅生高)へマウンドを託した。1点差で試合は進み、僅かな隙を与えたら同点・逆転となる展開だったが、青学大は中盤に逆転したまま逃げ切る事に成功した。リーグ戦で大車輪の活躍を見せた児玉投手(4年・日大三高)はやや調子を落としていたが、それでもどの投手も制球が安定しており、失点が計算できる見事な投手陣だった。
5.(D)頂点まであと1勝だったが、選手のトップライン回復を信頼し過ぎた早大
打線が好調だったリーグ戦のような打撃が戻ってこない中、初戦から決勝戦まで大きく打線を組み替える事なく、調子が戻ってくる事を期待して決勝までの4試合を戦った。リーグ戦では開幕から早慶戦まで、高い出塁率の上位打線が塁に出て、勝負強い中軸の打者が確実に本塁に生還させる野球ができており、多くの人が選手権になって失速するのは予想できなかった。しかし、打線の状態が悪くなるのは一瞬だが、良くなるのには時間がかかり、選手権のようなトーナメントでは状態が戻る事を期待して辛抱強く待っていたら終わってしまう。初戦もしくは2戦目あたりで、打線の状態を把握し、打順を入れ替えたり選手の入れ替えもできたはずだ。結果的に打線は低調のまま決勝戦を終え、リーグ戦で見せた活発な打撃は見る事ができなかった。選手を信頼する気持ちは伝わってきたが、短期決戦で勝ち上がるためにはチーム全体の戦力を注ぎ込む必要性がある。打撃陣の状態が普通であれば、2試合が延長戦にもつれこんで薄氷の勝利となる事もなく、もっと余裕のある戦いができたはずだ。
6.最後に
2年連続で選手権を制した青学大は見事だった。少ない部員数で、様々な準備などの負担が大きくなる中、試合での集中力が際立っていた。試合に出場している選手の中には下級生も多く、来年もリーグ戦を制する事ができれば3連覇の可能性も高い。昨年から投手陣の軸として活躍した2選手が卒業しても、投手のレベルが落ちた様子は見られなかった。継投のタイミングも絶妙で、采配も見応えがあった。夏の練習を乗り越えて、秋のリーグ戦でどのような戦いを見せてくれるか、今から楽しみだ。
参照:
【表2】【表3】【表5】【表6】
一球速報.com
【表4】【表7】:全日本大学野球連盟HP
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?