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妻と子どもと熟議して決めていく共同体としての家族。アーティストである思考や生き方は子育てや人生の選択に反映されている〜 アーティストの川久保ジョイさん(前半):クリエイティブ・ペアレンツへのインタビュー第11回

金融トレーダーから写真家そして現代アーティストとなった川久保ジョイさんはロンドンで奥様と二人の息子さんと暮らされています。ジョイさんは、日本人の両親のもとスペインのトレドで生まれ18歳まで生活され、大学進学をきっかけに日本に移られ18年間暮らしました。その間結婚し二人のお子さんも設けられています。その後ロンドンに住まいを移されて5年が経っています。職業も生活もダイナミックに動かれているジョイさんは、熟議して決めていく共同体としての家族を大切に築かれているように感じます。

「日本の大学では学部では言語哲学、神経心理学を勉強して、心身障害学の学位を取りました。そこで妻と出会いました。すでに妻は研究者として論文を出し、業績も上げていました。結婚で姓を変えることは、当時大学院生であった僕よりも、妻の方が実績を見せていく上で難しい点があったので、僕が妻の姓を名乗ることにしました。このことを僕は父親に話さずに決めたので、父がそれを知った時には不服を言われました。そしてしばらくは妻は研究者として働き、僕が専業主夫という関係になりました。」

— 国連から毎年不平等として指摘されているにも関わらず、日本では、夫婦別姓がいまだ認められていません。私は結婚する時に父の方から夫の父親に、「娘は結婚はするが、お嫁には行かないと言っています。」と話してもらいました。嫁に行くとは、人身売買に近い意味を含むとされ、海外では近代化されている日本がそのような表現を使っていることに驚かれてもいます。いわゆる日本の古い慣習とは異なり、結婚の始めからジョイさんご夫婦の男女の関係がイーブンであることは、開けた気持ちになれます。

「長男が生まれても、妻は男性と同じように仕事することを望み、そのために産休も最短の期間しか取らずに仕事に復帰しました。妻は、大学の付属病院で臨床しながら、脳科学と発達心理の研究を続けていました。」

「僕がアーティストになってからは、アーティスト・イン・レジデンスに参加すると季節労働者のように2〜3ヶ月間、家を空けることになります。家にいるときは、会社勤めの人よりも時間は自由になるので、保育園のお迎えとかはできたのですが、家を空けているときは、妻が全て引き受けなくてはならず、かなり苦労したと思います。」

—お子さんが生まれて変わったことは、どんなところですか?

「生まれる前までは、自分が父親になれる気はしませんでした。だから自分の父が『親をできること』を偉いな〜と思っていました。しかし子どもが生まれてからは、僕も子どもへの責任や将来のことをより広く考えるようになりました。子どもが生まれることで初めて親になったように思います。つまり子どもによって僕は親に育てられたのです。子どもがなければ、今も10代の若者気分でいたかもしれません。」

—お子さんの名前とその言われについて教えてもらえますか?

「長男は、『風太郎』と言います。風のようにというイメージもありましたが、山田風太郎のイメージを強く持って、名付けました。次男は『にこ』と名付けました。これは西欧でも日本でも通じる音であることと、男女のどちらにも使える名前にしました。子どもが将来ずっと男性であるとは限りません。性転換することもあるかもしれません。ジェンダーを決め付けない名にしたかったので、話し合って決めました。

—そこまで男女をパラレルに考えられたのですね。

—東京からロンドンにご家族で移られて生活はどのように変わりましたか?お子さんは英語の環境には、どのように馴染まれていきましたか?

「長男は、6歳だったので1年生として入学しました。5月に移り住んだので、第一学年が残り1ヶ月というところでした。特に英語を習うとかはなく、学校に入りました。最初は本人は大変だったようです、少しずつ友達が出来て、だんだん学校に行くのが楽しくなりましたが、言葉の問題と本人の特性が合わさって、はじめの1、2ヶ月は毎日行きたくないって言っていました。妻曰く、「イギリスのハーフタームホリデー制度で、6週行って1週休みというスタイルに救われました」。今でこそ慣れて言葉も不自由なく使っています。学校帰りも休日も妻が公園に連れて行ってくれて遊んでいました。「イギリスでの子育ての良いところの1つは、自然や公園、広場がたくさんあるので、木登りや広い場所を自由に走り回ることが出来ることです。辛いところは、常に保護者同伴での行動になるので、暗くなるまで外遊びすると大人は寒くて待つのが辛いことです。冬は4時過ぎには真っ暗ですし。」これは子どもに付き添っていた妻が実感していることです。家では、基本的に日本語で話しています。次男はまだハイハイもしないくらい、生まれてすぐにロンドンに来ました。だから次男は保育園に行くまであまり英語の環境ではありませんでした。次男は今、保育園を終えて小学校へ入学する前で、小学校と保育園のちょうど中間のような扱いとなる英国ではレセプションとよばれるものに通っています。そこではフォニックスのような英語の発音を習ってもいます。控えめな性格なのですが、自然に英語環境にもなれていくと思います。

