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ロシア軍は隊で自慰を学ぶのか否か

どうも!
「これでも文学部」のKayaです!

今日は私の好きな本の一冊、「卵をめぐる祖父の戦争(デイヴィッド・ベニオフ著)」をご紹介したいと思います!

英語、日本語、ドイツ語版。どれだけ貢いでるんだ

著者紹介 デイヴィッド・ベニオフ

(David Benioff、1970年9月25日- )は、アメリカ合衆国の脚本家、小説家、ディレクター、プロデューサー。ドラマシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」の共同プロデューサーおよびショーランナーの一人。映画『25時』の原作・脚色、『トロイ』の脚本なども手掛けた。『ゲーム・オブ・スローンズ』により数々のプライムタイム・エミー賞を受賞している。ニューヨーク出身のユダヤ系。『卵をめぐる祖父の戦争』(早川書房、2010年8月、田口俊樹 訳) 「Twitter文学賞 ツイートで選ぶ2010年ホントに面白かった小説」3位。【wikipediaより抜粋】

あらすじ

ときは1942年、舞台はレニングラード包囲戦の真っ只中。主人公のレフは、ロシア軍の大佐の娘の結婚式のために卵の調達を命令される。彼は脱走兵として捕えられたコーリャを相棒に、飢餓と極寒とドイツ軍侵略の恐怖に耐えながら卵を探しにゆく。

感想と素朴な疑問:ロシア軍は隊で自慰を学ぶのか否か

私がこの本を読んだのは、阪神大震災の後だ。
この辛い時期に、哲学者の土屋賢二さんがおすすめの本として推薦していたのを、土屋賢二さんのファンである私の母が購入、そして私の元に届いたという経緯。なので、読んだのはだいぶ前だが、とにかく一気読みした作品。

この本の素晴らしいのは、テーマはめちゃくちゃヘビーなのに、コーリャのおかげで最高のエンターテイメントになっているところだ。

正直、話が進む折々で、戦争の残虐さと文字通り『痛み』を突きつけられる。いや、ほんとうに痛い。血も容赦なく流れる。共感力の強い読者なら、きっとその先を読むのを躊躇うのではないかと思うくらい、著者の鮮やかな描写が私たちの胸をザクザクと抉っていく。

しかし、つい二、三行前に流血描写があったと思ったら、コーリャの突拍子もないセリフで救われる。この振り幅がすごい。
ストーリーでは、読者が感情移入するのは主人公である、賢いユダヤ少年のレフだろう。
だからこそ、コーリャのふざけているのか、大真面目なのかわからない不思議な魅力がこの本の前半で読者(レフ)をすっかり虜にし、どんな辛い旅でも、この相棒と続けたいと惹きつけられ、最後まで読めるのだと思う。
しかも、コーリャは若く、美しい男である。
美はその存在だけで人を魅了する。
さらに盛りのついた青年で、とにかく、穴があったら入れたいという設定だ。
そしてほんとうに入れている。
これだ。
最高じゃないか。
著者、ベニオフ氏は最高のエンターテイメントをわかっている!
とにかく、このでこぼこコンビのストーリーにブンブン振り回されつつも読んでいくのだが、さて終盤。
私はこのコーリャのセリフに、初めて読んだ当時から今日まで悩まされている。
それはこれだ。

「——軍隊にはいると、みんなまず歩きながらオナニーをする方法を学ぶ。ポケットに手を入れて。そんなにむずかしいことじゃない」
(原本)
“You learn how to jerk it on the move when you’re in the army. Hand in the pocket, it’s no big trick.”

卵をめぐる祖父の戦争/ハヤカワ・ミステリ(City of Thieves, David Benioff)

これは、事実だろうか?
もちろん、ネットで調べた。
でも、それについての情報は(日本語では)皆無だった。

確かに、下っ端の若い兵たちは徒歩での移動がほとんどだろう。
夏ならまだしも、極寒の、雪の中を何時間もひたすら歩くのは退屈極まりないはずだ。疲労から眠りに引き摺り込まれることもあるだろう。
(ストーリー中でもレフは歩きながら半分寝ている)
そもそも、戦争は待ち時間が長いことが多い。
敵に見つからないように、派手な動きもできないし、待機ならひと所に何日もじっとしていることも強いられる。
生きるか死ぬかの緊張の中、気が狂わないように気持ちを少しでもほぐす手段など、限られているはずだ。
と、考えると隊で自慰を教えるのもなんだか納得がいく。

隊で自慰を教える必要性(仮説)

『そんなの、男ならわざわざ教わらなくても知ってるだろが』
そんな声も聞こえそうだ。

もちろん、性に目覚めた思春期の少年なら、本能でナニをどうすればいいかわかると思う。

しかし、隊で教える意義は、その行為をする許可を与える意味で重要だ。
少しでも士気を、理性を保つためにその行為を教育する必要があるのだ。(と、私が軍の人間なら、思う)
そうでなければ、戦場でそんな行為は御法度だと兵士たちは思い、いろんな意味で逃げ道がなくなってしまうじゃないか。
しかし、隊でカリキュラムの一つとして教わっているなら、人目を憚りながらも、責められることはなく安心して行為に臨める。

だが、そもそもこのエピソードは著者のファンタジーだろうか?
そしたら、それはそれですごい。
果てしもない移動中に、キャラクターである彼らは何を思うのか。
雪の中を著者が伴走して、コーリャに自慰をさせるのは、すごい。
また、コーリャだからこそ、違和感がないのもすごい。

しかし、ベニオフ氏よ。
一つ誤算だと思うのが、コーリャは分厚いウールのコートを着ているのである。
コートのポケットに手を入れた状態で、ズボンの上からモノを慰めるのか、はたまたロシア軍のコートのポケットは、それ用に穴が空いていて、そこからズボンのポケットに手が入れられるようになっていて、刺激を与えられるのか。
そのあたりもまた、数年間ずっと疑問に思っているところである。
頼むから、誰でもいいから答えを教えてほしい。

そもそも、その教えはロシア軍だけなのか?
どの国の軍隊でも教えているのだろうか?
まあ、昨今の戦争はもっぱらドローン飛ばしたり、移動も車が多いと思うので、もうそんな教育はカリキュラムから消されたかもしれない。

とにかく、コーリャしか勝たん

主人公はレフなんだけれども。
レフだから、このストーリーが完成しているのだけれど(コーリャだったら大変なことになっていたと思う)、もう、最初から最後までコーリャから目が離せなかった。そして、最後、ベニオフ氏に彼を心に刻み込まれた。
結局、戦争は非常に理不尽に何もかも壊す、愚かなモノなのだよね、とじわじわくる作品なのであった。


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