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なぜプロレスラーは冬でも半袖なのか?

11月に入りました。個人的にはまだまだ「暑い」と思っていますが、少し冷え込む朝晩は半袖で外を歩いている人はほとんどいません。私は基本的に暑い(熱い)人であり、駅まで歩いて暑くなることも考えて、朝でも夜でもまだ半袖です。

さて、「冬でも半袖」…と聞いて頭に浮かぶのはプロレスラーの方々です。冬場にレスラーと食事に行くと、アウターを脱いだら中はTシャツなんてことも頻繁にあります。というか、ほとんどのレスラーは半袖です。基本的にレスラーは一年中暑い生き物なのです。

レスラーに限らず、筋肉ムキムキのマッチョの人は冬でも薄着のことが多い。これは自慢の筋肉を見せたいという欲求もあるかもしれませんが、もっと根本的なことを言うと、筋肉のある人は熱を発しやすく、暑いんです。というわけで今回は「なぜレスラーは冬でも半袖なのか?」という、プロレスファンの方が感じているであろう疑問を解決する話を書いていきたいと思います。

1922年に筋肉と熱発生の関係を調べた研究でノーベル生理学・医学賞を受賞した、イギリスのアーチボルド・ヴィヴィアン・ヒルという学者がいます。彼は筋肉の研究を続け、筋肉が力を発揮して短くなっていくとき、その長さに比例して熱が発生することを発見しました。それ以前から「筋収縮時の力学的パワーが増えるほど熱の発生も増える」(フェン効果)ことはわかっていたのですが、ヒルはそれを筋肉が短縮することによって生じる熱(短縮熱)があると簡潔に説明したのです。

人間の体はすごく合理的につくられています。人工的につくられたエンジンやモーターとは違い、エネルギーをある程度セーブしながら大きな力を出し続けることができるように設計されています。簡単に言うと、エンジンやモーターはスイッチを入れると、それだけでエネルギーや熱を発しますが、人間はグーっと体に力を入れただけでは、エネルギーを消費せず、熱も発しません。人間は軽やかに大きく動いて、筋肉をなるべく短縮させるようにしたほうが、熱を使い、エネルギー消費も大きくなります。

「力を発揮していても動かなければ熱は出ない」ということは、よく考えてみると、生物としては非常に合理的な性質です。たとえば、重たい荷物を持って立っているだけで、エネルギーや体の熱を放出してしまったら、体を維持していくことが困難になってしまいます。そんなことがないように、人間の体は、動かなければエネルギーを消費しないように設計されているのです。効率よくエネルギーを使える一方で、動かないとエネルギーを消費しないので太ります。これが運動不足で太るという原理の一端です。

今回は太る痩せるの話は本題ではないので、掘り下げません。とにかく、人間の筋肉は人工的なエンジンやモーターとは根本の構造が違うということを頭に入れてもらったところで、寒さと筋肉の話に入っていきましょう。

寒いときに外に出ると「うー寒い」と言って、体に力が入ることもあると思います。しかし、前述の通り、力を入れて体を固めてもあまり熱は出ません。これに対して「寒い、寒い」と言って、体を小刻みにブルブル動かすと、熱が生まれます。寒くて自然と体が震える経験をしたことがある人も多いと思いますが、あの震えは熱を出すための自然な行為なわけです。

寒くなると筋肉が自動的に震えることを「シヴァリング」と言います。こうした体の仕組みがあるから、人間は寒い場所でも生きていけるのです。この震えによって熱が出ることを「震え熱産生」と言いますが、2000年以降、研究によって震えなくても筋肉そのものが熱を出すことがわかってきました。こちらは「非震え熱産生」と言います。

これは何なのか? ちょっと難しい話になるので、かなり簡潔に説明すると、「非震え熱産生」を生み出すための物資(UCP、サルコルピンなど)が筋肉の中にはあり、それによって筋肉が熱を生み出し、体温を保ってくれるという仕組みです。

こうした物質が筋肉の中に存在することによって、筋肉は動かさなくても熱を発して体温維持することができます。もうおわかりでしょう。そうです。筋肉量の多いプロレスラーは、「非震え熱産生」に必要な物質をたくさん持っていて、筋肉で体の熱が保たれているから、冬でも半袖(薄着)で平気な人が多いんです。逆の考え方をすると、女性に冷え性の方が多いのは、筋肉量の少なさ(=非震え熱産生に必要な物質の少なさ)が原因の一つになっているのかもしれません。

というわけで、なぜプロレスラーが冬でも半袖なのか?という一つの理由がおわかりいただけたでしょうか? 筋肉によるカラダ温暖化現象です。寒がりの方、冷え性の方は、自分で熱を産生することができるように、ぜひ筋トレをしてみてください。

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