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あのころもしも
「泣いても、いい?」
大人たちはみな一瞬驚いて、そして、笑った。
泣くことに、許可をもらうような子どもだった。
家で、学校で、私の小さな世界の中で。何もかも押し込めて、何も言わないこと。それがあの頃の私が思いついた唯一の、自分を守る方法だった。ふと幼い自分を思い出したのは、あの親子を見たからだ。
寒くて凍えそうな夕方。買い物客でにぎわうスーパーで、小学生にもならないくらいの小さな男の子がわんわん泣きながら、母親と何やら言い合いをしている。かまってほしくてぐずっている子どもかな、と思った。今日は疲れたし、早く帰ろう。レジに向かおうとしたその時、男の子が突然大声で叫んだ。
「僕だって、こんなところで泣きたくなんかないんだよ!だけど今のはママが間違ってる!」
瞬間、適当にあしらっていた母親も、周りの客達も、一斉にその子を見つめた。
かまわず叫び続ける男の子を振りきるように、母親はすぐにその場を離れていってしまった。追いかけた男の子が、遠くでまだ何か懸命に訴えている。
そうか、甘えてたんじゃない。きちんと向き合って、どうしても伝えたいことがあったのだ。
あの頃。もしも私があの子みたいに正直に勇敢に、自分の正義を信じて怯まずに立ち向かうことができたなら。
ほんの少し何かを、変えることができたのかな。
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