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よの10 効率的

わたしの妻は「効率的」が大好きである。
物事を効率よくやりたい派なのである。

まず電車の乗り方から違う。
ホームでの無駄な待ち時間がないよう
到着時間とホームまで歩く時間を常に計算して行動する。

ホームでは到着駅の最短改札口から逆算して一番近い車両から乗る。
万が一出来ない場合は車内で到着にあわせて車両を移動する。

わたしにしてみれば、どうでもいいことのように思えるのだが、そこは譲らない。

わたしが車を運転しているときは、助手席から最短ルートを横から指示する。
妻は地理感覚が優れていてナビ以上に先読みするのだ。
駐車場の位置も効率的な場所を瞬時に判断し指示する。

わたしにしてみれば、ほんの少し時間が短縮されたから、
それがどうなのだ、と思うのだが。

当然家事においても効率的ワールドを追求していて、
時には本当にそれが効率的なのかどうか疑わしく思うが、
けっして口を挟むことはできない。


そして妻は毎朝弁当を作ってくれる。
出て行く時間から逆算して弁当を作り始めるので、
会社に出て行くころにぴたりと出来上がるのだ。

効率よく弁当を作ってくれるのはよいのだが、
わたしは内心気が気ではない。
ハプニングで時々2、3分遅れたりするからだ。

わたしとしてはちょっと余裕を持って会社に出かけたい。
朝からぎりぎりの気持ちで出かけたくないのだ。
ましてや弁当のせいで。
いちいち毎朝弁当がいつできるかと気を揉みたくはない。

わたしは何度か妻に、時間に余裕を持って作ってほしいと願い出たが無駄だった。出て行く時間にぴたりと完成するあの達成感には勝てないのだ。

そうして諦めかけた頃に事件が起こった。
比較的朝の弱い妻が、朝起きる時間が遅れて弁当の完成が間に合わず外食になってしまった日が何回か続いたのだ。

さすがの妻もショックを受け反省した。

そして驚くことに翌日は30分前に弁当は完成した。
わたしはすでに出来上がっている弁当を横目に心のゆとりを感じながらその日は出かけた。

そして妻の反省は弁当を作る時間短縮の能力をもあげた。
もともと40分掛かっていた作業時間が39分、37分、35分と日を追うごとに縮まっていく。

さらに作業の空き時間に掃除、片付けを同時進行しながら効率をどんどんあげていった。最近は空き時間にエクササイズを取り入れながらも記録を更新し続けている。

そしてある日、妻は寝坊をした。
会社出勤時間まであと15分。
確実に弁当は作れない時間だ。

しかし、それでも彼女は作り始めた。
今まで磨いてきたあらゆる効率を駆使して、みごとな手際で奇跡的に弁当は制限時間ぴったりに完成した。

「いってらっしゃい」
妻は笑顔でわたしを送りだした。

「いってきます」
わたしは、その妻の達成感に満ちた笑顔に共感しながら少し興奮気味に会社に向かった。


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