見出し画像

よの29 太麺と細麺どちらにしますか?

とある手打ちラーメン店に入った。
台湾出身の店主が個人経営している小さな店だ。
注文を受けてから目の前で麺を手打ちしてくれるのだからラーメン好きにはたまらない。

麺はかん水(かん水とは、麺に腰を与え風味をよくする添加物のこと)を使わず小麦粉と塩とサラダ油のみで作る。伸ばして叩いてダイナミックに打つそれはまさに職人芸だ。

私は、台湾手打ちラーメンを注文した。

店主は注文を受け手打ちの準備に入る。
いよいよ職人芸が見れる。

すると店主は私を人情味あふれる笑顔で見て、
「太麺と細麺どちらにしますか?」
と言った。

え?

私は一瞬答えに詰まってしまった。

太麺か。細麺か。
どちらにしたらいいのか。

違いはなんですか?とわざわざ聞くのもちょっと。
太さが違うだけなのだから。

瞬時に過去の数少ない経験を思い起こしてもみたがとんと正解は見いだせない。

太すぎるのも細すぎるのも、なにか違うような気がするのだが、
結局のところどちらでもいいのだ。

でも。

どちらでもいいですと答えると店主はどういう顔をするだろう。
どっちかにしてよ、と言いたくなるに違いない。

一瞬答えが詰まった時間、およそ2秒から3秒。
その間超高速で悩んだ末どちらかといえば細麺かな・・という結論めいた思いが湧き上がりかけたその時、

「普通にしますか?」
と店主が言った。

え?普通もあるのと思いながら、すぐさま普通でお願いしますと答えた。


「お待ちどうさま」
出来上がったラーメンが運ばれてきて、まずはスープを飲む。
美味い。素朴な味だ。
この田舎料理の味噌汁を思わせるあっさりとした味。
絶品である。
そして手打ち麺をすする。
美味い。
参りました。
こんな美味いラーメンは久しぶりである。


「いらっしゃい」
新客が一人カウンターに座り、
台湾手打ちラーメンを注文する。

やはり、定番か。

店主は手打ちの準備をしながら、
「太麺と細麺どちらにしますか?」
と聞く。

新客はすかさず、
「おすすめはどっち?」
と言った。

なるほど。

そういう切り返しがあったか。
その答えを聞きたい。

私は聞き耳を立てる。

店主は一瞬考えたのち、

「やっぱり普通かな」
と言った。




*******************

お読み頂きありがとうございます。

もしかして「クスッと」いたしましたら
「スキ」を押して頂けますと幸いでございます。
kawawano

小さな喜びの積み重ねが大きな喜びを創っていくと信じています。ほんの小さな「クスッ」がどなたかの喜びのほんの一粒になったら、とても嬉しいなぁと思いながら創っています。