妻は、東京で研究と仕事で難しい問題も抱えて様々なプレッシャーが多くありました。ロンドンに移っても研究を続けることもできたのですが、今は仕事をせずに子育てと家のことを担当してもらっています。これも忙しくて大変ですが、とても充実してしています。」

—あれだけ東京で研究とお仕事を奥さんは頑張っておられましたが、子育てに専念する時間は、またお子さんから手が離れる時期には、今の経験が研究を深める時がきっとくるでしょうね。

—ステイ・ホームの期間はどのように過ごされましたか?

「こちらでのステイ・ホームは4月から始まりそのまま夏休みとなりました。リモートで先生と話すのは、1週間に1回で、それ以外は学校のウェブサイトからダウンロードした問題を回答してそれを送信するようになっていました。もちろん、家からあまり出られず煮詰まってよく喧嘩になったり、ストレスも沢山ありました。ですが息子たちは家族といるのが好きなので、両親と兄弟で満足できる時を過ごせました。僕は横浜トリエンナーレの仕事があったのですが、それも全てリモートで行いました。」

—ご家族と充実される時になってよかったですね。今、ようやく学校が再開されて新学期が始まったようですが、学校の様子はどうですか?

「息子たちは、ステイト・ファンデッドの学校に通っています。日本でいう公立学校です。長男は、来年から日本でいう中高一貫に通うことになります。それによってその後の大学や進路も左右されます。どこの学校にするかリサーチしながら、親子で話し合っています。第6希望までを決めて区に申請します。しかし日本の公立学校とは大きく異なる点があります。日本だと一つのベクトルというかメジャメントというか、成績で入学する学校も決めていきますよね。成績が良いとかあまり良くないとか。イギリスの方が子どもの特徴によって学校を考える傾向があります。アカデミックなことに興味があるのか。アート・音楽・体育など得意なことは何なのか。あまりアカデミックなことが好きでなく、アートが好きならばアート教育を特徴としている学校に、また音楽が好きならオーケストラのある学校に進めます。また、場所によって民族にも傾向があります。東部はアジア・アラブ系が多く、北部はスペイン・ユダヤ系、西部は日本人、僕たちが住んでいるテムズの南側はアフリカンやカリビアン・ヘリテージの人が多く、北側にはコーケジアンの人が多く暮らしています。その中で人種がバランスよく混じっている学校が良いと考えています。

— 私たちも息子二人のアメリカのリベラルアーツカレッジを探すときは、留学生の受け入れ数と人種のバランスについては、必ずチェックしていました。そこに学校の方針と価値観がみえてきますから。

「ロンドンの生活では、大人の多様性もバスに乗っただけでも感じます。バスでうるさくしても、ハンバーガー食べていてもおかまいなしです。清潔に関して、宗教、人との距離感など様々なことに、様々な価値観があります。この街は色々なものを受け入れ、そのそれぞれが違っています。ここではゴーイング・マイ・ウェイなので他と違うことに不安を感じる必要もないので、日本ほどに生きにくさを感じないで子育てができます。自分たちで、決めて行くことができます。

日本も近隣諸国、中国・台湾・韓国などともっと交流を増やしてアイデンティティの中和ができると良いですね。日本人として純粋培養されると排外的になりやすいようにも感じます。これから日本は、移民を受け入れる必要が増えていくでしょう。差別されない法が設置され、移民だけでなく様々な文化また田舎と都会の出身など、様々に異なるものが混ざっていく社会となって生きやすくなっていくことが目指せると良いですね。」

スペイン、日本、イギリス、という文化が違うところで暮らしてきたがゆえに、ジョイさんはご家族に対しては、ともに熟議を重ねる共同体というものを自然に合理的に徹してつくられようとしていると思います。それはこれからグローバル化してゆく社会のなかでのひとつの先駆的な生き方になってゆくでしょう。

(次週・インタビュー後半に続く・・・)

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"連載『クリエイティブ・ペアレントへのインタビュー』シリーズ"

子どもがクリエイティブに生きるには、

クリエイティブな生き様に触れることが一番です。

しかし、これは子育てだけでなく、

わたしたち、親やすべての世代のひとに言えることです。

クリエイティブな生き様にふれることで、

こんな道、こんな生き方があるんだ

と励まされたり、確信をつよめてさらに自分の道を歩いていけます。

このnoteでは週末を中心に、いろいろなクリエイティブ・ペアレントの方のインタビューを連載しています。


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