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夕焼けの影に小さな違いが吸い込まれていく

あれ、これはヴェローナだっけ?島根だっけ?
と有り得ない見まつがいをしてしまう写真が1対ある。

ひとつは北イタリアヴェローナで撮ったもの。
ヴェローナは、ミラノとヴェネツィアをつなぐ、東西の幹線道路の途中に位置する中規模の街で、ロミオとジュリエットの舞台として知られるところ。仕事で行くとたいてい2時間くらいしか滞在しない、行きずりのかかわりしか持たない街なのだけれど、こじんまりとした文化的な香りの高い、いつかゆっくり訪れてみたくなる場所だ。

文化的な香り高い、と書いた私自身がそもそも文化的に香り高いかどうかはさておき…シェイクスピアの物語の舞台である他に、ローマの有名なコロッセオによく似たアレーナという円形球技場がヴェローナにもあって、幼き日のモーツアルトが訪れたという伝説もある。ほら、なんか文化的ぽいでしょ。

街の中心にあるエルベ広場は長方形。広場というとドーンと抜け感があり人が集まりやすい空間であることが多いのだけれどここは四方から建物が迫ってくるような印象で、でもひとつひとつの建物が可愛らしく、BARでコーヒーを飲んだりちょっとお土産を探しにいったりして過ごすには楽しい場所だ。そのすぐ隣にあるシニョーリ広場は人気がなくガランとした中庭のような場所で、「あ」と声を出せば反響が返ってくるようなところ。道なのか庭なのかよく分からないけれど建物に囲まれていて人が通り抜けられる謎の空間がイタリアには時々あって、ただ道を歩くだけでない、散歩の楽しみをもたらしてくれる。

と、ヴェローナを振り返っても大したエピソードを思い出せない。

実はここでちょこっと触れたイタリア人男子7人衆は、ヴェローナ出身と言っていた。

彼らと出会った当時ヴェローナのことは知らなかったけれど、数年後に訪れてみて、勢い溢れる7人の空気感から想像すると、ヴェローナはちょっとクラシックでシックでエレガントすぎるように思えた。でも、彼らは自分のふるさとを「本当によい街なんだ」と愛してたなぁ。

観光客として一瞬通り過ぎる広場や川沿いの観光スポットだけではない魅力がきっとたくさんある街なのだと思う。いつかまたゆっくりとイタリアを旅する機会に恵まれたら、彼らの街ヴェローナを再訪してみたい。

そんなヴェローナの、アレーナ前の広場から撮った夕焼け写真と、島根県は隠岐島郡の海上で撮った夕焼け写真がかぶるのだ。

ヴェローナの広場には優雅な街灯が並び、あ、そろそろ灯りがつく、という頃だった。ギベリン派(皇帝派)と主張するギザギザの矢狭間をシルエットにかえていく、やわらかい夕焼けが見えた。あぁ、綺麗だ。夕焼けにうつりかわっていく空というものは。世界のどこから見ても綺麗だ。ここでしか見れないものも好きだけど、世界のどこでも見られるものが私は好きだ。そこに、ここでしか見れないものを少しだけ重ねるのが大好きだ。

と同じことを私はどうも、日本海のイカ釣り漁船の上でも感じたらしい。
米子まで夜行バスで移動し、そこから路線バスで60分。鳥取県の境港からフェリーにのりさらに3時間。ヴェローナに行くまでと同じくらいの時間をかけて、東京から島根県隠岐島郡の海士町まで通っていた時期があった。UターンやIターンの若者が移り住み、島の人や資源に、よそ者のアイデアやテクノロジーをかけあわせて、魅力的で人口流出しない島を作っていくーそういう、地方再生とか魅力化とかのトップランナーである海士町。たまたま友人が当時のプロジェクトに大学院生として参加していて、誘われて私もなんとなく通うことになったのだった。そこで、「イカ釣り漁船に乗ってみるかい?」と誰かから誘われ、夕焼けの頃から真っ暗になるまで船の上で過ごしたことを思い出す。正直私は、釣りが苦手で、うまくできた試しがない。そして、イカ釣り漁船は、心地よく波間に揺られリゾート気分を味わう目的にも向いてない。だから、私は船の上で若干目的を見失いつつ船酔いに苛まれる結果となった。でも、夜の海に出て灯りをともしてイカを捕る船の群れのひとつになれた経験は今でも嬉しい。そんな船旅の直前に「あぁ夕焼けがきれいだ(イカ略)」と思って撮った一枚だと思う。数年後に北イタリアでそっくりな一枚を撮ることになろうとは夢にも思わず。

日本海の上と北イタリアの内陸の空がこんな風につながることがある。
人種民族言葉宗教性別…「違い」がいつも争いを生みもするし新しい可能性をうみだしもする。その根っこには、私たちってそもそも「ものすごく同じ」がある。人間同士である時点で、成分のたしか95%くらいは同じなわけで。
こういう写真を並べると、皇帝派と教皇派が争っていた中世のイタリアもイカを照らす灯りの下で漁をする隠岐島も、ほぼほぼ同じ成分でできているようにたしかに思える。すさまじく大きな違いに見えていることも、この夕焼けの下には小さな違いとなり影の中に消えていく。

(Verona, Italy)


(Shimane, Japan)

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